久保建英と比較されてきた、もうひとりの才能。清水MF松岡大起「自分には自分のよさ。負けたくない」
サッカー日本代表「パリ世代」インタビュー06
松岡大起(清水エスパルス/MF)前編
2019年春、にわかに続く17歳の台頭にJリーグは沸いていた。
FC東京で久保建英が大きな注目を集めるのと時を同じくして、サガン鳥栖で芽吹いた17歳の才能。それが松岡大起だった。
「未来がある選手。我々は彼という存在を大事にしなければいけない」
当時鳥栖を率いていたスペイン人指導者、ルイス・カレーラス監督はそう語り、中盤でハツラツとした動きを見せる小柄なMFを絶賛した。
鳥栖のアカデミー(鳥栖U−18)で育った松岡は、高校在学中の17歳にしてプロ契約を結ぶと、たちまち主力へと成長。昨シーズン途中に清水エスパルスへと電撃移籍し、鳥栖サポーターのみならず、サッカーファンを驚かせたが、将来を嘱望される21歳のボランチは新天地でも確かな存在感を示し続けている。
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松岡大起(清水エスパルス)2001年6月1日生まれ
---- 鳥栖U−18からトップチームに昇格し、プロとなった松岡選手ですが、もともとは熊本県熊本市出身なんですね。
「熊本では小・中と、ソレッソ熊本という地元のクラブチームでサッカーをしていました」
---- そこからなぜ、鳥栖U−18へ進んだのですか。
「中学3年生の時に、いろんなクラブのユースや高校のサッカー部の練習に参加をさせていただきました。そのなかで、サガン鳥栖は練習からすごく内容が濃いというか、チーム内での激しい競争がありましたし、実際に練習を体感してみて、ここだったら自分が成長できると思って選びました」
---- 進路選択にあたり、ほかのクラブの練習にも参加したんですね。
「サンフレッチェ広島だったり、京都サンガだったりも練習に参加しましたけど、声はかからなかったです」
---- 高校のサッカー部も選択肢として考えていたのですか。
「小学生の頃からずっと冬に選手権(全国高校サッカー選手権)を見ていて、メディアにもすごく注目される大会ですし、正直なところ、やっぱり憧れはありました。中学生の時は、すごく迷いましたよね。
でも、実際に(ユースや高校の)練習に参加してみて、自分には今、何が合っていて、自分が一番成長できるところはどこなのかと考えた時に、やっぱり(Jクラブの)ユースでした」
---- 「自分が一番成長できる」とは、プロになるために、ということですか。
「そうですね。中学生だった自分が描いていた夢や目標があるなかで、それに近づくためには何が必要なのかっていうところは......当時はそれを口で言うのがけっこう難しかったんですけど、練習を体感してみたことで、それが具体的な形になったと思います。また、やっていてすごく楽しかったっていうのもあったので。あとは環境もすごくよかったですし、そこにも魅力を感じました」
---- 鳥栖U−18で一番鍛えられ、伸びたと思うところはどこですか。
「自分の持ち味であるボールを奪いきるところは、中学の時より伸びたなっていう感覚はありますし、対人での強度というところでも、まだまだですけど、伸びた感覚はあります」
---- 小さい頃からボランチだったのですか。
「小学校から中学の途中まではFWをやっていて、かなりゴールに貪欲な選手でした。ボランチは中学の途中からやり始めたという感じです」
---- 結果的にボランチとして鳥栖U−18時代に頭角を現し、高校2年生の時には早くも2種登録でトップチームに加わりました。
「そういったトップチームと密な関係というのも、クラブユースのよさですし、そこも(進路選択にあたって)いいなと思ったところではありました。高校年代でしっかり結果を出したことで、トップの練習に呼んでいただけて、すごい経験をしているなって感じていましたし、今後プロの世界でやっていくためにどうすればいいのかを、より早く自分のなかで考えられたことはすごく大きかったのかなと思います」
---- しかも翌2019年には、まだ高校3年生ながら6月にプロ契約。この年、シーズンを通して主力選手としてリーグ戦にも出続けています。
「年々いろんなことを吸収して、より成長している感覚があるなかで、その(プロ)1年目に試合に出続けられたことは、自分にとってすごく大きかったと思いますし、それが今につながっているなっていうのは、実感としてもあります。
でも、その最初のシーズンは、試合に出ていても本当にガムシャラに自分の全力を出してプレーするだけで精一杯だったので、あらためて振り返ると、考えてプレーすることがまだまだ少なかったのかなって思いますね」
---- J1デビュー当初、同じ17歳で誕生日も3日違いの久保選手と比較されることが多かったですが、そういう見られ方をどう感じていましたか。
「年齢が一緒ということで、どうしても比較される形になったと思うんですけど......でもまあ、ポジションは違うし、久保選手には久保選手の、自分には自分のよさがあるので。
それに、(久保選手に)負けたくないっていうのは絶対そうなんですけど、次々に試合がやってくるなかで毎試合、毎試合、自分ができることをしっかりとやるだけでしたし、比較されることを気にする余裕なんてなかったなって、今振り返って思いますね」
---- 松岡選手は性格的に真面目で、キャプテン向きの印象があり、実際に年代別代表などでキャプテンマークを巻くことがあります。自分の性格については、どう自己分析していますか。
「自分自身で真面目だと思ったことはないですし、自分にとっては当たり前のことを当たり前にやっている感覚なので。これからも、それを続けていきたいと思っています。
キャプテンを任されることは、小学生の頃から、中学の時も高校の時もありましたけど、キャプテンマークを巻くのはすごくうれしいことだし、誇らしいことです。でも、今までいろんなキャプテンを見てきたなかでは、自分はまだまだ。ゆくゆくはそういうポジションを任される選手になれるように、日々成長していきたいと思っています」
---- 松岡選手は17歳でのJ1デビュー以来、ずっと鳥栖の主力を務めていただけに、昨季の清水への移籍、しかも、それがシーズン途中だったことには驚きました。
「本当に自分が成長するうえで(何が最良か)、と考えて決断しました。鳥栖(U−18)を選んだ時も同じでしたが、いろんな人のアドバイスを聞いて、自分が上に行くためには、トップになるためにはどうすればいいのかを考え、すごく悩みながらも決めた、というのが正直なところです」
---- 移籍2年目の今季、ここまでを振り返って現状をどう捉えていますか。
「自分自身、シーズンの入りからケガをしてしまって、こんなに長くかかるケガは初めてだったので、自分のなかでもすごく難しい期間が続いたなっていう気持ちはありますが、清水にはこれだけいい選手がいるなかで残留争いをしている(10月6日取材)という現状は、しっかり受け止めなければいけないと思っています。
まずは1試合1試合、走って、戦って、勝ちながら、自分の存在をしっかり示していきたいですし、そうすることがこの先につながると思います。なので、もっともっと日々の練習からこだわってやっていきたいと思っています」
---- 「自分の存在を示す」ために、武器となるものは何でしょうか。
「自分の強みはボールを奪いきることや、相手が嫌がるくらいの強度で守備にいくところもそうですし、相手にボールを持たれたとしても、常に集中して穴を開けないっていうところは持ち味だと思っています。
また、周りの選手一人ひとりと、試合のなかでコミュニケーションをとれるところも(強みとして)あると思っています」
---- その一方で、課題だと感じているのはどんなところですか。
「前から言い続けていることではあるんですけど、攻撃面でもっともっと前に顔を出して、シュートまで持っていく。あるいは、アシストするっていうところですね。少しは成長していると思いますが、まだ成長速度が遅いと感じています」
---- 松岡選手はすでにJ1で90試合以上に出場していますが、まだゴールがありませんね。
「そこは気になっていますし、(ゴールの)チャンスは何回かあっても、やっぱりその数が少ない。チャンスをより多くすることがゴールにつながると思うので、まずはそういうシーンを増やすことがすごく重要だと思います」
---- 清水移籍後、J1で鳥栖とも3度対戦(1分け2敗)しました。松岡選手にとって鳥栖戦は特別な試合ですか。
「負けたくない相手ですし、自分がその試合で活躍して、日々成長しているなって感じ取ってもらう試合にしないといけない。それは毎試合、思っていることです。
また、自分がそういった(鳥栖時代との)違いだったり、成長しているところを見せることで、(鳥栖の)サポーターのみなさんも少なからず応援してくれると思いますし、何より勝つことによって、いろんな意味で成長しているところを見てもらわないといけない。もっともっと勝利にこだわってやっていきたいと思っています」
◆松岡大起@後編はこちら>>飛び級で東京五輪、20歳でA代表入り。次なるステップはプレミアリーグ
【profile】
松岡大起(まつおか・だいき)
2001年6月1日生まれ、熊本県熊本市出身。サガン鳥栖のアカデミー出身で、2019年6月にクラブ初の高校3年生でトップ昇格を果たす。ルーキーイヤーから先発の座を掴んだのち、2021年8月に清水エスパルスへ完全移籍。日本代表ではU−17から各年代で呼ばれ、2019年のトゥーロン国際大会に参加するU−22には飛び級で招集された。2022年1月、20歳にしてA代表に初選出。ポジション=MF。身長170cm、体重65kg。