林家三平がまさかの卒業!笑点新メンバーを大胆予想 - 松田健次
※この記事は2021年12月29日にBLOGOSで公開されたものです
「笑点」の大喜利メンバーから林家三平が卒業した。笑点から離れることを自ら申し出たという。在籍は約5年半。一番遅く(2016年5月29日)に入ってきて、一番早く(2021年12月26日)に出ていった。「笑点」大喜利メンバーは落語家にとって特権的な座だ。ずっとそこに居るだろうと思っていただけに普通に驚かされた。
あらためて「笑点」メンバーになるということ、その特権は、落語家としてタレントとして全国区での知名度が最高度に保証されるということだ。大喜利は仕組みそのものが結果的にそうなのだが、司会者が回答者を指す時に「はい、小遊三さん」「では、木久扇さん」とその都度都度に名前を呼ぶ。さらに「円楽さんに1枚あげて」「好楽さんの1枚取って」と座布団のやりとりでも名前が飛び交う。
こうして番組中で名前の刷り込みが延々と繰り返されることで、全国区での知名度はもはや現役の閣僚など比にならぬほどの高さで保証され、それが毎週毎週忘れようもなく補完され続ける。笑点の大喜利は仕組みそのものがメンバーのパーフェクト・プロモーションなのだ。(そう考えると司会者は名前を呼ばれる機会が少なく、メンバーの中では役損とも言えるが・・・)
結果、地方公演、地方営業、官公庁のイベント、CM出演等で他の落語家よりも圧倒的なアドバンテージを得る。
そうして、タレントパワーは高くキープされ、降板しない限り芸人人生としての仕事が保証される。その場所に入居すれば、生涯安泰という落語家にとっての「やすらぎの里」・・・、それが「笑点」の大喜利だ。
もちろん初めから「やすらぎの里」だったわけではない。昭和の時代、「笑点」の歴史における初期~中期はそれなりにメンバー交代が多々あった。だがそれも、司会者が五代目三遊亭円楽(司会歴1983年~2006年 通算23年)、桂歌丸(2006年~2016年 通算10年)の長期政権下で大喜利メンバーは固定化され、コンスタントな高視聴率にも支えられ、日本テレビの中で功労を讃えられ続ける長寿番組として位置づけられていった。
功労と固定は二人三脚だ。現「笑点」が醸す安泰感は、番組中期以降に着々と高齢化していったメンバーの固着によるものだ。ありていに言えば、林家こん平、五代目三遊亭円楽、桂歌丸、みなそうなるが、体力的な問題以外でメンバーは動かない。もしくは(番組側がもはや容易には人事を)動かせない。
しかし、その安泰の場から林家三平は自ら離れることになった。それによって認識し直したことがある。それは、笑点の大喜利メンバーはその座を与えられれば、誰もが「なれる」ものだと思い込んでいたのだが、違うということだ。
番組中期以降の新加入だった、林家たい平、春風亭昇太が、どちらもすんなりと大喜利メンバーになっていったことで錯覚していた。それは決して自然なことではなく両者とも高いスキルを持っていたからそう見えていたのだ。三平によりそれに気づかされた。大喜利メンバーは指名されれば誰でも「なれる」わけではなく「なる」ためのスキルが必要なのだと。
とはいえ、少し遡って三遊亭好楽について考えれば、好楽はかなり長い間「面白くない」と言われ続けてきた。だがそれも長い時間をかけて「仕事がない」「落語が下手」などの開き直りのキャラを熟成させ、今ではその無欲加減が癒しに受け止められるキャラとして、欠かせない位置を築いていった。
たい平、昇太のようにすんなりと大喜利メンバーとしての地位を築けなくても、三平は好楽のように長い時間をかけて、なにがしかのキャラを獲得していくのだろうとも感じていた。なにしろ現「笑点」はやすらぎの里なのだから、と。
しかし、そうはならなかった。三平卒業は「やすらぎの里」を揺るがした。そしてフェーズは次へと移る。次の大喜利メンバーはいったい誰なのか?
笑点新メンバーに求められる条件は
そこで確実に言えるのは、この新メンバー選出に関し、番組側は5年半前の林家三平選出時とは違う意識にならざるを得ないということだ。同じ轍は踏めないのだと。
現在、笑点関係者には強い箝口令が敷かれ、新メンバーに関する情報はまったく漏れてこない。が、自分は仕事柄、春風亭昇太師匠と顔を合わせる機会があり、何かしら情報をと本人にすがったところ、唯一わかったのは『昇太が司会から大喜利メンバーに戻り、司会が新たに選ばれる』ことはない、という・・・薄い情報だけですみません。
やはり自力で推測するしかない。繰り返すが今回の新メンバー選出は、三平卒業が番組にとって大きなトラウマとなったことを踏まえ、考えるのが理にかなう。要するに三平の逆目を張ればいいのだ。となると、
1、スキル重視
2、知名度問わない
3、コネ払拭
そしてもひとつ押さえるならば、只でさえ高齢化しているメンバーの平均年齢をむやみに上げることはないはずだ。ゆえに、
4、若い
現メンバーで最年少のたい平よりも若いことが必須条件になるだろう。この1~4をクリアしつつ、「笑点」地上波の大喜利メンバーという「A代表」にふさわしい落語家が候補だ。所属協会ごとにしらみつぶしてみる。(以下、5段階評価。★★★★☆なら星4つ)
「笑点」新メンバーを大胆予想
《落語協会》
【柳家三三 やなぎやさんざ】(47歳)
いきなりの実力派。高座も見事だがトークスキルも高くベテラン達との絡みも問題ない。上品な毒気もある。ルックスも涼やかでいい・・・、という真っ当な理由もあるが、笑点にはビジネスの側面が大きくある。いわゆるグッズ販売だ。
笑点メンバーの名前が入った湯呑みや文具など様々なグッズが作られ収益化している。三平卒業により林家三平の名が記されたグッズはおのずと旧品になり価値が下がる。そこで柳家三三の名が挙がる。彼が加入すれば、林家三平の「林」「平」に「柳」「三」の訂正シールを貼ることで、あっという間に「柳家三三」グッズとなりグッズ担当者もバンバンザイ・・・って、すみません、単なるツカミです。現実には人間国宝・柳家小三治の芸魂を継ぐ三三に笑点の大喜利は別世界でしょう。
★☆☆☆☆
【春風亭一之輔 しゅんぷうていいちのすけ】(43歳)
なにかと売れっ子。スキルは文句なし。高座は全国から引っ張りだこでその多忙ぶりは落語界において柳家喬太郎と双肩だ。5年半前の三平加入のタイミングだったらメンバー入りの可能性はもっと高かったろうが、多忙を極める現時点からの加入はスケジュール的にかなりハードだろう。
実は先日、ご本人と顔を合わせる機会があり「笑点の新メンバー入り、おめでとうございます」とカマをかけてみた。しかし、「は?」とリアクションは薄く、顔色はまったく変わらず。仕方ないので「新メンバー、誰になると思います?」と訊いてみたら、「そうすねぇー、〇〇〇アニさんじゃないすかぁ~」と他人事のようなトーンでメジャーな名を挙げた。
春風亭一之輔に新メンバーの打診は来てないのだな・・・と思ったが、いや待てよ。大体いつもこの人はどんな話もリアクションが薄く、他人事みたいに言う節がある。本意がわかりづらいのだ。しかも「〇〇〇アニさんじゃないすかぁ~」と挙げた名前は冷静に考えると新メンバーとしてかなり「ありえない」。もしかしてもしかすると、この話題になった時に自然と他者に矛先を変えるため、あらかじめ用意しておいたフレーズかも。そう考えると段々あやしく見えてきた。
★★★★☆
【柳家わさび やなぎやわさび】(41歳)
BSでの若手大喜利メンバーでは虚弱キャラを確立している。高座もクリエイティブで才に溢れている。だが地上波のA代表は泥臭いタフさが求められる。どちらかと言えばわさびは清流が似合う。5年後のメンバーか。
★★★☆☆
【春風亭ぴっかり☆ しゅんぷうていぴっかり】(アラフォー)
BSでは女流大喜利のレギュラー。来春真打昇進で名前が蝶花楼桃花(ちょうかろうももか)に改名される。時代は男女機会均等にジェンダーフリーで、地上波の高齢メンバーに紅一点で加われば画的にも華やぐだろう。高齢メンバーをいじる介護キャラも想定できるし、独身キャラも見える。だがその反面、おじさん達の中での紅一点はセクハラネタの急増を招きかねない。番組にとっては炎上の火種にもなりかねない。これが紅一点ではなく紅二点、紅三点など一気に女性が増える日が来れば話は別だが。
★★★☆☆
《落語芸術協会》
【瀧川鯉斗 たきがわこいと】(37歳)
元暴走族の総長でイケメン、雑誌モデルやバラエティ番組やドラマにも活動を広げ、タレントとしての勢いを増している。しかし笑点の大喜利はチームプレーであり、個々人の「マイナス要素」をいじりあうのが笑いの起点となる。鯉斗の場合、アウトローの過去もあるが、見方を変えれば「強さ」というプラスであり「イケメン」もプラス。チームプレーより個人プレーで羽ばたくタイプか。
★★☆☆☆
【桂宮治 かつらみやじ】(45歳)
若手大喜利のメンバーでは、明るさ、器用さ、アドリブ、協調性、安定感・・・五角形なら最も大きく描かれるだろう。地上波のメンバーとも臆することなく絡める姿が目に浮かぶ。5年半前にも有力候補としてその名が挙がっていた。この5年半の間に真打昇進し、いい意味で経験値も増している。ドリアンなら匂いぷんぷん状態にある。
★★★★★
【柳亭小痴楽 りゅうていこちらく】(33歳)
座して醸す洗練された雰囲気は天性のもの。その存在感は貴重だ。もしレギュラーになればその雰囲気はさらに磨かれタレントとしての魅力も増すだろう。また、ヤンチャさに裏打ちされた愛嬌でベテラン達に可愛がられる「孫感」もたっぷりで、チームに溶け込む早さが想像できる。その一方で、中身はあちこち欠けていて隙だらけ。この外側と内側のギャップがいいキャラクターになりそう。
★★★★☆
【春風亭昇也 しゅんぷうていしょうや】(39歳)
若手大喜利では常に全体が見えていて、裏回しが出来る存在。昇太一門であり、地上波レギュラーになれば師弟ネタで存在感を出せそう。来年真打昇進が決まっている。それもタイミングとしてプラス要素だ。
★★★☆☆
【昔昔亭喜太郎 せきせきていきたろう】(40歳)
妙な可笑しさを持っている。内側からにじみ出る天性の可笑しさを演芸の世界では「フラ」「フラがある」というが、若手大喜利のメンバーで喜太郎は「フラ」で抜けている。もし地上波メンバー入りすれば木久扇と並び「ボケ」単体の役割を担える貴重なキャラになるだろう。全員から総ツッコミ&総いじりを受け、一気に化ける可能性を秘めている。
★★★★★
《五代目円楽一門会・落語立川流》
見渡してみたが、今回の最終候補は見当たらず。5年後10年後には様相が変わるかもしれない。
と、自由に予想を展開してきたが、あらためて繰り返せば、三平卒業というトラウマによって「笑点」サイドはかなり手堅くスキル重視で人選してくるはずだ。起用したら安定した打率が見込める手堅さ。そこに立ち返りこの予想をまとめれば、最有力は春風亭一之輔と桂宮治だ。スケジュールを考慮すれば宮治だ。うーん、こうして突き詰めると新メンバー予想をしている他の方々の予想と、さほどの差はないか・・・。
だが、「笑点」がこの期に及んでトラウマを蹴散らし、こういう時だからこそ大胆な冒険を決行する気力を残していたなら喜太郎だ。個人的には喜太郎の未知数を見てみたい。(執筆・2021年12月25日)