近年は「重い毛布(加重ブランケット)をかけて寝ると睡眠が改善する」という研究結果が注目を浴びたことを受けて、寝具メーカーは快眠効果をアピールする重い毛布を販売しており、実際に使う毛布を軽いものから重いものに変えたという人もいるはず。新たにスウェーデン・ウプサラ大学の研究チームが行った実験では、重い毛布で寝ると睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌量が増えるという結果が示されました。

A weighted blanket increases pre‐sleep salivary concentrations of melatonin in young, healthy adults - Meth - Journal of Sleep Research - Wiley Online Library

https://doi.org/10.1111/jsr.13743

Weighted blankets may lead to more melatonin, the sleep hornone - The Washington Post

https://www.washingtonpost.com/wellness/2022/12/06/weighted-blanket-sleep-melatonin-benefit/

Weighted-blanket use may boost sleep hormone melatonin, small study hints | Live Science

https://www.livescience.com/melatonin-weighted-blankets-sleep

1990年代の作業療法士は、重い毛布に発達障害や感覚障害を持つ子どもの精神状態を落ち着かせる効果があると発見しました。その後、重い毛布には睡眠改善効果があるという研究結果が報告されるようになり、スウェーデンのカロリンスカ医科大学付属病院の研究チームが2020年に発表した研究では、精神障害を持つ120人の被験者を対象にした実験で、重い毛布を使うと睡眠維持の改善や不眠症傾向の緩和といった効果があることが示されました。

体にかける毛布を重くすると不眠症が改善するかもしれない - GIGAZINE



ウプサラ大学の薬理学准教授であるChristian Benedict氏は、「加重ブランケットの魔法の効果について教えてくれた多くの小児科医や作業療法士に出会いましたが、それがプラセボ効果として機能しているのかどうかわかりませんでした」とコメント。そこで、重い毛布をかけた人々において生理学的な変化が現れるかどうかを、実験で確かめることにしたとのこと。

Benedict氏らが注目したのは、概日リズムの調節に関わっており「睡眠ホルモン」とも呼ばれるメラトニンです。日中、目に光が入ると視交叉上核という脳領域に信号が送られ、ホルモン分泌を行う松果体によるメラトニン産生をブロックします。太陽が沈んで暗くなると視交叉上核は松果体のブレーキを解除し、メラトニンの産生および分泌がスタートするという仕組みになっています。

研究チームは、睡眠障害や加重ブランケットの使用歴がない20代の男女26人を集め、1日は体重の2.4%に相当する軽い毛布で、そして1日は体重の12.4%に相当する加重ブランケットをかけて実験室で寝てもらいました。なお、実験セッションの前にはそれぞれの寝具に慣れるため、自宅で軽い毛布または加重ブランケットを使って寝たとのこと。

各被験者は19時に夕食を食べてから明るい部屋で2時間過ごし、21時からは部屋が暗い状態になって過ごし、22時から毛布をかけて横たわりました。研究チームは22時から就寝時間の23時にかけて20分おきに被験者の唾液を採取し、メラトニンレベルの測定を行いました。



実験の結果、加重ブランケットを使用した被験者は軽い毛布を使った被験者と比較して、メラトニンレベルが平均約32%上昇することが判明。Benedict氏は、「肌にかかる優しい圧力などの感覚は、メラトニン分泌に影響する脳領域を活性化させることができます。加重ブランケットを使用した際に観察されたメラトニンの上昇も、同様のメカニズムで説明できると考えています」と述べています。

しかし、今回の研究ではなぜ加重ブランケットを使うとメラトニンレベルが上昇するのかや、メラトニンレベルの上昇が睡眠の質を改善するのかどうかは明らかにされていません。被験者はいずれの毛布を使用した場合でも、睡眠時間や起きた後の眠気に差はなかったとのこと。

研究チームは、「今後の研究では、数週間〜数カ月にわたり加重ブランケットを頻繁に使用した場合、メラトニン分泌の促進効果が毎晩観察されるかどうかを調査する必要があります」「メラトニンの増加が、不眠症や不安症に対する加重ブランケットの既往の効果や治療に関連するかどうかは、まだ確定していません」と述べています。