かつてはLINEと同等程度に普及していた国産SNSmixi(ミクシィ)」が、再び注目を集めつつある。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「mixiは少数の友人と匿名でゆるくつながることができる。TwitterやFacebookでは炎上リスクが怖いという人たちにとって、気楽に使えるSNSとして復権しつつある」という――。
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■Twitterユーザーはどこに移ればいいのか

昨年10月、イーロン・マスク氏に買収されて以来、Twitterの迷走が続いている。コスト削減のために大量の従業員が解雇されており、サービスの維持ができなくなるとの臆測が飛び交っている。

今年1月には、米CNBCテレビが「買収前に約7500人いた従業員が、5分の1以下となる約1300人まで減少している」と報じた。今年2月には大規模な障害が起き、ツイートできない状態にもなった。

そんな中、筆者の周囲では「mixiにハマっている」という人がジワジワと増えている。たとえば筆者の友人の40代男性はこう話す。

「Twitterがなくなるかも、困ったと思った時にふとmixiを思い出した。実はmixiボイスはTwitterとほぼ同じだし、コミュニティ機能もある。久しぶりに覗いたらまだ使っている友だちがいて、『ありかも』と懐かしくなった」

■19年前に誕生した「国産SNS」mixi

mixiとは、2004年3月にサービスを開始した、趣味で繋がるコミュニティアプリだ。自分のページに日記や写真を投稿する以外に、互いに「友人」関係として登録した「マイミクシィ」(マイミク)と交流したり、同じ趣味や関心ごとを持つ人たちが集まる「コミュニティ」でさらにつながりを広げたりできる。

mixiボイス(つぶやき)はTwitterと似た機能であり、日記を書くまでもない何気ない一言をつぶやける場だ。利用者がページを訪問した履歴を確認できる「足あと」もmixiならではの機能のひとつであり、なくなった時にはユーザーの離反を招くほどの支持を受けていた。コメントなどをしなくても存在を感じられる、代表的なゆるいつながり機能だ。

■スマホ対応が遅れ、LINEやTwitterに大差

mixiが誕生してから19年。かつては日本有数のSNSだった。ユーザー数は2007年に1000万人、2010年には2000万人を突破。総務省情報通信政策研究所の調査によると、2012年でのmixiの利用率は全世代で16.8%と、LINE(20.3%)に次いで多く、Facebook(16.6%)、Twitter(15.7%)を上回っていた。

しかし、その後は減少傾向で、2021年には2.1%。LINE(92.5%)、Instagram(48.5%)、Twitter(46.2%)、Facebook(32.6%)に圧倒的な差をつけられている。

「令和3年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」より

いまmixiはどうなっているのか。筆者もログインしてみたところ、タイムラインには懐かしい名前の日記やつぶやきが並んでいた。全員、他のSNSに移行したとばかり思っていたが、他のSNSではつながっていない人もいて、懐かしい気持ちになった。

筆者提供
筆者のアカウントに表示されたタイムライン。1時間〜1日以内にログインしている人が並ぶ - 筆者提供

マイミク一覧を確認すると、全盛期には及びもつかないが、ログイン中、あるいは数時間前にログインした友だちが並んでいた。確かにたった今、かつてのマイミクたちがログインし、利用しているのだ。

■「Twitterが怪しくなってきたので…」

現在人気のコミュニティには、新たにマイミクを探す人たちが多く集まっている。書き込まれている内容を見ると、居住地は全国津々浦々、年齢層は20〜60代と幅広く、アニメやゲーム、野球観戦、料理、旅行など自分と趣味が合う人を探している。

「さっき始めたばかりの初心者です」「コメントしあえる人が欲しいです」という人のほか、「Twitterが怪しくなってきたので10年ぶり位に戻ってきました」「また流行りだしたので出戻り」「浦島太郎状態です」という書き込みも目立つ。

最近の流行を追って参加した初心者と、10〜20代のころに利用していて、十数年の時を経て再び参加した“古参”が入り混じった状態のようだ。かつての自分の日記を読み返して楽しむ人や、「黒歴史」に耐えられずアカウントを作り直したという人もいた。

■Z世代にとっては「未知」のSNS

もともとmixi文化に親しんでいたオトナ世代にとって、mixiへの“移行”は簡単かもしれないが、Z世代はどうだろうか。

大学生に聞くと、InstagramやTwitterはほとんどの学生がアカウントを所持している。TikTokを使っている学生も多い。チャットツール「Discord」のほか、今年2月3日にサービス終了した位置情報共有アプリ「Zenly」も人気が高く、写真共有サービス「Pinterest」を使う学生もいる。

「起きている間はずっとスマホを開いて、何らかのSNSを見ている」と話す大学生は珍しくない。ところが、Facebookになると利用率はほぼゼロ。ましてmixiの話をすると、「知らない」「よくわからない」「親から名前は聞いたことがあるかな」となってしまう。

実際、15〜24歳を対象としたSheepDogの「mixiに関するアンケート」(2022年7月)によると、mixiについて49%が「知らない」、37%が「知っているが利用したことはない」となっている。

■「SNS疲れ」に悩まされる現代人たち

しかし、今後Z世代の間でもmixiが広まる可能性は十分にある。それはmixi独特の文化が今の時代に合っているからだ。

いまや、日本人の約8割がSNSを利用しているが、「SNS疲れ」に悩む人も少なくない。野村総合研究所の調査では、Z世代の50%、とくにZ世代女性では61%が「SNS疲れ」になっているという。この調査では、全世代から「他人同士の交流など、知らなくていい部分まで見えてしまう」という点がSNSのデメリットとして指摘されている。

SNSでの不特定多数の人との交流にストレスを感じ、SNSの連絡先やアカウントを突然消す「人間関係リセット症候群」になる人も増えている。友だちが増えすぎ、つながりすぎたことで投稿できないことが増え、ストレスも増しているという。

■少数の友人とゆるくつながれる場

このようにSNSに疲れた人たちにとって、mixiはぴったりの存在かもしれない。

mixiの「mixiの利用実態」(2022年12月)によると、「現在マイミクの中で交流のある人は何人いるか」という質問に対して、「2人」が27.6%、「5人以上」が25.3%、「10人以上」が23.6%で、つながりの数は決して多くないことがわかる。

「マイミクはどんな人たち(複数回答)」では「mixiで知り合って顔を知らない人」が最多の51.3%だったが、「仲のよい友人」(47.2%)と「mixiで知り合って顔を知っている人」(39.8%)の割合も多い。この結果から、リアルの友人とネット上の友人のバランスを保ちつつ、少数とゆるくつながれる場となっていることが読み取れる。

mixi「mixiの利用実態」より

■「まったりTwitter的に使うのもいいな」

冒頭で紹介した40代男性は、「他のSNSも使っているけれど、社会的立場ができて使いづらくなっていて。年代が上がり役職がつき、SNSでの発言内容に注意しなければならなくなった」と話す。

「mixiのころは若くて、利害関係がない人としかつながっていなかった。しがらみがない関係で、匿名でまったりTwitter的に使うのもいいな、と。足あとも復活していたし、複数アカウントの切り替えもできる」

mixiはかつて日本有数のSNSだっただけのことがあり、必要十分の機能が整っている。さらに、Z世代にとってもオトナ世代にとっても「SNS疲れ」が課題となっている今の状況では、気楽に親しい人とのみつながるSNSとして受け入れられやすいだろう。

このままTwitterは終わってしまうのか。そしてmixiが復権するのか。読者のみなさんはどう感じているだろうか。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。
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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)