地下鉄有楽町線、北関東まで? 延伸の“壁”になる「地磁気観測所」とは
東京メトロ有楽町線の延伸線を、茨城まで延ばして――。3県の自治体による国への要望を実現するうえで大きな課題になりそうなのが気象庁「地磁気観測所」の存在です。鉄道整備のハードルになってきましたが、世界的にも重要な施設です。
鉄道整備の壁として立ちはだかる「地磁気観測所」
2022年11月、千葉、埼玉、茨城県の11市町は、東京メトロ有楽町線にあたる地下鉄8号線(豊洲〜住吉)をさらに延伸するよう国に要望しました。東京の豊洲から埼玉の八潮、越谷、千葉の野田などを経て茨城県西南部まで延ばそうという計画なのですが、建設費用や需要など様々な課題が山積しています。なかでもひとつの関門となりうるのが、気象庁「地磁気観測所」の存在です。
東京メトロ有楽町線の車両(大藤碩哉撮影)。
地磁気観測所は、どちらかといえばJR常磐線に近い茨城県石岡市にあります。しかし、この施設の存在は、今回だけでなく鉄道整備におけるひとつのハードルとなってきました。半径30km圏内の鉄道を電化する場合、交流電化を選択しなければならないとされているためです。今回の要望市町には茨城県坂東市、常総市、下妻市、八千代町、筑西市が含まれますが、これら地域は圏域に入ってきます。
常磐線は、取手駅以南が東京圏の鉄道と同じ直流電化ですが、以北が交流で電化されています。また、現在のつくばエクスプレスである常磐新線が整備される際も課題となり、守谷駅以北が交流電化となっています。JR、つくばエクスプレスとも直流・交流どちらも走れる電車が導入されていますが、車両コストが高くなるデメリットがあります。
この問題を解決しようと、茨城県は2019年に気象庁に移転の申し入れを行いましたが、移転は困難ということで受け入れられませんでした。2021年につくばエクスプレスの県内延伸が取りざたされた際にも移転問題が再熱、いまだ暗礁に乗り上げたままとなっています。
そもそも、この地磁気観測所はどのような施設なのでしょうか。
地球上でも重要な施設
地磁気観測所が設置されている茨城県石岡市によると、地磁気の観測は、1883(明治16)年に、東京の中央気象台(現気象庁)で始められました。その後、都市化や電車の発展など、地磁気観測のうえで障害となる直流方式の電流の増加などに伴い、当時、都市化が進んでいなかった現在地に移転、100年以上にわたり地磁気観測を行っています。
地磁気を正確に観測するには、磁気を帯びやすい鉄などの金属類や磁界を発生させる電気、とりわけ常に一定方向へ流れる直流電流が大きな障害となるそうです。
地磁気観測所は、古い教会のような歴史を感じさせる雰囲気のある建物で、敷地は東京ドームの約1.5倍。30人弱の職員が働いています。日本唯一の地球磁気計測器の検定業務を行う機関(船舶や航空機で使用されるコンパスをはじめ地磁気測器の検定)であり、南極地域観測隊への職員参加・観測隊員養成などの役目も担っています。
気象庁地磁気観測所(画像:気象庁)。
また、ここでの観測結果をもとに、赤道を環状に取り巻く電流の強さを示す指数が決められていて、この役割を果たしているのは、日本とアメリカ、南アフリカ、プエルトリコの4つの観測所だけで、世界的にも重要な施設なのです。
しかし、東京メトロ有楽町線から鉄道を延伸しようとすれば、東京メトロの車両は直流のみ。交直流電車の導入は容易ではありません。
※一部修正しました(1月31日10時38分)。