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「子どもには、少しでも体によいものを食べさせたい!」ですよね。
でも、ごはんは毎日のこと。なるべくシンプルで簡単に済ませたいものです。
この連載では、『医師が教える 子どもの食事 50の基本』の著者で、赤坂ファミリークリニックの院長であり、東京大学医学部附属病院の小児科医でもある伊藤明子先生が、最新の医学データをもとに「子どもが食べるべきもの、避けるべきもの」をご紹介します。
不確かなネット情報ではなく、医学データと膨大な臨床経験から、本当に子どもの体と脳によい食事がわかります。毎日の食卓にすぐに取り入れられるヒントが満載です。
※食物アレルギーのある方は必ず医師に相談してください。

鉄と亜鉛の欠乏で、情緒不安が起きることがあります

 鉄が不足・欠乏しているだけで、いら立つ、すぐキレるなどの情緒障害になりやすく、暴力的・攻撃的になることもあります[*18]。
 また、亜鉛の不足・欠乏でも気分が沈みやすくなる、集中できないなどが起きることがあります[*23]。

 鉄の欠乏で鉄欠乏性貧血になることはご存じの方も多いと思いますが、亜鉛欠乏性貧血もあります。これはよく見られる症状の1つで、鉄はギリギリ足りていても、亜鉛が欠乏しているために起きる「貧血」です。さらにはビタミン欠乏性貧血という症状もあります。
 血液中の亜鉛の数値が基準範囲内でも、実際には足りていない場合が多く、最適レベルまで上げたほうがよいでしょう。

 ちなみに医学の世界では、不足と欠乏は次のように異なる意味なので、使い分けをしています。基準範囲内だったとしても、ギリギリの数値の場合は、注意が必要です。

 ●不足 = 血液検査の数値で基準範囲内ではあるものの、機能するには足りないレベル
 ●欠乏 = 血液検査の数値で基準を下回っているレベル

 鉄と亜鉛の両方が欠乏している貧血は身体症状にとどまらず、脳の神経の作用にも影響します。ですから片方だけの症状よりも困りごとが大きくなります[*114]。

ダブルで不足すると、不安感がさらに強まります

 鉄と亜鉛、どちらの不足・欠乏も不安を強くします。ですから、両方が不足・欠乏すると、さらに強い不安を感じるでしょう。

 鉄の不足・欠乏で、記憶や高次機能を担当する海馬の機能低下、脳の情報処理速度の低下、気力の低下、学習障害、朝起きられない、学校に行けないといった症状の現れる「起立性調節障害」のリスクが上がります。
 身体面では、めまい、立ちくらみ、易(い)疲労、息切れなどが生じ、幼少期はあまり自覚がなくわかりにくいのですが、目に見えない脳のなかで影響が起きています。

 亜鉛の不足・欠乏では、皮膚炎、口内炎、免疫力の低下、成長障害などが知られています。脳内では、うつ、記憶力低下などに関与していることがわかっています。もともと亜鉛は脳の記憶の場である海馬と大脳皮質に多く存在しているからです。

 鉄が足りないところに亜鉛も足りないと、ほかにも「起こりやすくなる」不調があります。免疫力の低下はもとより、メンタル面では、うつ、不安神経症、チックなどです。
 チックのお悩みで当クリニックを訪れる親子も多くいらっしゃいます。血液検査を経て、鉄と亜鉛の処方(ほかに不足・欠乏しているものがあればそれらも必ず補充)をすると、波はあるものの、ゆっくり改善していく場合がほとんどです。

自閉症、ADHD、発達障害の子どもにも、鉄・亜鉛欠乏が見られることがあります

 当クリニックでは、発達障害のお子さんをよく診ています。軽い症状から重い症状まで、生後0歳から17歳、あるいは大人のADHDの方まで、たくさんいらっしゃいます。
 これらの子どもたち、大人の方たちは、ほぼ100%、鉄と亜鉛が不足、もしくは欠乏しています。発達障害があると、より不足・欠乏しやすいことが研究でわかっているので、注意が必要です。
 全員ではありませんが、自閉症の子どもで癇癪(かんしゃく)がひどい場合も、鉄と亜鉛を処方で補充していくと、数ヵ月後には癇癪の回数がめっきり減るケースが多く見られます。
 また発達障害ではないお子さんが、「何となくむかつく」といつも言っていたので、鉄と亜鉛を処方したところ、おだやかな性格に戻りました。

鉄と亜鉛で成績アップ

 鉄・亜鉛の補充により学校の成績が上がることも研究で示されています。実際、私のクリニックで診察している子どもたちは、食事指導と補充療法後に、勉強への取り組み姿勢が変わり、それまでは受験を考えていなかった子が積極的に進学について相談してくるようになったりしています。

 このほかにも『医師が教える 子どもの食事 50の基本』では、子どもの脳と体に最高の食べ方、最悪の食べ方をわかりやすく紹介しています。

(本原稿は伊藤明子著『医師が教える 子どもの食事 50の基本』から一部抜粋・編集したものです)

*18 加藤陽子. 小児と思春期の鉄欠乏性貧血. 日内会誌. 2010 6月10日; 99(6):1201-1206.
*23 Petrilli MA, et al. The Emerging Role for Zinc in Depression and Psychosis. Front Pharmacol. 2017 Jun 30; 8:414.
*114 許斐亜紀ら. 鉄・亜鉛の単独および同時欠乏が血漿中各種ミネラル濃度に与える影響.
Biomed Res Trace Elements. 2007; 18(3): 281-285.