食のハラスメントに気を付けて、楽しくご飯を食べましょう(写真: a_island / PIXTA)

夏休みが明け、シルバーウィーク真っ只中。長期休暇となると、旅行や、帰省をする人も多いだろう。実家に帰った際には、厚いもてなしを受けるに違いない。

一方で、実家で“過剰なもてなし”を受けたことが記事となり(『お盆の帰省で大量のごちそう "食ハラ"に注意 専門家が指南する「上手な断り方」』、ENCOUNT、2022年8月11日掲載)、SNS上などでも話題となった。

記事は、「帰省した際に大量にごちそうが用意され、『お腹が一杯だ』と告げても、お構いなしに料理がふるまわれた」という悩みから、大量の食事の強要は食事ハラスメント(食ハラ)であると指摘。職場の上司や先輩との食事の場、学校の給食でも起きる可能性があるとし、食べ残す勇気を持つことが大切であると書かれている。

無理やり大量に食べさせるのはよくない

まずはここで問題とされている食事ハラスメントについて考察していきたい。

例えばともに食事をとる、“共食”という言葉がある。同じコミュニティーの中で同じものを食べることによって、絆を深めたり、身内意識を高めたりすることだ。日本では古くからさまざまな地域の文化や風土、宗教儀式、祝事や慶事の中で大きな役割を果たしてきた。

だが大勢で同じ食事を取る場であったとしても、相手が食べたくなさそうであれば、食べさせるべきではない。無論、嫌がらせのためであれば言語道断だ。上司や先輩といった立場であれば、パワーハラスメントになるだろう。

学校教育における“食育”でも、食べられないような分量の料理を取って食べ残すことは推奨されていない。中学校などでのバイキング給食でも、自分が食べられるだけの分量の範囲で、さまざまな食べ物を適量に取り、バランスよく栄養をとることの大切さを子どもたちは学んでいる。

食ハラは、食品ロス(フードロス)の観点からしても問題だ。そもそも全部食べてもらうことを前提としてあれもこれもと作りすぎると、食べ残しも多くなり、食品ロスが発生しやすくなるからである。

また飲食店の場合には、ほかの客も快く思わない可能性がある。通常人はほかの人がおいしそうに食べている様子を見ると、よりおいしいと思って食べるものだ。人から強要されて、苦しそうに食べていたりする姿を目の当たりにして、食欲が増す人はまずいない。本来はおいしく食べてもらえたはずの飲食店や料理を提供するつくり手の立場からしても、嬉しいものではない。

ここまで食事ハラスメントの弊害について説明してきたが、食に関するハラスメントはほかにいくつもある。食事ハラスメント以外の、食のハラスメントを以下9つを紹介しよう。

お酒に関するさまざまなハラスメント

まず、アルコールハラスメント(アルハラ)。アルコールが飲めない人に、アルコールを強要するというものだ。アルコールは人によって耐性が異なっており、日本人は下戸(お酒が飲めない人)が多いともいわれている。場合によっては生命の危機にさらされるだけに、「飲まなければ失礼だ」「飲んでいくうちに強くなる」といった論理は一切通用しない。

また下戸とはいかないまでも、一気飲みをさせたり、次から次へと飲ませるなど、よほどの酒豪でなければ飲みきれないような酒量を強要することは、許される行為ではないだろう。またお酒が強くても、あまり好きではない人もいる。ただ単にお酒が強いからといって、たくさん飲ませようとするのもアルコールハラスメントにあたる。

アルコールハラスメントに近いものには、シャンパーニュハラスメント(シャンパンハラスメント、シャンハラ)カシスハラスメント(カシハラ)ロゼワインハラスメントもある。

シャンパーニュや、泡もののスパークリングワイン、甘くてさわやかなカシスオレンジを女性は好んで飲むと決めつけて、いざ女性がソルティドッグのような辛口のカクテルやフルボディの赤ワイン、ウイスキーなどをオーダーすると「カシスオレンジを飲まないの?」などと尋ねる人もいるようだ。当然味覚や嗜好は女性の中でも異なるため、飲みたくないお酒を無理やり強要することはハラスメント行為に当たる。

飲み物関連のハラスメントは、アルコールに限った話でもない。

カフェインハラスメント(カフェハラ)なるものもある。コーヒーや紅茶などのカフェインが含まれたドリンクを強いるというケースだ。ノンアルコールドリンクなので、特に問題ないように思えるが、アルコール同様にカフェインが人体に及ぼす影響力も個人差が大きい。カフェインをとると調子が悪くなったりする人もいる。

例えば仕事でのミーティングで、当然のようにコーヒーや紅茶などを提供することもあまり好ましくない。お酒ではないので、相手も断りづらいのだ。提供する前に、相手に何を飲みたいかを聞いてから、ドリンクを準備することがベストだろう。

食通やマニアがこだわりを押し付ける行為はグルメハラスメント(グルハラ)と呼ばれている。訪れた店がどんなに素晴らしい店か、使われている食材の質がいかに高いか、提供された料理がどんなこだわりがあるか、など延々とウンチクを講釈することだ。

聞いている側は、とにかく「すごい」と同調しなければならないような圧力を感じることもある。友人やパートナーとの食事では当然のことながら、デートや接待などのご馳走される時でさえ、反応に困ってしまい、行きすぎるとハラスメント行為に当たる。

マナハラやヌーハラ、お土産ハラスメントも

マナーハラスメント(マナハラ)にも気を付けたほうがよい。マナハラは食事のマナーにとても細かく、うるさく注意することだ。確かにみっともない食べ方などをやんわりと指摘するのであれば仕方ないが、ほとんどの人が気にしないようなところで、重箱の隅をつつくようにして指摘する人もいる。周囲の反応をまったく気にせず注意することで、食事の雰囲気が壊れてしまうこともある。

このほかにも、食に関するさまざまなハラスメントがある。外国人からすると不快に思われるのが、ヌードルハラスメント(ヌーハラ)。日本人は心地よくラーメンやそば、うどんをすするが、外国人にはその音や所作が心地よく感じられない。また飲食店ではないが、旅行帰りのお土産の銘菓を、特定の人だけに配らなかったり、または無理に食べさせたり、ほかの銘菓よりもおいしい、などと力説するお土産ハラスメントもある。

ここまで食のハラスメントについて紹介してきたが、どういった印象を持っただろうか。

食は人が生きていくために必要なものだが、人と人との関係を円滑に運ぶ潤滑油の役割も果たす。しかしそれが、承認欲求を満たすためや、ストレス発散になったり、相手にレッテルを貼ったりと、“自分自身の何かを満たすための小道具”となると、ハラスメントに変容してしまう。

相手が気分を害さない食事を

共に食事をとるのであれば、みんなが楽しくならなければならない。1人でも気分を害し、犠牲になる人がいるとすれば、1人で食べるという意味での“個食”で充分なのかもしれない。食のハラスメントを通して、ともに食事することの意義や大切さを噛み締めていきたい。

(東龍 : グルメジャーナリスト)