戦車以上に重要? ウクライナ切望の「重量物運搬車」とは 作戦を左右する縁の下の力持ち
2022年1月下旬、ドイツはウクライナに対して「レオパルト2」戦車の供与を決定。この決断に世界中が注目しました。しかし、その直後に戦車と同じかそれ以上に重要な軍用車両の供与も決めています。
戦車と同等かそれ以上に超重要
2023年1月25日、ドイツは「レオパルト2」戦車をウクライナに供与すると正式に発表。合わせて、他国が同戦車をウクライナへ供与することも承認すると明言し、ウクライナ軍が運用するにあたっての包括的なサービスも行うと表明しています。
ウクライナへ供与されるといわれているドイツ連邦軍の重量物運搬車「エレファント」(画像:ドイツ連邦軍)。
ドイツ政府がこれまでの方針を大きく変えてMBT(主力戦車)という「地上戦の主役」ともいえる「レオパルト2」の供与を決めたという点で、今回の発表は世界中のメディアで大々的にとりあげられました。
ただ、この派手な話題の陰で、ドイツはウクライナからの強い要望を受けて2日後の27日、地味ながらきわめて重要な車両の供与も発表しています。それは重量物運搬車(軍用トレーラー)です。なぜウクライナは重量物運搬車を切望していたのか、その理由をひもといてみましょう。
ドイツからウクライナへ供与されるのは、1月末時点でトラクターユニットが78台、セミトレーラーが86台です。ちなみに、前者が牽引する方、すなわちトラクター(牽引車)で、後者は牽引される方、いわゆるトレーラー部分(重量物を載せる台車)になります。
実はMBTや自走砲、歩兵戦闘車(IFV)などといった大重量の装軌式戦闘車両は長距離の自走には不向きで、これを行った後は、足回りやエンジンのメンテナンスが必要になることがほとんどです。そのため、実際に使用する戦場までは、できるだけ自走させずに運ぶのが理想といえます。そこで用いられるのが、いわゆる「タンク・トランスポーター(戦車運搬車)」とも称される重量物運搬車です。
これがあれば損傷戦車を繰り返し使うこともOK
加えて重量物運搬車は、損傷した戦闘車両を後方に送り返す際にも重宝します。戦車など装軌車両をベースにクレーンやウインチを取り付けた装甲回収車は、損傷した戦闘車両を最前線から一歩下がった野戦整備場まで牽引してくることはできますが、そこでの整備や修理での復旧が難しい損傷の大きな車両の場合は、本格的な修復を施すために、数十km後方のデポまで長距離を運ばねばなりません。
従来、ウクライナ軍の主力重量物運搬車であったKrAZ-6446(画像:ウクライナ国防省)。
1990年の湾岸戦争では、アメリカ軍は本国のみならずヨーロッパ諸国などからも重量物運搬車をかき集め、M1「エイブラムス」戦車を始めとした各種戦闘車両の運搬に腐心しています。こうすることで、各種装軌式の戦闘車両が最前線に到達する前に故障するのを極力減らそうという配慮だったといえるでしょう。
なお、戦車を運ぶための運搬車といっても、それしか運べないわけではありません。湾岸戦争のときもアメリカ軍のトランスポーターは、M1「エイブラムス」を運ぶ計画がないときには、他の重量物の運搬などに流用され、重宝されたといわれています。ちなみにこれと同様のことは、先例として第2次世界大戦中の北アフリカ戦線でも行われています。
こういったことを鑑みると、ウクライナ軍の要求は至極当然とも言えるでしょう。なお、一説には以前から重量物運搬車が不足していたため、今回の「レオパルト2」の供与と合わせて要求したとも言われています。特に同軍の場合、東部と南部それぞれの主戦場に展開した機甲部隊を迅速に配置転換するのに、多数の同車があれば大きな威力を発揮すると思われます。
ある意味戦略物資 今後、より増える可能性も
とはいえ、重量物運搬車には大きな弱点もあります。それは、巨大なので隠蔽しにくいうえ移動速度が遅く、防御力もほとんどないため、砲撃や航空攻撃はもちろん、歩兵の襲撃にすら脆弱という点です。
アメリカ陸軍が運用する重量物運搬用トレーラー「HETS」(画像:アメリカ陸軍)。
特にウクライナの場合は、虎の子の西側製MBTを輸送中にMBTごと撃破されてしまっては元も子もありません。そのため、同車の運用に際して、ウクライナ軍がどのような防衛手段を講じるかという点も、きわめて興味深いところです。
重量物運搬車は、積載重量と積載サイズの範囲内であれば、どんな車両でも載せて運ぶことができます。ただ「レオパルト2」を筆頭にアメリカのM1「エイブラムス」、イギリスの「チャレンジャー2」と、いわゆる西側MBTベスト3を供与されることになったウクライナ軍には、トータルで300両超の戦車が集まると言われています。それに加えて、大型の装軌式自走砲や歩兵戦闘車なども続々と欧米各国から供与される予定です。
そうなると、現状の重量物運搬車の数では間に合わないとも言えるでしょう。もしかしたら「縁の下の力持ち」たる重量物運搬車の供与数も、これからうなぎのぼりに増えていくかもしれません。