「風邪を引いても受診をためらう」LGBTが医療現場で直面する課題 - BLOGOS編集部
※この記事は2017年09月06日にBLOGOSで公開されたものです
8月8日、コミュニケーション課題の解決に取り組む「テトテトプロジェクト」の第一弾として「LGBTと医療」をテーマにトークセッションが開催された。NPO法人共生社会をつくるセクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク代表理事の原ミナ汰氏と、性同一性障害診療の第一人者である、はりまメンタルクリニックの針間克己院長が登壇し、LGBTが医療現場で抱く苦悩、また、その悩みに対し医療関係者はどのようにサポートすべきか講演が行われた。【取材・執筆:後藤 早紀】
見た目からは理解されないという辛さ
LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字をとった表現で、性的マイノリティの総称とされている。最近ではLGBTという表現を以前より耳にすることが増えたように感じるが、彼らが何気ない生活の中で直面する課題について知る機会はまだあまりないのではないか。
私たちは普段、風邪を引いたり骨折をしたら、当たり前のように病院へ行き診察を受けている。しかし、LGBTの人はそういった”当たり前”の中にも困難を抱えているのだと原氏は話す。
原ミナ汰(以下、原):LGBTの約半数以上は義務教育課程で自分がLGBTだと気付きはじめます。その頃から学校での健康診断に抵抗を感じて受けたがらなかったり、日常的に着替えが遅いといったことが起こります。
10代前半ではまだ自分がLGBTだと自認することは難しい。いじめや虐待を心配した先生は、可能性の一つとして「性同一性障害か」と問うことがあるというが、そういった経験が医療受診をためらうきっかけになるという。また、年齢を重ね、自分がLBGTだと自認してからも医療現場においてさまざまな課題に直面する。
クリニック受診の際、呼ばれるのを待っていても外見と診察券の性別の不一致で「不在」と思われいつまでも呼ばれない。入院時に、自認する性と異なる性別の病棟に割り振られ、生活面で苦労がある。健康診断時のローブの色、更衣室での着替えといったこともLGBTの人を医療受診から遠ざけるという。
そして、自認する性別は見た目から周囲にわからないということが、病院への嫌悪感に繋がることもある。外見から「患者は男性」と判断した検査技師に「結構胸ありますね」と話しかけられ、自身を「女性」と自認する本人にとってはセクハラを受けたと感じ、苦痛だったという例もあるのだという。
LGBTの人が医療現場で抱くこれらの抵抗感を和らげるには、どういう対応が必要か原氏は以下のように提案した。
原:一つは、診察券や保険証を自身が自認する性別の通名で発行できるようにすることです。また、入院時は事前の問診票で、回答の選択肢を増やすことが必要です。性別の項目に男女の他の選択肢を設けたり、これまでの治療に関するチェック項目などがあるといいと思います。さらに、院内にLGBTの関連資料を置き、他の利用者さんの啓発を行うことが有効です。
病院は過去に起きた不都合や困りごとの事例を蓄積することで、スムーズな対応ができるようになる。原氏は、一回一回の事例を無駄にせず、集団的解決のシステムを構築すべきと医療機関にお願いしているという。
「LGBT=性同一性障害」という誤解が医療への抵抗感を生む
針間氏はLGBTの医療を専門とする医師の立場から、医療現場における課題と対策を語った。まず、LGBTに対してよくある誤解について指摘した。
針間克己(以下、針間):トランスジェンダーという言葉は「病気ではない」という意味合いが込められています。一方、性同一性障害は「病気である」という言葉です。つまり、一つの現象に対して異なる見方があります。
LGBTの中でトランジェンダーは身体的な性別と自認する性別が異なる人のことを指すが、そのすべてが「性同一性障害」とイコールではない。針間氏によると、「性同一性障害」とはトランスジェンダーのなかでも、心理的、精神的苦痛が強く、性別に関する医療的ケアを要する人を指す。
針間氏は医師として「性同一性障害」の人を専門に診療している。日々の診察を通して針間氏が感じた彼らの悩みとしては、原氏同様、診察券・保険証の性別に違和感を覚えることや、氏名を呼ばれ際の周囲の目、噂話をされているのではないかという不安などがあると話した。一方、そのような悩みを抱く気持ちは理解できるとしたうえで、針間氏は医師の立場から以下のように指摘した。
針間:保険証を身分証代わりに提示する際に、性別表記で精神的苦痛を覚えることは理解できます。しかし、性同一性障害を専門とする医師として、20年以上LGBTの見方のつもりで向き合っていますが、保険証の性別を自認する性別で記載するのは違うのではないかと正直思っています。
保険証には戸籍上の性別を明記してほしい。どうしてかというと、当たり前ですが病院においてはその人が生物学的に男性か女性かというのは極めて重要な情報だからです。また、性転換等の手術を受けて戸籍の性別や、保険証の性別を変更したとしても、治療歴やそういった経緯があることは診察前に必ず医師に伝えてほしいです。
またLGBTの人が医療受診から足が遠のく理由として、医師の理解不足も一因としてあるという。専門医ではない医師の中には「LGBT=性同一性障害」という認識で診察をする医師もいて、LGBTだと伝えると性同一性障害の治療を勧める場合があるそうだ。風邪や骨折などで受診しており、性別に関する治療を必要としていないのに、そういった診断を受けることが苦痛となり”医療受診は気の重いものだ”という認識を植え付けてしまう。
針間氏は、LGBT及び性同一性障害の人がより生きやすい選択をできるよう、LGBTの当事者と医師の両方に以下のようにアドバイスした。
針間:当事者さんにお願いしたいこととしては、医療における必要な情報が何かということは理解してほしいというのがあります。治療に必要な診察において、あまり被害者的な意識を持ちすぎないでもらえたらと思います。
医者の方も同じことですが、まずは治療に必要な情報を理解することです。LBGTと性同一性障害を混同するようなことはせず、性同一性障害だからといってすぐに「HIV検査をしろ」といった診断をすべきではありません。過不足のない診察をするということ。話し合って人権に配慮した治療を行うことが必要です。
また、針間氏は医学教育の必要性にも触れ、長い目で見た場合に、医者をはじめ医学生、社会全体が理解を深めていくように啓発を行うことが重要だと話した。LGBTの当事者と医師、双方の理解が深まり性自認を打ち明けるハードルが下がれば、医療受診に対する抵抗感を少し和らげることができるのではないだろうか。