ヤクルト最強ブルペン陣が突きつけられた現実。「オリックスのリリーバーを見て、目指すべきところはまだまだある」
今シーズン、ヤクルトのブルペン陣は計24人の投手が514イニングを投げて、31勝17敗40セーブ。投球回と勝利数は12球団最多だった。150キロを軽く超えるパワーピッチャーが少ないなか、ピンチを背負っても踏ん張って粘りきるピッチングは見事だった。
ヤクルトブルペン陣がつないでつないで、2年連続リーグ制覇と2年連続日本シリーズ出場に大きく貢献した1年を振り返ってみた。
今シーズン、50試合に登板したヤクルトのセットアッパー・清水昇
今年2月の春季キャンプ後半、セットアッパーの清水昇は「今年はブルペン陣で勝ったと言われたい」と、力強く語った。
「自分は前の回を投げたピッチャーから渡されたバトンをしっかり受けとり、9回のスコット(・マクガフ)へつなぐ。そのことだけを考えてやっていきたいと思っています」
清水のこの意識は、気がつけばブルペン陣に浸透していった。正捕手の中村悠平は「一人ひとりが、スコットまでつないで勝つということをすごく意識していると感じます」と話し、こう続けた。
「そのために、一球一球をおろそかにしないことを大事にしています。キャッチャーとしても受けがいがありますし、そういったところがウチのブルペン陣の強みだと思います」
シーズン前半、ブルペン陣の奮闘はチームを勢いづけた。5月24日の日本ハムとの交流戦(神宮球場)では、6人のリリーフで6回無失点の継投を見せ、内山壮真の同点本塁打、延長11回裏の村上宗隆のサヨナラ本塁打を呼び込んだ。
なかでも10回表無死満塁の絶体絶命のピンチで「火消し役」としてマウンドへ送り出された田口麗斗は、圧巻のピッチングで無失点に。この「田口の20球」は今シーズンの名場面のひとつとなった。
交流戦期間中、ブルペン陣で11試合連続無失点リレーを達成するなど、チームの快進撃の立役者となった。
リリーフ陣の一体感について、田口は次のように語る。
「投手陣全体で3失点以内の試合をつくろうという目標があって、それがいいモチベーションになっています。なので、先発陣、自分の前に投げた中継ぎ投手がつくったものを壊さないようにという気持ちで、全員でカバーしあうことが意識づいていたと思います」
その田口は、ベテランと若手との"つなぎ役"の役割も果たした。
「投手陣には石川(雅規)さんというお手本がいて、中継ぎでも石山(泰稚)さんという先輩がいます。そうしたお手本になる先輩と若い選手たちとのトークの架け橋じゃないですけど、そういう手伝いができればとやっています」
田口をはじめ、今シーズンは試合中盤から7回までは固定せず、選手の状態や相手との相性を鑑みながら、柔軟な運用で新しいリリーフの形をつくってきた。
木澤尚文と久保拓眞の台頭清水は「今年は中継ぎ陣がうまく循環しているなと思います」と話した。
「誰がどの場面でマウンドに上がっても大崩れしないですし、若さゆえの思いきりのよさがあるのかなと思っています。2年目の木澤(尚文)がブルペン陣の台風の目になってくれて、左の久保(拓眞)もシーズン後半はチームの力になってくれました」
木澤はドラフト1位の即戦力として期待されるも、昨年は一軍未登板。今年の春季キャンプで伊藤智仁コーチの「失敗を恐れて挑戦しないのが一番の失敗」という助言を受け、手応えをつかんでいった。この時、伊藤コーチは「逆転の発想もあるよ」とも伝えたという。
「木澤がキャンプの段階でシュート回転を直そうとしているのを見て、球は強いんだから逆にシュートを投げちゃえばいいんじゃないのと。ストライクゾーンに思いきって投げればなんとかなるという感じでしたので」
木澤は開幕一軍を果たすと、常時150キロを超えるシュートを武器に、マクガフと並んでチーム最多となる55試合に登板。崩れかけた試合を立て直す役割をまっとうし、逆転勝利につなげることでチーム最多タイとなる9勝をマークした。
久保は4月1日に一軍登録されるも、11日に抹消。だが7月に新型コロナウイルス感染による一軍選手の大量離脱でチャンスが回ってきた。
「チームは大変な状況でしたが、僕自身、去年は一軍登板がなかったですし、4年目ということで結果を出さないと危ないと思うところもあり、なんとか爪痕を残したいという気持ちでした」
二軍では左打者に対してシュートを投げきることを課題に練習するなかで、後輩の木澤に「どういうピッチングしてるの?」とLINEで尋ねた。
「木澤とは二軍でずっと一緒にやってきて、今年は一軍で結果を出したので、何か違うところがあるのかなと。木澤からは『真ん中めがけて投げています』と言ってもらい、僕とは球の速さもスタイルも違いますが、カウントをしっかりつくることでは共通するので、いいヒントをもらいました」
久保は「試合ではなんとかスコットにいい形でつなごうという気持ちで投げています」と話し、左のワンポイントの役割を果たしつつ、僅差やリードの場面での1イニングを任されるようになった。その結果、キャリアハイとなる29試合に登板し、プロ初勝利も手にした。
先発&野手から見たブルペン陣こうしたブルペン陣を、先発投手や野手は頼もしく思っている。
「毎日プレッシャーのかかるなかでブルペンの人は待機しているので、できるだけいい形でつなぎたいと投げています。すごいなと思いますし、自覚をもってそれぞれが仕事を果たしているので、本当に信頼しています」(小川泰弘)
「守護神のスコット、8回の清水、そして6、7回の中継ぎ陣、対左打者のワンポイントもそうですけが、みんなが自分の役割を理解して仕事をしている。だから日本シリーズを迎えられたのだと思います。ブルペン陣がとてもダイスキです」(サイスニード)
「今年のブルペン陣は、試合の流れをもっていかれそうなところを、いろんなピッチャーが抑えることで踏ん張ってくれました。そのいい流れがあったから、打線でなんとか逆転する状況がたくさんあったと思います。試合中盤で粘れたのは本当に大きかった」(青木宣親)
シーズン終盤の9月、二軍の江花正直ブルペン捕手は短期間だったが一軍のブルペンに入ることがあった。江花氏は「ブルペンに入って感じたのは、出番が近い時はみんな集中して近寄りがたいのですが、普通に待っている時はいい意味でリラックスしていたことでした」と話した。
「田口がブルペンに来ると明るい雰囲気が増します。みんな自分の出番を把握していて、試合が動き出したらコーチが言う前に動き出す。だから、ベンチから電話があってもすんなり(試合に)入れるというか、さすがだなと思いましたね」
一軍のブルペンでは、久保と木澤の成長を強く感じたと喜んだ。
「木澤はこんなにコントロールがよくなったんだと(笑)。春のキャンプでも受けましたが、いい球は投げるけど操れている感じではなかった。そして、一軍は初めてなのにブルペンに早くきて、先輩が座る椅子を用意したり、飲み物の準備をしたり......。自分のことで精一杯なはずなのに、気配り、目配りができていた。すごいなぁと思いましたね(笑)」
久保が一軍に上がる時には「のし上がってこいよ。簡単に戸田に帰ってくるなよ!」と送り出したという。
「久保はしょっちゅう戸田で受けていたんですけど、正直、一軍であれだけ投げられるとは思いませんでした。二軍でもシュートは多めに投げていましたが、完璧にモノにしたわけではないので不安だったんです。それが一軍ではシュートだけでなくほかのボールも上達していましたし、立ち居振る舞いも堂々としていた。
木澤もそうですが、一軍での経験が彼らを成長させたことは間違いないと思います。ふたりとも最後まで戸田に帰ってこなかったですし、日本シリーズでも投げることができた。うれしかったですね」
マクガフへの信頼は変わらない迎えたオリックスとの日本シリーズ。高津臣吾監督はシリーズ前、ブルペン陣についてこのように語っていた。
「シーズン中もすごく難しいポジションだったのですが、日本シリーズになると、さらに難しくなる。準備の仕方や投げる順番、なかでもしんどいのがゲームの真ん中の3、4人のリリーフピッチャーかもしれないですね。今シーズンももう少しで終わるので頑張ってもらいたいですし、それがリリーフの仕事なのでしっかりこなしてくれることを信じています」
高津監督の期待どおり、日本シリーズでもスワローズのブルペン陣は"つなぐ"ピッチングでチームに貢献。第2戦では、5回から延長12回までの8イニングを7人の投手で1失点に切り抜け、引き分けに持ち込んだ。
木澤はシリーズ初戦から登板。独特の緊張感のなか、ゼロでつなぐことにこだわった。
「どれだけ三振をとっても、どれだけ内容がよくても、1点が重くなるのがシリーズだと思うので、不細工なピッチングでもいいから、ゼロで次のピッチャーにつなげられるように......そこだけを意識して投げました」
清水は2勝1敗1分けとして迎えた第5戦の前、取材陣に対応した。
「野手陣や先発陣が頑張っているなかで、リリーフ陣として体が張っているとは言えないです。このしんどさは僕らにしか味わえませんが、喜びを感じながらやっています。残り数試合ですが、村上(宗隆)や先発陣に負けないくらい、『中継ぎ陣は最後に追い上げたね』と言われるよう頑張っていきたいです」
10月30日、日本シリーズ第7戦を前にヤクルトは2勝3敗1分と追い込まれていた。ふだんは徒歩で球場に通うマクガフが、この日はタクシーで夫人と同伴でクラブハウスに現れた。
マクガフは第5戦の9回裏、吉田正尚にサヨナラ本塁打を浴び、第6戦では1点ビハインドの9回に登板するも、自らの送球エラーなどもあり、リードを広げられたところで途中降板していた。
高津監督は第6戦の試合後、マクガフについてこうコメントした。
「結果は残念ですが、彼の性格であったり、いろいろなものを知ってるので。もちろん手を抜いたり、ヤケにならず、一生懸命やっているプレーだと思っています。(明日については)今から考えたいと思いますが、彼への信頼は変わらないです」
クラブハウスの入口で夫人とハグするマクガフの姿を見て、シーズン中に同じ場所で囲み取材をした時のことを思い出した。
「コロナ前はみんなと焼肉に行ったり、カラオケで歌ったりしていました。途中から歌に入って口ずさむけど、日本語は難しいので......。みんなからはジョン・デンバーの『カントリー・ロード』を歌ってよとリクエストがあるんですよ(笑)」
マクガフは顔を赤らめ、恥ずかしそうにチームメイトとのエピソードを教えてくれた。
崖っぷちとなった第7戦。ヤクルトは味方のエラーも重なり、5回までに5失点。それでも、マクガフはベンチ外となったが、ブルペン陣は4回1/3を無失点継投。8回裏にホセ・オスナの3ラン本塁打などで1点差に迫るも、2年連続日本一は果たせなかった。
清水は「木澤や久保も出てきましたし、新鮮な中継ぎ陣でしたね」と、今シーズンを振り返った。客観的な意見として、今年はブルペン陣で勝った試合がかなり多かったと伝えると、こんな答えが返ってきた。
「やっぱり最後の最後に......オリックスのリリーバーを見た時に、球は速いですし、決め球もあった。セとパのリリーバーの違いを感じました。だからこそ、目指すところはまだまだあるのかなと。最後で負けてしまいましたが、いい経験なのかなと思います」
そして清水は「スコットは第7戦のベンチを外れましたけど......」と、マクガフについてこんな話をしてくれた。
「スコットがいなかったら今年の成績はないと思いますし、終盤、ああいう形で疲れてしまったのも、僕や石山さん、田口さんの離脱があったからです。そうしたなかスコットは最後の最後まで離脱せずに投げてくれた。そのシワ寄せが最後にきてしまったのかなと思います。だから、日本シリーズで打たれたから、ミスをしたからといって、スコットへの信頼は変わることはありません」
清水によれば、第7戦の試合前に伊藤コーチが「今日勝って、もう一度スコットに投げさせよう」と選手たちに話したという。
「僕もその気持ちがすごくありました。結果的に最後となった試合(第7戦)で、1点ビハインドの9回に登板したのですが、やるべきことはいつもと一緒。シーズン同様、なんとかスコットにつなごうと......その思いだけでした」