VTR1000F FireStormは追い越し加速で CBR900RRを上回るスーパーツインだった!【このバイクに注目】(このバイクに注目)
ビッグツインでスーパースポーツを目指す
1996年に発表されたVTR1000F・ファイヤーストーム。ツインのポテンシャルをホンダを支えてきた看板エンジンの4気筒に対し、これを凌ぐレベルまで開発しようと注力したマシンだ。
ただそのフォルムからツーリングスポーツ的な位置づけでイメージされ、ホンダのスポーツバイク史上で際立った存在としては見られていない。
しかし知る人ぞ知る、実は当時のCBR1100XXブラックバードや、かのCBR900RRを凌ぐパフォーマンスの、紛れもない超スポーツマシンだったのだ。
1977年、ホンダは初のV型エンジンとして4ストローク水冷縦置V型ツインを搭載したGL500を発表、さらに1982年に理論上の1次振動を解消し、スムーズで静粛性に優れ高出力化を実現する90度V型4気筒のVF750セイバーがデビュー。
この画期的なV4は、VF400/VF750シリーズ等でさらなる熟成を加えながら、ホンダのエンジンバリエーションで大きな位置を占めるまでになった。
そうした多気筒マルチが優位とされる大型スーパースポーツに対し、蓄積を積み上げてきたVツインのテクノロジーを駆使し、次世代を狙う高効率のスーパースポーツの開発に踏み切ったのがVTR1000F FireStormだったのだ。
996ccの新Vツインは、最高速、最高出力、限界性能だけを追求するのではなく、そのポテンシャルに到達するまでの過程そのものを重要視、ある車速からある車速へ加速する時の、Vツイン特有の“加速感や挙動、鼓動や音”を体感でき、誰でも容易に“快感の走り”を堪能できることを目標とした。
エンジンな各部に最新テクノロジーを注ぎ込み、吸排の徹底した高効率化から、点火系の前後マップの最適化に至るまで、そのレスポンスを鋭いだけでなく力強さが前面にでる仕様を追求した。
そして狙ったTOPロールオン加速(トップギア80km/hの巡航時に、スロットルを全開にして400mに達するまでの加速性能)で、CBR900RRからハイパーの象徴だったCB1000XXさえも凌ぐ、名実ともにVツインスポーツNO.1のパフォーマンスを得ていたのだ。
ツインだから狙える合理性を追求従来の常識を覆す革新的な車体づくり
最新Vツインのスーパースポーツとしての車体は、メリットであるスリムさの追求でスイングアームのピボットをエンジンのクランクケース後端に設ける手法で、フレーム本体のピボットレス化を実現。
またラジエーターを常識的なエンジン前方から両サイドへ振り分ける、量産車としては画期的な構成で前輪荷重のバランス設定から各種アライメント設定まで、ひたすらハンドリング最優先の設計が徹底されていた。
その象徴として前後のサスペンションは、CBR900RRなどスーパースポーツだけに採用されていたカートリッジタイプの減衰機構も採り入れ、当時の仕様では最高レベルをすべてに纏った仕様だった。
しかし、もういっぽうにスーパースポーツの常識を打ち破る個性を重んじたコンセプトを背負っていたことから、スリムなエンジンが垣間見えて趣味性を感じさせるハーフカウルとしたことが、一般的なイメージをスーパースポーツとして捉えない位置づけにしてしまったのは紛れもない事実だろう。
レーシーなルックスを避けた考え方はツーリングイメージが強いまま評価されず
こうして優れたハンドリングに、強烈な中間加速というパフォーマンスは、日本製Vツイン・スーパースポーツの頂点モデルとしての実態を持ちながら、とくに派手な注目を浴びることなく過ぎてしまう運命にあった。
Vツインで表立ったレース活動をしていなかったことも、VTR1000F FireStormのパフォーマンスが伝わらなかった一因でもある。
しかしツーリングからワインディングのスポーツライディングまで、乗れば醍醐味を楽しめるキャラクターは、知る人ぞ知るオーナーを虜にし続けてきた。
そんなノウハウを積み上げた実績から、ホンダの開発する最新Vツインのスーパースポーツを見てみたいと期待するファンは少なくないはずだ。