取引先へ手土産を持って行ったときなどによく使う「お召し上がりください」という言葉。何気なく使っている人も多いはずですが、実はこの表現は厳密には間違った表現だといいます。

本記事では、「お召し上がりください」がなぜ間違いなのかを解説するとともに、目上の人に「食べてください」と伝えたいときの正しい敬語表現や使い方を紹介します。また、シーン別に使える例文や類語・言い換え表現も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

「お召し上がりください」の意味とは?



まずは、「お召し上がりください」の意味を確認しましょう。

「お召し上がりください」の意味は、「食べてください」あるいは「飲んでください」になります。自身で持ってきたお土産や差し入れ、または手料理などを食べてもらうときに使われている表現です。

「お召し上がりください」という敬語は間違い?



普段何気なく使っている「お召し上がりください」という言葉が、厳密な敬語のルールに照らし合わせると間違っている、ということは意外と知られていません。ここでは、なぜ誤りなのかくわしく解説していきます。

尊敬語が重複する二重敬語

「お召し上がりください」は、「召し上がる」に尊敬語の「お」をつけた表現ですが、実は「召し上がる」という言葉はそもそも「食べる」の尊敬語にあたります。

つまり、「お召し上がりください」は、尊敬語にさらに尊敬語を重ねていることになり、敬語表現が重複した「二重敬語」となってしまうのです。

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一般化しているため許容されることが多い

二重敬語にあたるため厳密には誤りとなる「お召し上がりください」ですが、この言い回しが浸透しているので、基本的には使っても特に問題はないとされています。

2007(平成19)年2月に文化庁が発表した「文化審議会答申」の中でも、本来二重敬語は適切な表現ではないものの、習慣として定着している言葉もあり、その一例として「お召し上がりください」を挙げています。

文化庁が習慣化していると認めている表現なので、日常生活で使っても許容されると考えていいでしょう。

参照:文化庁「文化審議会答申敬語の指針」

そのほかの二重敬語の例

一般的には違和感がないレベルで浸透しているのに、実は二重敬語という言い回しはほかにもあります。

例えば、取引先が来社したことを上司に報告する際、「お見えになられました」という言葉を使っていませんか? 実はこの言葉も尊敬語の「お」と「られる」が重複している二重敬語。正しい言い方は、「お見えになりました」です。

また資料などをメールで受け取ったとき、「拝見させていただきます」と返信している人もいるでしょう。しかし、「拝見する」は「見る」の謙譲語で、「させていただく」も「させてもらう」の謙譲語。こちらも謙譲語が重複した二重敬語となります。

「お召し上がりください」の正しい使い方



習慣として定着しているといっても、敬語を正しく理解している人には「お召し上がりください」という表現は誤りだとわかってしまいます。社会人としては、どのような相手にも違和感を与えない表現を使えるようにしておきたいところです。

「召し上がってください」が正解

敬語で「食べてください」「飲んでください」と伝えたい場合は、「召し上がってください」とするのが正しい使い方になります。

重複した尊敬語のうち、「お」の要素を省くだけです。「お召し上がりください」に慣れ過ぎて、「何だか丁寧さに欠けるな」と感じてしまう人もいるかもしれませんが、本来はこちらが正しい表現。これだけできちんと敬語になっているので、自信を持って使いましょう。

より丁寧な表現にするなら?

それでも「召し上がってください」だと少し物足りないと感じる場合は、次のような言葉を添えると、より丁寧な気持ちを加えて伝えることができます。

・「よろしければ〜」

「もしよろしければ」というひとことを文頭に添えると、より丁寧な印象です。

・「ささやかですが〜」「心ばかりですが〜」

「ささやかですが」「心ばかりですが」はいずれも相手のプレッシャーを緩和する表現として使えます。ただし相手にも価値が分かってしまうほど高価なものには向かないので注意しましょう。

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「お召し上がりください」の例文



「お召し上がりください」を使っても問題ないですが、今回は本来の正しい表現である「召し上がってください」として使う場合の例文を紹介します。

取引先や職場にお菓子の差し入れをするとき

「心ばかりですが、よろしければみなさんで召し上がってください。」

会食の主催者として挨拶をするとき

「本日は、お集まりいただきありがとうございます。ささやかではございますが、食事を用意しました。どうぞ召し上がってください。」

お世話になった人に贈る食品に手紙を添えるとき

「いつもお世話になり、ありがとうございます。よろしければぜひ召し上がってください。」

「お召し上がりください」の類語や言い換え表現



「召し上がってください」以外にも、「食べてください」の敬語表現にあたる言い回しはあるのでしょうか?

お食べください

「お食べください」という表現も、「食べてください」の敬語表現にあたります。「召し上がってください」を言い換えたい場合は、「お食べください」を使っても問題はありません。

ただし、ややフランクな印象になるので丁寧な言い方をしたい場合は「召し上がってください」を使いましょう。

なお、「食べられる」も「食べる」の尊敬語になるため「食べられてください」も間違いではありませんが、受け身の「られる」と誤解される可能性もあるので避けた方が無難です。

ご笑味ください

「ご笑味ください」は「つまらないものですが、どうぞ笑って味わってください」という意味で、謙遜の気持ちが込められた表現です。食べ物を贈る際に使う言葉なので、召し上がってくださいの代わりに使うことができます。

同じ「しょうみ」という読み方で「ご賞味ください」という言葉もあります。しかし、「賞味」には「ほめたたえる」という意味もあるので、目上の人には使わないよう注意してください。

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「お召し上がりください」の英語表現

「お召し上がりください」の英語表現

「お召し上がりください」を英語ではどのように表現するのかも確認しておきましょう。

シンプルに「Please eat.」や「Please enjoy your meal.」は「召し上がってください」の英語表現として使えます。

ビジネスで英語を使う機会がある人は、ぜひあわせて覚えてみてください。

○「お召し上がりください」を正しく使おう

普段よく見聞きする「お召し上がりください」ですが、本記事で紹介したとおり、本来は二重敬語です。習慣化しているので一般的には許容されていますが、気にする人もいるかもしれないので正しい使い方も覚えておくといいでしょう。

また、言い換え表現も覚えておくとシーンに応じて使い分けることができます。ぜひ参考にしてみてくださいね。