「ついに、ついに長崎の地に新幹線がやってきた」。9月23日に長崎駅で開かれた西九州新幹線の開業記念式典で、JR九州の古宮洋二社長は万感の思いをにじませた。

博多〜長崎駅間の143キロの整備新幹線計画のうち、武雄温泉〜長崎駅間66キロがフル規格新幹線として先行整備された西九州新幹線。これまで博多と長崎を結んでいた特急「かもめ」からその名を譲り受け、最新鋭のN700Sが武雄温泉〜長崎駅間を最短23分で駆け抜ける。博多〜武雄温泉駅間は在来線特急「リレーかもめ」が運行され、武雄温泉駅で乗り継ぐリレー方式となるが、博多〜長崎駅間の所要時間は約30分短縮し、最短1時間20分で結ばれるようになった。

▲武雄温泉駅のホームを挟んで並ぶ特急「リレーかもめ」(左)と西九州新幹線「かもめ」(2022年9月10日の報道向け試乗会で撮影)

博多方面から来た「リレーかもめ」が武雄温泉駅の10番のりばに到着すると、向かいの11番のりばには真っ白な車体に赤いラインが引かれたN700S「かもめ」が停車していた。時刻表上の接続時間は3分程度。忙しないように思えるが、対面乗り換えができるため、眠り込んでいたりしなければ乗り遅れの心配はなさそうだ。

「かもめ」は6編成のうち、1〜3号車が指定席、4〜6号車が自由席。繁忙期は自由席の取り合いになるかもしれないが、武雄温泉〜長崎駅間の乗車時間は各駅停車タイプでも30分程度。立ち席でも仕方ないと割り切れるだろう。

▲東海道・山陽新幹線向け車両とは雰囲気が大きく異る西九州新幹線のN700S自由席

指定席は九州新幹線800系を踏襲したシートデザインで、JR九州らしさを感じる2-2席配列のゆったりとした車内。一方、4〜6号車の自由席は2-3配列で、シートも東海道・山陽新幹線向け車両と同じ作りだが、山吹色のモケットカラーが新鮮な印象だ。車内の詳細は別稿で紹介しているのであわせてご覧いただきたい。

N700Sらしい静かな加速でスピードに乗り、乗り心地をゆっくりと体感する間もないまま、列車はあっという間に嬉野温泉駅に到着。これまで鉄道がなかった同地に作られたこの駅は、温泉街からは約1.5キロ離れているが、地元としては待ちに待った開業だろう。駅から温泉街までは路線バスが走り、6〜7分で結ばれる。

▲新大村駅の手前では西側に大村湾を望む。長崎空港から飛び立つ飛行機が見えることも

嬉野温泉駅を出発し、列車は佐賀・長崎県境を越えて南西方向に一直線。しばらくして右手の車窓に大村湾が広がると、新大村駅にすべり込む。新幹線開通に合わせて新設された同駅は長崎空港の最寄り駅の一つで、大村市が運行する乗り合いタクシー「おおむらかもめライナー」が駅と空港をつなぐ。おおよそ1時間ヘッドの運行で乗車30分前までのネット予約が必要だが、運賃は500円とリーズナブルで、使いようによっては新幹線沿線からの便利な空港アクセスの手段になりそうだ。

長崎本線と大村線、島原鉄道が接続する長崎県の交通の要衝である諫早駅を出ると、終点・長崎駅は目前。特急では約20分だった諫早〜長崎駅間の所要時間が半分の9分となったことからも、新幹線の圧倒的なスピード感を実感させられる。

長崎港へ向けて高くなる屋根によって、海へと続く方向性を強調したという長崎駅の新幹線ホーム。歩行者通路が南端部まで続き、高架ホームから海を眺められるようにしたというデザインコンセプトは終着駅ならではだ。開業初日に一日駅長を務めた女優の長濱ねるさんも、「初めてホームに降り立ったとき、奥に広がる海に感激した」とその印象を語っている。

▲開発が進む長崎駅かもめ口(2022年9月10日撮影)

駅周辺では今も工事が続き、「かもめ口」という新たな名がつけられた東口からは仮設通路が伸びているが、2023年秋には九州初進出となるマリオットホテルを核とした新駅ビルが完成する。さらに、駅から北西に600メートルほどの場所では、長崎に本社を置く通販大手のジャパネットホールディングスが威信をかける複合開発計画「長崎スタジアムシティプロジェクト」が2024年の竣工に向けて進行中だ。

JR九州の古宮社長が「新しい長崎の一日目」と位置づけた西九州新幹線の開業初日。同社によると、午後3時までの乗車率は、指定席が90%、自由席が77%と、平均して8割以上を記録したという。10月からは大型観光キャンペーン「佐賀・長崎デスティネーションキャンペーン」が始まり、お祝いムードはしばらく続くだろう。この盛り上がりが一過性のものではなく、沿線の地域活性化や交流拡大につながる潮流となることを期待したい。