西側諸国によるウクライナへの戦車供与が大きく取りざたされるなか、ロシア側にも最新主力戦車に動きが見られました。21世紀のハイテクが詰まったT-14戦車は、信頼と実績たっぷりのドイツ「レオパルト2」に対抗しうるのでしょうか。

「レオパルト2」ウクライナへ 一方ロシアにも最新戦車に動きが…?

 ドイツ製戦車「レオパルト2」が俄然、注目されるなか、ロシアの最新戦車に関する情報が報じられました。


2016年モスクワの対独戦勝記念式典に登場したT-14。ハッチから身を乗り出しているのが車長、右側は操縦手(Vitaly V. Kuzmin撮影)。

「レオパルト2」は、ドイツを含む21か国で2000両以上が使われているベストセラー戦車です。ロシアからの侵攻を受けるウクライナが強く供与を要望し、ポーランドなどが応えようとしていましたが、これまでドイツは渋っていました。ようやく2023年1月25日になって、シュルツ首相が連邦議会で「レオパルト2A6」を14両供与する、他の保有国の供与も承認する、と演説しました。

 ポーランドやフィンランドはすでに、自国が保有する「レオパルト2」のウクライナへの供与を表明しており、ノルウェーやスペイン、ポルトガルも供与の検討に入ったようです(1月26日現在)。アメリカのABCテレビは、12か国が計100両、供与する見通しだと報じています。当然ながらロシアは強く反発しています。

 一方、イギリス国防省は2023年1月19日、ロシアがウクライナにT-14主力戦車の投入を検討しているとの分析を公表しました。昨年2月の侵攻時に策源地となったロシア南部の訓練場に、2022年12月下旬の時点で少なくとも2両のT-14が衛星画像で確認されたのです。

 ウクライナで、西側ベストセラー戦車「レオパルト2」とロシアの最新鋭戦車T-14が対決して、戦局に影響を及ぼすような局面はあるのでしょうか。

T-14の乗員キャビンは「宇宙船に乗っているよう」…!?

 T-14は、2015(平成27)年5月9日にロシアが実施した対独戦勝記念日のパレードに登場して西側を驚かせた、同国の新型戦車です。

「これまでT-72やT-90に乗ってきたが、T-14には全く戦車に乗っているという感覚が失われる。それはまるでセンサーからのあらゆる情報データを表示するモニターに囲まれた宇宙船に乗っているような思いになる」と、戦車メーカーであるウラルワゴンザボード社T-14開発チームの設計技師、デニス・ミャケンスキー氏は述べています。

 T-14は、従来の戦車コンセプトデザインを一新しました。砲塔を無人化し、砲塔からの車長の肉眼による視界をすっぱり諦めてセンサーやカメラに任せ、車長と砲手と操縦手の3名は防護された車体の乗員キャビンに横並びで収まります。


T-14の砲塔。センサーやカメラと機銃を組込んだリモートウエポンシステム、擲弾発射機、基部にアクティブ防御システムの散弾発射機が5基(Vitaly V. Kuzmin撮影)。

 内部の様子は公開されており、並んだモニターにセンサーやカメラで周囲の視界を得て、砲塔の火器制御はすべてタブレットや操作パネルなどで行います。ミャケンスキー氏のいうように、戦車の操縦席には見えません。

 戦車の砲塔を無人化するというのは思い切った発想ですが、砲塔に人間工学上の設計の制約が無くなり、主砲弾の自動装填装置など各システムを組み込む自由度が広がります。結果として砲塔のシルエットも抑えられます。

 車体は、ウクライナで双方が広く運用しているT-72よりも大型化したのですが、防御の重点を乗員キャビンに集中して装甲強化箇所を局限することで、車体重量増加も抑えられています。「戦車は破壊されてもやむを得ないが、乗員は護る」という開き直りにも見えます。

T-14と「レオパルト2」をスペック上で比較してみると?

 T-14と「レオパルト2」のスペック比較をしてみます。

 T-14の主砲は、従来のロシア戦車と同じ125mm砲ですが、48口径から55口径と砲身長が長くなり、砲弾も弾頭装薬一体型の2A48-1Mを使用して威力が増しています。射程2000mで弾頭が装甲に90度の角度で当たった場合の貫通力は、「厚さ何mmの均質圧延鋼装甲を貫通できるか」というRHA換算で1000mmとされます。「レオパルト2」のラインメタル120mm55口径砲は、同条件で750mmとされています。

 防御力はどうでしょうか。T-14はT-72よりも転輪数が1個多いなど、車体は大型化して全長は1m以上、長くなっていますが、重量は48tから50tとされ、T-72の46tとさほど変わりません。これには、従来の防弾鋼鈑と同等の抗堪性(攻撃に耐え機能を維持する能力)を15%軽量化しても実現できるという新鋼鈑を使っていることと、先に紹介したような砲塔の無人化が関係しています。推定では、砲塔と車体前面の防御力のRHA換算は、運動エネルギー弾で900mmから1000mmとされています。


ドイツがウクライナへの供与を決めたレオパルト2A6(画像:synaxonag、CC BY 2.0〈https://creativecommons.org/licenses/by/2.0〉、via Wikimedia Commons)。

 対するレオパルト2は、同条件で680mmから700mmとされています。両車の攻撃力と防御力を単純比較すれば、T-14は「レオパルト2」をアウトレンジで撃破できることになります。

 T-14のパワープラントは、X型という特殊なシリンダー配置の1500馬力/2000rpm液冷12気筒ターボチャージャー付ディーゼルエンジンと12速オートマチックトランスミッションを組み合わせたものです。突起の少ない四角形にまとめられ、車内レイアウトもしやすくなっています。出力/重量比は31.25hp/tから30hp/tで、機動力にも優れます。「レオパルト2」のパワーパックは、信頼性には定評のあるMTU社製です。出力/重量比は23.8hp/tで、重いぶんT-14より機動性は劣ります。

それでもゲームチェンジャーにはなりえない理由

 現代戦車の戦闘力を測るには、「走」「攻」「守」の他に「IT」という要素が加わります。T-14は「戦術データ統一指揮統制システム(ESU-TZ)」の端末になる「戦車情報指揮システム(TITU)」を最初から装備しています。

 これは、戦車間での目標情報共有、砲兵部隊などへの目標情報伝達と射撃要請、指揮機関との情報共有が可能とされます。その明らかになっている情報は少ないのですが、2009(平成21)年から開発が開始されたものの順調ではなく、2018年末にようやく軍の要件を満たしたとされています。「レオパルト2」にもITは付加されているものの、車体の基本設計は古く、後付けとなっているため電力容量など不利な面もあります。

「走」「攻」「守」+「IT」のスペックだけ比較すると、T-14は「レオパルト2」よりも優れています。20世紀と21世紀という登場時期を考えれば当然です。しかしT-14がウクライナに投入されて、「レオパルト2」をはじめ西側戦車に対抗してゲームチェンジャーになることは期待薄です。というのも、実はまだT-14は本格生産にも入っていないのです。


ドイツ陸軍のレオパルト2戦車。写真はA7型(画像:Boevaya mashina、CC BY-SA 4.0〈https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0〉、via Wikimedia Commons)。

 その宇宙船のようなデジタル機器、多くのセンサーやカメラ類が、戦場の過酷な環境で期待通り作動するのか信頼性もありません。前述した19日のイギリス国防省発表でも、ロシア軍のほかの戦車よりも大きく重く、兵站面が課題で「仮に配備されたとしても、プロパガンダのために使うのが第一の目的だろう」と指摘しています。対する「レオパルト2」は、各国で2000両以上が配備され、信頼性と兵站の安定性には定評があります。

 T-14は従来コンセプトを変革したチャレンジャーですが、ゲームチェンジャーにはなりそうにありません。T-14や「レオパルト2」の関与はともかく、春から夏にかけて戦局は動きそうな気配です。