周囲に田畑が広がり、交通量も決して多くないJR成田線の踏切脇に、大きなお地蔵さんが鎮座しています。地元の人曰く「かつて事故があった」そう。お地蔵さんはその供養のためとも考えられますが、もうひとつ別の理由を考察してみます。

地元の人曰く「事故があった」

 鉄道事故の7割以上が、踏切および踏切付近で起きているといわれます。事故を減らそうと昨今、踏切は立体交差化が図られ、廃止される流れが強まっています。
 
 しかし、全国に3万以上もある踏切すべてを立体交差化することは現実的ではありません。特に運行本数が少ない鉄道路線や、交通量が少ない道路と交差している場所なら、費用対効果という面からも立体交差化の優先度は低いものです。


JR成田線(我孫子支線)を行くE231系電車(伊藤真悟撮影)。

 だからといって全く事故が起きないわけではありません。そこで、ある意味「逆説的に」事故防止を図っていると思しき踏切を紹介します。千葉県印西市の平岡踏切です。

 踏切はJR成田線(我孫子支線)にあります。この踏切を通過する電車は日中1時間あたり上下あわせ4本。当然、開かずの踏切とは無縁ですし、周囲は農村然としていて、交通量も決して多くありません。視界も良好です。

 ただ、踏切の傍らには交通安全を訴えかけるようにお地蔵さんが鎮座しています。その理由を、筆者(小川裕夫:フリーランスライター・カメラマン)が通りかかった地元民らしき高齢女性に尋ねてみたところ、「過去に踏切事故があったから」と教えてくれました。お地蔵さんは犠牲者の供養として建立されているようです。

 ただ、ここのお地蔵さんはひときわ大きいのが気になります。現場の様子から考察すると、もうひとつの理由が見えてきました。

お地蔵さんがあることによって生み出される効果

 先述の通り、同踏切は見通しもよく、鉄道を含めそもそもの交通量は多くありません。しかし、踏切事故の原因は、ほぼすべてがクルマや歩行者の過失によるもの。このような踏切ほど警戒心が緩み、義務付けられている踏切直前の一時停止を怠ったり、強引に通り抜けようとしたりしがちです。

 お地蔵さんを置くことで、通行者に対し「かつて事故があったのかも……」と思わせ、今一度 安全確認することの大切さを訴えかけているのかもしれません。


平岡踏切(小川裕夫撮影)。

 事故が起きた踏切すべてにお地蔵さんが安置されているわけではないでしょうが、場所によっては祠などが安置されている光景も目にします。それらからは、地元の住民が丁寧に維持管理している様子がうかがえます。これは平岡踏切のお地蔵さんも例外ではないようです。

 なぜなら時期によって衣替えをしているから。筆者が訪問した際は、工事作業員が身につけるヘルメットと安全チョッキを着用していましたが、交通安全のタスキをかけている時もあるようです。