映画『エルヴィス』は本当に歌ってる?歌ってない?

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 公開中の映画『エルヴィス』でエルヴィス・プレスリー役に大抜てきされた俳優のオースティン・バトラーが来日インタビューに応じ、2年間を費やしたという役づくりについて語った。

エルヴィスのことばかりを考えた2年間

 “キング・オブ・ロックンロール”と称される伝説的アーティスト、エルヴィス・プレスリーの半生を映画化した本作。エルヴィスを演じるにあたり、オースティンは「まず彼に関するすべての本を読み、記録映像はすべてのコマまでチェックして、インタビューも全部見ました。あとは好奇心に引かれるままに彼の話し方や動き方を細かく分析していきました」という。

 「でも、常に大切なのはバランスでした。綿密に見る作業をするのと同時に、演じるときはそれがあたかも初めて起きているかのように演じなければいけないので、その両方をうまくやらなければなりませんでした」

 そのため、オースティンは外側から見たエルヴィスを研究するのではなく、すべてをエルヴィスの視点から見て吸収することを重視した。「エルヴィスを一人の人間として、どのように歯を磨くのか、朝どうやって起きるのか、朝ご飯をどのように食べるのかということまで考えて、内側からエルヴィスを感じられるようになるまで、本当に彼のことばかりを考える2年間を過ごしました」

「1950年代は全部、僕の歌声」

 「これについてなら1日話せるよ」と言うくらい、語りきれないほどの役づくりに取り組んだオースティン。エルヴィスの半生を描いた映画とあって、歌唱シーンも不可欠だった。

 映画後半ではエルヴィス本人の歌声が使われ、そのほか一部はエルヴィスとオースティンの歌声を融合させているそうだが、「1950年代(エルヴィスの若い頃のシーン)は全部、僕の歌声を使ってもらっています」とオースティンは明かす。「自分はもともとシンガーでもダンサーでもなかったので、たくさんの責任とプレッシャーを感じました」というが、ボーカルコーチをはじめとする多くの人によるサポートのおかげで乗り切ることができたと感謝する。

人生最大のプレッシャー、それでも挑んだ理由は?

 さらに、エルヴィスという偉大な人物を演じることは「人生最大のプレッシャーだった」と振り返る。「実在の人物を演じるには責任が伴います。それがエルヴィスとなれば、なおさらです。彼には家族もいて、彼らが誇らしく思えるものを作らなければいけないという責任もありました。それに世界中にエルヴィスを愛する人たちがいます。彼らにとっても満足できるものを作りたいと思ったので、相当なプレッシャーがありました」と語るその姿には誠実な人柄が表れている。

 そんな大きなプレッシャーを抱えてでも、この大役に挑もうと決めた理由は何だったのか? その問いにオースティンは「役者として、アーティストとして自分の意欲がかき立てられるのは、自分にとって一番大きな挑戦を受けて立ったときです。なので常に自分が怖いと感じるもの、チャレンジだと思うものを探しています」と答える。

 小さい頃からマーロン・ブランドやジェームズ・ディーンが好きで、『マイ・レフトフット』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『リンカーン』のダニエル・デイ=ルイスや『レイジング・ブル』のロバート・デ・ニーロを見て刺激を受けてきたという彼は「自分を変えるほど、何かを要求される役を求めていたんです」と語っていた。(取材・文・撮影:編集部・中山雄一朗)