首都圏企業の転出超過、 過去20年で最多に 転出企業、19年比1.4倍 コロナ禍で「脱首都圏」続く
首都圏の企業転出入、2年連続転出超過に 超過社数は77社、過去20年で最多
2022年(1-12月間)における、首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)から地方へ、本社または本社機能を移転した企業は335社判明した。調査開始の1990年以降で最多だった前年の351社からは16社減少したものの、コロナ禍直前の19年からは1.4倍に増加、過去2番目の多さを記録し、コロナ禍以降、首都圏外へ本社を移転する流れが続いた。一方、地方から首都圏へ本社を移転した企業は258社となり、前年(328社)からは2年ぶりの減少となった。地方の成長企業などを中心に首都圏へ本社を移す動きが弱まり、過去20年で最少件数を記録した。コロナ禍当初は、急激な環境変化を理由に業績が急変し、オフィス賃料などランニングコストの高い首都圏から地方へと移転する動きが急増した。首都圏外へ移転した企業のうち、移転年の売上高が前年から減少した割合は2020年で57%と半数を超え、リーマン・ショック直後の09年(61%)に次いで高かった。
一方で、ウェブ会議を活用したビジネススタイルや、リモートワークなど場所に縛られない多様な働き方が半恒久的なものとして定着している。従業員や勤務地、本社機能の集約する必要性が薄れるなか、これまで課題だったBCP(事業継続計画)対策としてのリスク分散として首都圏外へ拠点を設けるケースが増えている。加えて、地方で新たなビジネスに挑戦したいといった前向きな移転需要も底上げし、首都圏の企業吸引力は以前に比べて相対的に低下傾向もみられる。また本社移転には該当しないものの、首都圏の本社機能やワークスペースを削減・縮小し地方へ拠点を分散化する動きも、大手・中堅企業を中心として引き続き活発だった。
移転先は41道府県、1990年以降で最多 首都圏近郊から遠隔地へ移転範囲が拡大
首都圏からの移転先として最多だったのは「茨城県」の34社で、2018年以来4年ぶりの首位となった。次いで多い「大阪府」(30社)は3年ぶりに減少した。3位の「愛知県」(24社)は、2年連続で前年を上回ったほか、首都圏からの転出先としては1990年以降で最多だった。移転先となる地域は41道府県となり、1990年以降で最多だった。これまで、首都圏からの本社移転先は大都市部、北関東3県など首都圏近郊エリアが多かった。しかし、リモートワークが定着したことで、遠隔地のほか、人口密度の低い地方・中核都市が本社移転先の有力候補に新たに浮上している。首都圏からより離れた遠隔地や人口密度の低い中核都市・地方都市も、移転先の有力な候補となっている。
コロナ前(2017〜19年)に比べ、コロナ後(2020〜22年)で首都圏から移転した企業が急増している地域もみられる。各3年間における移転社数合計を比較すると、コロナ前に比べコロナ後の移転社数が多い移転先は「北海道」だった。コロナ前の28社から、コロナ後は56社と倍増したほか、首都圏からの移転社数としては20年に単年で過去最多の33社を記録した。サテライトオフィスをはじめ首都圏企業の拠点化も進んでいたなか、コロナ禍を契機に本社機能や研究施設、ワーキングスペースなどの受け皿として注目されていることが背景にある。「宮城県」(17→33社、+16社)、「静岡県」(54→69社、+15社)、「愛媛県」(2→16社、+14社)なども、コロナ前に比べ首都圏企業の移転が増加した。
首都圏に移転した企業の転入元で最も多いのは「大阪府」の57社だった。次いで「愛知県」(27社)、「北海道」(19社)などが多く、21年に比べて大きな変動はなかった。
首都圏からの転出、ソフトウェア開発が過去最多 製造業は10年ぶりの多さ
首都圏から転出した企業の業種は、「サービス業」が129社で最も多かった。同業種としては過去最多だった2021年の156社に次いで2番目の高水準だった。なかでも、ソフトウェア開発やベンダー、ドローン開発など先端技術産業も含めたソフトウェア産業が29社あり、サービス産業全体の2割超を占めた。次いで多い「製造業」(68社)は、前年(51社)から大幅に増加したほか、12年以来10年ぶりの60社超えを記録した。特に、肉製品やビール醸造といった業種を含む食品産業が多く12社に上った。食品産業における首都圏外への移転はコロナ後に増加しており、単年としては1998年と並ぶ過去最多を記録した。「小売業」(35社)では、飲食店などを中心に転出がみられ、社数でも過去最多となった。首都圏からの本社移転は、総じて物流センターや工場など大規模な施設の新築・移設を前提とする製造・流通業種ではなく、ソフトウェア開発など比較的移転の容易な業種で多くみられた。首都圏外への移転における動機も、安価な土地価格や物流アクセスの利便性以外に、食品産業などでは水資源をはじめ自然環境の豊かさ、ドローン産業などでは人家が少なく研究開発に適した閑散地帯など、各産業のニーズに即した新たな基準が加わりつつある。
首都圏への転入でも、「サービス業」が98社と最も多かったものの、過去2番目の高水準だった前年(124社)から26社減と大幅に減少した。2013年(97社)以来9年ぶりの100社割れとなったほか、過去10年では最少だった。「卸売業」(41社)では、1998年(33社)以来24年ぶりの低水準を記録したほか、トラック運送などを中心とした「運輸・通信業」(7社)は前年から半減し、5年ぶりに10社を下回る少なさだった。
企業の「脱首都圏」続く可能性大 「働くヒト」や「ストーリー性」など、移転理由も多様化へ
人事や総務部門など企業活動における「コア機能」としての本社は、テレワークやウェブ会議などITツールを導入した結果、運用面で大きな問題が発生している評は多くきかれない。むしろ、より低コスト・低リスクで効率的な運用が可能となったなど、コロナ禍前では実感しにくかったプラスの側面も明らかになり、首都圏に必ずしもオフィスを置く必要性がないという企業の認識は「一過性」の現象から半恒久的なものへと定着しつつある。この結果、長く続いた首都圏の企業吸引力はITバブル崩壊直後の2002年以来となる弱まりを見せており、テレワークなどコロナ禍に対応したビジネス環境の定着にともない、企業の「脱首都圏」の動きは当面続くとみられる。一方で、2022年に首都圏外へ移転した企業には、コロナ禍による経営悪化でオフィス賃料が安い地方を選ぶ消極的なケースも依然としてあったものとみられる。移転先も創業の地など所縁のある場所、事業所や工場など拠点が既にある地に限られ、新たに進出する形での本社移転は少ないなど、本社移転の内容には偏りがみられる点も課題として残る。他方で、工業団地の整備や助成金といった「モノ・カネ」中心の移転から、生活環境など「働く“ヒト”」のエンゲージメント向上、製品品質の向上といった「ストーリー性」など、これまでと異なる判断材料も加わっている。移転先での人材確保など課題も残るものの、こうした判断材料の出現で積極的に「選ばれなかった」地方都市にも十分な勝機が見込まれ、企業の移転先はより広範囲にわたる可能性がある。