2023年2月から放送中の『ひろがるスカイ!プリキュア』(画像引用:公式サイト

「だから!私たちは!!絶対負けない!!」「自分を大切にして何がいけないのよ!」 ――。

初代の『ふたりはプリキュア』の放送から、早20年。ついにプリキュアが、シリーズ放送開始から20周年を迎えた。時代とともに、進化し続けるプリキュアはつねに話題が絶えない。

東京・池袋のサンシャインシティでは、2023年2月1日〜2月19日まで『全プリキュア展〜20th Anniversary Memories〜』が開催中だ。全プリキュアシリーズの軌跡を辿る、今回の展覧会はチケットが売り切れの状態が続く。

会場は、若い女性だけでなく、小さな子供から男性までさまざま。世代や性別関係なく、多くのプリキュアファンが訪れ、当時発売されたおもちゃを懐かしむ声や、思い出のあるプリキュアシリーズに歓喜する声であふれていた。

写真撮影がOKな展示物が多く、来場者同士で写真を撮るのに譲り合う光景は、プリキュアがアニメを通して教えてくれた思いやりの世界を体現しているかのようだった。

時代を切り開く、新しい「価値観」

プリキュアの1作目は、2004年の『ふたりはプリキュア』だ。コンセプトは「女の子だって暴れたい!」。

1990年代に放映された『美少女戦士セーラームーン』や『魔法騎士レイアース』を代表とする、「戦う魔法少女」とは、また一味違った作風だ。


『ふたりはプリキュア』(画像引用:公式サイト)

『ふたりはプリキュア』は運動神経抜群で勝気な美墨なぎさと、頭脳明晰でお嬢様な雪城ほのかが、伝説の戦士・プリキュアに変身し、「光の園」を守るため、悪の組織「ドツクゾーン」を倒すストーリーだ。

素手で敵と戦い、プロレスさながらの技を繰り出す、バトルシーンに当時は驚いた人も多かっただろう。女の子だから……という概念を取り払い、衣装もピンクではなく白と黒。個性の異なる者同士が本気でぶつかり合って友情を育んでいくコンセプトは、まさにすべてが新しかった。

『ふたりはプリキュア』以降も、プリキュアは時代とともに進化し続け、そのたびに視聴者たちはプリキュアからいろんなことを教わった。

『ハートキャッチプリキュア!』では、「心の大切さ」をテーマに人が誰でも持つコンプレックスを知り、『Yes!プリキュア5』では、お互いの個性を認めて助け合うこと教わった。そして、『デリシャスパーティ♡プリキュア』では、「ごはん」をテーマに、皆でごはんを食べる喜びやシェアする喜びを学んだ。

各テーマを軸に友情を育む術や人との関わり方が巧みに描かれているのも、プリキュアの素晴らしいところだろう。各時代のシリーズごとに繰り広げられた、プリキュアたちの勇気と名言は、今でも視聴者の思い出とともに残っている。

そして、2018年に放送された『HUGっと!プリキュア』では、それまでのプリキュアのイメージから一変。「育児」をテーマの1つにして、ワンオペ育児の問題や社会的な問題を取り入れつつ、多様な価値観が丁寧に描かれている。

『HUGっと!プリキュア』は主人公・野乃はなが、空から降ってきた不思議な赤ちゃんを守るため、プリキュアに変身して、悪の組織「クライアス社」と戦うストーリーだ。

野乃はなが周囲の大人たちの力を借りて、仲間たちと協力しながら、一生懸命に育児をしている姿は多くの反響を呼んだ。また、育児だけではなくジェンダーに切り込んだ本作は、まさに次世代へのメッセージだった。


『HUGっと!プリキュア』(画像引用:公式サイト)

ジェンダーにも切り込んだプリキュア

作中に登場する、天才スケート選手の若宮アンリのキャラクターは、SNSでも話題になった。

若宮アンリは氷上の王子を自称するように性自認は「男性」だが、「女の子らしさ」「男の子らしさ」といった価値観に捉われず、「自分に似合うから」という理由で女性用ドレスも着こなす。学校で男子生徒にからかわれても、毅然とした態度で自分の意見を語る、誇り高いキャラクターだ。


若宮アンリ(画像引用:公式サイト)

しかし、以前から痛めていた足の古傷が悪化し、さらなる悲劇で交通事故に遭ってしまう。その事故により左足の感覚が完全に失われ、いっさい動かすことができなくなってしまったのだ。

絶望の末に、プリキュアの敵の闇に取り込まれそうになるも、自分自身がかつて抱いていた希望を思い出すことで、アンリも一時的にプリキュアに変身し、敵と戦うプリキュアたちを勝利に導いた。

主人公・野乃はなの「男の子だってお姫様になれる!」というセリフや、アンリの強い心は未来を生きる子供たちや現実を生きる私たちへの強いメッセージだったのではないだろうか。

ネット上では当時、アンリがプリキュアになったことが話題になっていた。

しかし、作中では「男性でありながら、プリキュアになれた」とするような過剰な演出はされておらず、「若宮アンリが再び立ち上がること」のほうに重点を置いていた。

決して価値観を押し付けるのではなく、「誰だってなりたい自分になれる」というメッセージが込められている。

女の子が仮面ライダーを好きなってもいいし、男の子がプリキュアを好きなってもいい――。作品を通して「多様な価値観」を自然に子供たちに伝え続けたこともプリキュアの偉業と言えるだろう。

プリキュアを通して多様な価値観を受け入れる

プリキュアは、『ふたりはプリキュア』のジェンダーロールの脱却から始まり、個の尊重や多様な価値観を積極的に取り入れてきた。

しかし、プリキュアは「ジェンダー意識を変える」ことが主目的ではなく、あくまでも子供たちが楽しめるアニメを前提として制作されている。

プリキュア』の主なターゲットは、保育園や幼稚園、小学校など家庭以外の場に身を置くようになり、環境が変わってくる年頃の子供たちだ。

家族とは違う「他者」と関わり、自分とはまったく違う価値観に初めて触れることになる。新しいものに触れ、自分とは違うものを受け入れて、学んでいく時期にあたる。

プリキュアを通して、「多様な価値観」を自然に受け入れ、可能性を広げてほしいという制作側の思いが込められているのだ。

また、『プリキュア15周年アニバーサリー プリキュアコスチュームクロニクル』(講談社)によると、キャラクターデザインにも徹底的にこだわっていることがうかがえる。

『Go!プリンセスプリキュア』では、ひとりのキャラクターでも4〜6パターンのドレスが制作され、歴代のプリキュアたちの髪型にも、トレンドを取り入れたり、子供たちが真似しやすいように工夫されている。

そして、初代の『ふたりはプリキュア』制作時は、戦うシーンでは決して相手の頭を攻撃しない、スカート感を重視せず、中は見せないなどを大切にしていたことが綴られている。改めて制作サイドの真摯な姿勢に胸を打たれてしまう。

20周年を振り返ると、プリキュアの歴史はまるで作り手と受け手の「結晶」のようだ。

「史上初」が多いプリキュア新シリーズ

2023年2月5日からは新シリーズ『ひろがるスカイ!プリキュア』が放送されている。

メインキャラクターとして初の男性プリキュアや、主人公のカラーが「ピンク」ではなく、青だったりと「史上初」の多さに話題が尽きない。

プリキュアはこれからも視聴者の私たちを励まし続けてくれるだろう。今までプリキュアを見たことがない人も、ぜひプリキュアの世界に一度ダイブしてほしい。きっとお気に入りの作品が見つかり、心に響くはずだ。

(Tajimax : ライター・コレクター)