「ユニクロ=格好いい」ブランドに 英国ファッション業界で広がる人気 - 小林恭子
※この記事は2021年09月28日にBLOGOSで公開されたものです
日本では、その名を知らない人はいないであろう衣料ブランド「ユニクロ」。
筆者が住むイギリスにユニクロが進出したのは、2001年9月。ちょうど20年前である。当時は低価格でかつ流行を素早く取り入れた商品を提供する、いわゆる「ファストファッション」ブランドという扱いだった。
しかし、最近になって、複数の新聞のファッション欄でユニクロ衣料がお勧めとして紹介されていることに気づいた。ユニクロはいつしか、「クールな(格好いい)ブランド」として、イギリス社会にしっかりと根を下ろしていた。
ユニクロも店舗を構えるイギリスのファッション激戦区
筆者が良く行く、ロンドン郊外のキングストン商店街で、ユニクロの存在を確認してみたい。
ロンドン中心部から電車で約20分のキングストン(正式名はキングストン・アポン・テームズ)は中世以来のマーケットタウンで、住民の平均年収は全国平均よりも上だ。
人口は17万人強だが、近隣から訪れる人を含めると、買い物客人口は1日で約50万人に上る。
衣料ブランドにとって、キングストンは激戦区になる。
大通りに面して、百貨店ジョン・ルイス、H&Mが入る複合ビルのベントール・センターや中堅スーパーのマークス&スペンサーが並び、GAPやRiver Islandなどの路面店がその間を埋めている。
ブランド店などがひしめくキングストンエリアの西端にジョンルイスが、その反対側にユニクロがある。端から端まで歩いても、10分もかからない。大通りから枝分かれするバス道には、低価格の衣料品で大人気のプライマークがある。
イギリスのショッピング 価格帯は?
イギリスは世帯収入などによって、どこで主にショッピングするかが変わる。
各ショップでどれほどの価格差があるのか。実際に歩き、店頭に置かれている女性用衣料の価格を比較してみたい。
まず、富裕層がメインターゲットである、ジョン・ルイスに行ってみる。
店内には数々のブランドショップがある。例えば、環境に配慮した製品づくりを掲げるブランド「Baukjen」秋冬用のミリタリージャケット風上着は169ポンド(約2万5000円)で、中流以上の層に人気の「Boden」のブレザージャケットは140ポンド(約2万円)だ。
ほかのブランドも、秋冬用のジャケットは2~5万円ほどだった。
これよりも一段低い価格設定になっているのが、マークス&スペンサー。
3万円近くのジャケットもあったものの、大多数は7000円から1万4000円台である。
そして最も価格が低いのがプライマークだ。
訪問した日に目が付いた中では、裾が長いコートが35ポンド(約5200円)だったが、大部分が10ポンド(1500円)から15ポンド(2000円)。長そでTシャツでは一番安いものが1枚2・5ポンド(約380円)だった。
プライマークから歩いて3分ほどの場所には、大きなチャリティーショップがある。
慈善組織が経営する小売店で、市民が持参した古着を販売する。働いている人は無給ボランティアが多い。女性用ジーンズや上着が5ポンド(約750円)ほどで買えてしまう。
ユニクロは安くない なぜ人気に?
ユニクロはどのような位置づけになっているのだろうか。
キングストンエリアの中でユニクロは「通りの端っこから、ちょっと行ったところ」に位置している。普通に大通りに来ただけでは、あのロゴ入りの赤い看板を知らなければ存在が気づきにくいかもしれない。
ユニクロのキングストン支店はそれほど大きくなく、細長いフロアスペースが1階と2階にある形となっている。
日本で販売されている商品もイギリスでは別価格になっている可能性があるので、少し紹介してみると、
・ダウン素材のコート=159ポンド(約2万3000円)・メリノ素材のドレス=49.90ポンド(約7480円)
・長そでのTシャツ=14.90ポンド(約2200円)
・半そでのTシャツ=9.90ポンド(約1480円)
ダウンコートはジョン・ルイス並みだが、その他はそれほど高い価格帯ではない。しかし、キングストンで「安いから、買う」ブランドに行きたいなら、客はプライマークに足を向けるはずだ。
では、買い物客は何に惹かれるのか。
アーチストとのコラボで注目
イギリスでのオープン当初、手ごろな価格で買えるという点が話題となったのは間違いない。しかし、ファッショントレンドに鋭敏な人がユニクロに注目するようになったのは、複数の著名アーチストがデザインに参加したことがきっかけだった。
最近の事例の1つが、ドイツのデザイナー、ジル・サンダーとの共作だ。サンダーと言えば、「クールで、シャープな仕立て、細かい部分へのこだわり」で知られるデザイナーだ(タイムズ紙、3月24日付)。
サンダーのスーツは通常、1着2000ポンド(約30万円)にも上る。しかし2009年、ユニクロとの共作「+J」コレクションにより1着200ポンド(約3万円)ほどで買えることになった。
当初の「+J」コレクションは2011年でいったん終了するが、2020年秋に復活。今年3月には第2弾が発表された。
新型コロナウイルスの感染拡大でロックダウン政策が敷かれるなどしたイギリスでは、ファッション業界も大打撃を受けた。しかし、ワクチン接種が広がったことで街は現在、落ち着きを取り戻しつつある。
記事が賛辞「グッチのファッション・ショーからBBQパーティーまで」
「商店街が戻ってきた」という見出しがタイムズ紙のファッション記事で踊ったのは9月12日。ユニクロ が注目ブランドの1つとして紹介されていた。
記事は「ジル・サンダーやジョナサン・アンダーソンなどのデザイナーとの共作」によって、「長い間、ファッション業界人にとって欠かせない存在となってきた」ユニクロが、今度はエルメスにいたクリストフ・ルメールとともに「ユニクロU」を打ち出してきたことを伝える。
書き手が注目するラインナップのひとつがパンツだ。「実用的」であるとして、「これならグッチのファッション・ショーの最前列から友人宅のバーベキュー・パーティーにも着ていける」と賛辞を送っている。
ヒートテックやエアリズムなど新素材の開発によって「着心地の良さ」を独自に追求してきた点も高評価を受けている。
筆者が実際に着用してきた経験から言うと、「長持ちする」ことも利点だろう。Tシャツ1枚を例にとれば、2000円相当のユニクロのTシャツはプライマークのTシャツよりは高いが、何年も着られる。もちろん、毎シーズン、異なるTシャツを着たいという人もいるだろうが、気に入ったものであれば、長く着たいという人は多いのではないか。
"格好いいから"選ばれるユニクロに
ユニクロを展開するファーストリテイリング社を巡っては、中国の新疆ウイグル自治区での強制労働問題に関連して今年1月、アメリカが綿シャツの輸入を差し止め、今年夏にはフランス当局が現地法人を捜査するなどした。同社は「人権の尊重に問題はない」などのコメントを出している。
こうした動きの中で、イギリスではウイグル問題と関連付けての反ユニクロ感情はほとんどない。もしあったら、新聞のファッション欄で「お勧め」としては出てこないだろう。注目されているのは、その「クールさ」なのだ。
筆者は日本に住んでいたころ、ユニクロが厚ぼったいトレーナーを販売していたころを思い出す。当時、「重くて、やぼったい」と友人たちは不平を漏らしていた。
しかし、今やユニクロは海を越え、「デザイン的に優れた」ブランドとして、イギリスの業界人の間に浸透している。
ユニクロがいつの間にか、「格好いいから」選ばれている存在になっていることにうれしい思いがするのである。