対地攻撃任務に全振りしたような外観と性能を持つアメリカ空軍のA-10C攻撃機。マンガやゲーム、アニメなどに比較的よく登場することから日本でも人気ある軍用機ですが、パイロットはどう考えているのか、実際に聞いてみました。

パイロットいわく「飛ばすだけなら簡単」

 軍用機としては「名は体を現す」という言葉がピッタリの風貌を持つA-10「サンダーボルトII」攻撃機。流線型でも後退翼でもない、いうなれば「武骨」と形容できる外見ゆえに、それが逆に一般人にも印象に残ることで、A-10はその知名度を上げているといえるでしょう。

 この機体については多くのことが広く知られており、その“不格好さ”が攻撃機としての性能を追求した結果であることを始めとして、機首に装備された30mmガトリング砲が戦車の装甲すら貫く凄まじい威力を持つことや、数々の実戦での逸話も、書籍やSNSなどさまざまな形で語られています。


デイビス・モンサン空軍基地に配備されたA-10C「サンダーボルトII」攻撃機(布留川 司撮影)。

 しかし、機体構造や性能についてはよく知られているものの、それらを操縦するパイロットの実像は知られていません。

 パイロットはどんなことを任務中にしているのか。筆者は数年前、実際にA-10攻撃機を操縦するアメリカ空軍パイロットにインタビューを行ったことがあり、そのときに乗員目線による同機の特徴や、任務の概要を教えてもらいました。

 インタビューに応じてくれたのはアリゾナ州にあるデイビス・モンサン空軍基地に所属する第354飛行隊「ブルドッグス」のパイロットである空軍大尉(当時)。最初に教えてくれたのは、A-10攻撃機自体の操縦は極めて簡単であるという意外なハナシでした。

「離着陸を抜きにすれば、操縦経験のない君(筆者:布留川 司)でもA-10は飛ばせるでしょう。それくらい飛ばすのは簡単な飛行機です。私はそう思うし、他の多くのパイロットもそう言っていますよ」

空軍の飛行隊なのに陸軍要員がいるワケ

 これは半分冗談かもしれないものの、A-10攻撃機については訓練専用の複座型(2人乗り)の開発が見送られたことを考えれば、操縦自体が簡単という意見は当たらずとも遠からずなのかもしれません。加えて、大尉は「飛ばすだけならね……」と続けます。

「実際の任務は操縦するだけでは終わりません。ターゲティング・ポッドなどのセンサーや兵器の操作、ウイングマンや他の機体との編隊飛行、それに地上部隊との連携など、さまざまなことに注意を払い実行する必要があります。A-10は単座なので、コックピットには私しかおらず(笑)、それを1人で同時に行う必要があります」


A-10Cを装備する第354飛行隊「ブルドッグス」のブリーフィングルーム(布留川 司撮影)。

 A-10攻撃機の主要な任務としては、友軍の地上部隊を支援する近接航空支援(CAS)、前線で友軍航空機などへの航空管制を行う前線航空管制(FAC)、戦場での友軍の救出支援を行う戦闘捜索救難(CSAR)などがありますが、どれもがA-10攻撃機単体ではなく、異なるプラットフォーム(航空機や車両、部隊など)との連携が前提となります。僚機や他の軍用機との共同作戦は軍用機では普通のことですが、A-10攻撃機の場合は地上部隊が中心となるほか、それらは能力も戦い方もまったく異なります。

「我々の任務は陸軍や海兵隊の地上部隊と一緒に行うことが多いです。CASで地上部隊を支援したり、JTAC(統合末端攻撃統制官)などと協力したりする場合、A-10パイロットと彼らは“異なる言語(組織ごとで異なる表現や任務手順のことを指す)”でコミュニケーションをとらなければなりません。それらを使い分けてコミュニケーションする能力こそ、A-10パイロットにとって重要なものと言えるでしょう。実際、我々の飛行隊には陸軍の連絡要員が配属されており、そうすることで日頃から連携が円滑に行えるようにしています」

フライトは1時間強、でもミッションは8時間

 空軍の飛行隊とはいえ、地上部隊との連携が中心となるため、訓練の内容もA-10攻撃機独特のものとなります。大尉は実際に自身が行った訓練の内容を説明してくれました。

「A-10の訓練飛行は通常だと1時間から2時間程度です。しかし、この前の訓練では任務全体で8時間にも及びました。我々のA-10は飛行場から繰り返し出撃して、着陸後にエンジンをかけたまま燃料を補給して再度飛び立つということを行いました。パイロットはコックピットにずっと座っていましたが、途中で持ち込んだドリンクを飲んだりエナジーバー(高カロリーのスナック)を食べたりしました」。


A-10Cを装備する第354飛行隊のブリーフィングルームに飾られた写真。アラスカで行われた2010年の共同演習に参加した航空自衛隊から送られたもので、当時の隊員のサインも入っていた(布留川 司撮影)。

 大尉がインタビューで話してくれたことは、A-10攻撃機にとってはほんの一部分でしかありません。しかし、それでもA-10攻撃機の任務が、一般的な戦闘機とは異なることを感じさせてくれました。

 とはいえ、我々一般人と運用する空軍兵士とのあいだで共通する要素がひとつだけありました。それはA-10攻撃機のサブカル的ともいえる無骨なイメージです。それが最も端的に表れていたのが、今回のインタビュー取材を基地広報に申し込んだときに、担当者が答えてくれたコメントです。

「A-10攻撃機の任務? ただ撃つだけだ!」。まさにこの言葉に尽きるのではないでしょうか。