世界初 F-16戦闘機が「民間アグレッサー」として運用開始へ 訓練の敵役になる軍事会社とは?
アメリカの軍事サービス企業が保有する民間仕様のF-16戦闘機が、このたびアメリカ空軍の訓練プログラムに関してフライトを認可されたそう。民間企業がなぜF-16を保有するに至ったのか見てみます。
元イスラエル空軍の中古機がベース
アメリカの民間軍事サービス企業TOP ACES(トップエース)は2022年8月16日、自社保有のF-16A「ファイティング・ファルコン」が、アメリカ空軍の訓練プログラムの認可を受けたと発表しました。同社は軍用ジェット機を民間企業として運用しており、それらを空軍の訓練で“敵役”として飛ばすことを主な業務としている民間アグレッサー会社です。
今回、アメリカ空軍から認可を受けたトップエースのF-16A「ファイティング・ファルコン」は、もともとイスラエル空軍が運用していた機体です。退役後に保管されていた29機を2021年に同社が購入し、アリゾナ州メサの拠点において再び飛行可能な状態に戻すとともに、アグレッサー任務で使えるよう独自改良も施しました。
民間アグレッサー会社トップエースが保有する民間籍のF-16AAF(写真:Top Aces YouTubeチャンネルより)。
説明によると機体の改良は多岐にわたっており、AESA(アクティブ・フェイズド・アレイ)型の空対空レーダー、近接航空戦で威力を発揮するScorpion社製のヘルメット搭載型照準装置、戦術データリンク装置、赤外線捜索追尾システムなどを追加したそうです。
トップエースでは、これらを「アドバンスド・アグレッサー・ミッション・システム(AAMS)」と呼んでおり、それらを搭載した機体をF-16AAF(アドバンスド・アグレッサー・ファイター)と呼称しています。機体はF-16の初期型であるA型ですが、これら改良によって訓練では最新の現役戦闘機と渡り合える敵役として各種任務に従事することができるといいます。
民間会社が米空軍に軍事サービスを提供するワケ
トップエース以外にも、海外にはこのような民間アグレッサー会社が複数あり、ホーカー「ハンター」を運用しているATAC社は日本国内のアメリカ軍基地にもたびたび飛来しているため、比較的知られた存在です。ほかにも、旧ソ連製のMiG-29を運用するエアUSA社や、新興系のドラケン・インターナショナル社、独自改良したF-5戦闘機などを運用するタクティカル・エア・サポート社などがあります。
これら民間軍事サービス企業は、旧式化し第一線での使用が難しくなった機体を低コストで運用することで収益性を確保する一方、軍(官)側は後方支援部門の民間委託を積極的に図ることで運用コストの削減につなげられます。
アリゾナ州メサの空港をタキシングするトップエース社の民間籍F-16AAF(写真:Top Aces YouTubeチャンネルより)。
アメリカ空軍の場合、近年は仮想敵国である中国やロシアでステルス戦闘機の開発・就役が進んでおり、訓練でもより高性能の戦闘機が求められるようになりつつあります。そういったなか、民間アグレッサー会社でも新しい航空機の導入が必要となっており、F-16についてはトップエース社以外にも、ドラケン・インターナショナル社がオランダ空軍とノルウェー空軍から退役する機体を購入する契約をすでに結んでいます。
今後は民間籍のF-16も当たり前に飛ぶようになることは間違いなく、もしかしたら近い将来、日本にも飛んでくるかもしれません。