最近増えている冷凍餃子の無人販売店に、「路線バス車体を改装した」という珍しい店舗が登場しました。運転席もそのまま、お代もバス仕様の料金箱に入れます。仕掛けたのは高速バスの会社。代表に話を聞きました。

東京でお馴染みのバス車両、無人餃子店に変身!

 コロナ禍以降、様々なテイクアウトの店舗をよく見かけるようになりましたが、なかでも増えているもののひとつが無人の冷凍餃子店です。そうしたなか、富山県で2022年6月17日にオープンしたテイクアウト専門店「大阪ふくちぁん餃子・高岡バスターミナル店」は、かなりの変わり種。なんと路線バスの車体を改造した店舗です。扉を開けて“乗車“し、ちょっとした旅行気分を味わいながら、気軽に冷凍餃子を買い求めることができます。


大阪ふくちぁん餃子・高岡バスターミナル店。路線バス車両が店舗だ(宮武和多哉撮影)。

 この店舗は富山〜名古屋間の高速バス「きときとライナー」などで知られるイルカ交通 高岡バスターミナルの敷地内にあり、ぱっと見た感じでは「幹線道路沿いに路線バス車両が停車している」ようにしか見えません。しかし車内はしっかり冷凍餃子店。車体の中ほどに据え付けられた冷凍庫のなかには、1パック(36粒入り)1000円の餃子やタレなどが揃っています。今にも走り出しそうな見た目ではあるものの、この車体は既に廃車となっており、エンジンルームも撤去済。前面には空調の室外機が設置され、走行することはありません。

 中古バス車両を活用しただけあって、吊り革や運転席などの設備もそのまま。車両の外観はイルカ交通のコーポレートカラーである黄色に染め抜かれていますが、座席に残っている「みんくる」(東京都交通局のイメージキャラクター)から、元々は“都バス”であったことが容易にわかります。また車種が日産スペースランナーRA(ボディは西日本車体工業製)であることは、車両内部の製造銘板を見ずに外観で気づく人もいるかもしれません。

 ほかにも、LEDの方向表示幕は新しいものに置き換えられ、「ふくちぁん」「イルカ交通」などと表示が可能。前扉は折り戸から観音開き戸に置き換えるなど、業者の方が「通常のバス車両ではこんな改装はまず行わない」と仰るような改装が至る所で施工されています。

 料金箱もバス用(小田原機器製)をそのまま活用していますが、これは他の廃車体からわざわざ設置したもので、都バス時代に設置されていたであろう交通系ICカード端末一体型の機器は撤去されています。

発案者は社長! バス愛にあふれた動機

 オープンして間もないこの店舗の出足は好調で、特に小さな子供はバス車内ならぬ店内を探検したり、座席に座ってみたり、一様に大はしゃぎしているのだとか。この無人店舗を自ら考案したというイルカ交通の西村 寛(ひろ)社長に話を伺いました。

――この無人販売店は、どのような経緯で出店されたのでしょうか?

西村社長:新型コロナウイルスの影響で高速バス「きときとライナー」は乗客ゼロ人という状態が続き、2020年4月に路線開設を予定していた「高山〜高岡線(白川郷経由)」は運行開始を後ろ倒ししたものの、それでも厳しい状況でした。また地域の遠足などがなくなったことで貸切バスの売上減少も大きく、何か新しいことへの挑戦が必要と考えていました。

 そこで、もっとバスを身近に感じていただけるためにバスで(何かを)売ろう! と考えたのです。富山県は1世帯あたりの自家用車保有台数が全国2位でもあり、また開設したばかりの高岡バスターミナルもなかなか場所を覚えてもらえませんでした。ここへ当社のイメージカラーの黄色でラッピングした車両を置くことで、それを覚えてもらう狙いもありました。


行先表示器も「きときとライナー」などと流れるように表示される。種車の路線バスについていたものとは別に調達した(宮武和多哉撮影)。

――御社は「きときとライナー」などの高速バス路線で知られています。なぜ、あえて路線バス仕様の車体を店舗に使用されたのでしょうか?

西村社長:確かに、イルカ交通は高速バス・貸切バス専業のため、路線バス車両をもともと保有していません。当初はコロナ禍で余っていた貸切車両(いすゞガーラ)の活用を考えていましたが、冷凍庫搬入などの関係で車両を半分に切る必要があり、経費的にも心情的にもためらわれ、中古路線バス車両の導入を検討しました。

 中古車を探していたところ、販売業者様の紹介で、イメージとぴったりな、まだきれいなバスを見つけ、新しい業種で生まれ変わればと思い購入しました。なお今回は廃車体を活用しましたが、移動できる店舗の出店も、将来的にはあり得るかもしれません。

「餃子バス」子供の反応は抜群!

――バスを活用した無人店舗の反応はいかがでしょうか?

西村社長:販売開始から近所の方はもちろん、何度も足を運ぶ方もおられ、ありがたいことです。特に親御さんがお子さんに、運賃箱(料金箱)にお金を入れるように教えている姿を見たときは「これこれ!」とうれしくなり、ついつい「ご乗車ありがとうございます!」と言ってしまいます。

無人店舗と言いながらも、社員みんなが“餃子バス“を気にかけてくれます。落ち着いたら、社員みんなで餃子パーティーを開催したいと思います。

――本業のバス事業を含め、今後の展開などはいかがでしょうか?

西村社長:富山の魅力を地元の方にも知っていただくために乗務員が考案した「TOYAMA LOVEツアー」を発売中です。先日はイルカ交通創業の地・小矢部市(高岡市の西隣)の名所を巡るツアーを発売したところ完売!御一人での利用も多く、予想を上回る好評でした。さらにご利用いただければと思います。

 またコロナ禍の新路線開設となった高速バス高山線は現状なかなか大変ですが、岐阜高山の濃飛バス様が共同運行していただけるおかげで維持しております。当社では高山で北陸の発信をと思い、高山に「Information Cafe RYU」をオープンし、行ってみたいと感じられるよう、いろいろな商品を企画しております。


イルカ交通の西村社長。「コロナ禍で、貸切車両の稼働も9割ダウンした」という(宮武和多哉撮影)。

 当社のイメージカラーの黄色いバス、私は「ハッピーイエローバス」と思っています。ご乗車いただいたお客様、黄色いバスを見かけた方、社員がハッピーな気持ちになることが1番かと日々思っています。

ところでなぜ「ふくちぁん」? 関西でお馴染みの店との縁

――ところで「ふくちぁん」は関西では知られていますが、なぜ北陸で出店されたのでしょうか?

西村社長:実はコロナ前に貸切バスでお客様にお酒の提供を考えており、酒販の販売免許を取得していました。その酒販問屋の方のお薦めで北陸進出を検討されていた「大阪ふくちぁん餃子」を食べてみたら、非常においしかった!売るならこの餃子がいい!と思いました。

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 なお、「大阪ふくちぁん餃子」の元となっている「大阪ふくちぁんラーメン」は1976(昭和51)年創業、1号店である塚本店(大阪市淀川区)は、今でもその賑わいを保ち続けています。今回「ふくちぁん」の冷凍餃子を家で調理しましたが、お店の味とほぼ同様に、絶品の餃子を家で楽しむことができました。


「大阪ふくちぁんラーメン」第1号店の塚本店(宮武和多哉撮影)。

 イルカ交通の高速バスで高岡に戻ってきた際の手土産にも良し、店の前には30分無料の駐車場もあるのでふらりと立ち寄ってもよし。餃子の購入ついでに、ふだんじっくり眺めることのない路線バスの車内を見て楽しむのも良いでしょう。