ネット通販増加で苦しむヤマト運輸 その裏で儲けるのは″あの業界″? - おおたけまさよし
※この記事は2017年04月01日にBLOGOSで公開されたものです
ネット通販の増加で苦しむヤマト運輸。その裏で儲けているのは「あの業界」だった?春は引っ越しシーズン、近所でも引っ越し業者のトラックをよく見かけます。引っ越しといえば、欠かせないのが段ボール。どんなものでも入るし、便利ですよね。
家の中を見渡せば、ネット通販で購入した空き箱だらけ。Amazonさん、楽天さん、お世話になっています。
このネット通販の荷物を届けてくれる配送業者。特に、Amazonの配送を請け負っているクロネコヤマトが、業務超過で大変なことになっているというニュースが大きく報道されています。
宅配便最大手のヤマト運輸が、9月末をめどに宅配便の基本運賃を引き上げる方向で検討していることが分かった。個人が送り主となる小口の荷物も含めた全面値上げは、消費税増税時を除くと1990年以来27年ぶり。インターネット通販の普及に伴う宅配便取扱量の急増で、配達員らの人手不足が深刻化しており、サービスの維持には値上げが必要と判断した。セールスドライバーのみなさんは大変そうです。一方、Amazonの配送から手を引いた佐川急便は、こんなことを話しています。
ーヤマト27年ぶり、全面値上げ検討…宅配取扱量が急増(毎日新聞)
SG(佐川急便)ホールディングス会長の栗和田榮一は、2014年の「会長訓示」でアマゾンとの取引の打ち切りについてこう語っている。 「昨年、ライバル(著者注・ヤマト運輸を指す)に『通販会社(同・アマゾンを指す)の100億円のエサを提供した』と私は思っている。これは(佐川)急便の収入の1.5%である/結果としてライバルは、集配品質の低下と固定費が増加した/必ずこれまでの体制を見直すはずである/事実クール便を40%UPで交渉を始めたとも聞く」クロネコヤマトのセールスドライバーさんは、善良な方ばかりだからいいけど、僕なら「何が佐川男子だ!写真集まで出して調子乗ってるな」って思っちゃうよなー。
ー佐川急便 Amazonと取引停止で「ライバルに100億円のエサ」(NEWSポストセブン)
待てよ。これだけクロネコヤマトさんが大変ということは、商品を運ぶために必要な段ボールの需要も当然高まっているはず。これは段ボール業界にバブルがやってきてるかも!?さっそくググらずに調べてみたいと思います。
儲かってる?ダンボール業界
段ボールの業界団体と言えば「全国段ボール工業組合連合会(全段連)」。この連合会は・・
全国段ボール工業組合連合会は(全段連)は全国4地区の段ボール工業組合(東日本、中日本、西日本、南日本)の連合会です。全段連組合員企業の段ボール生産量は、国内生産量の約90%を占めています。日本の段ボール関連団体をまとめているんですね。ここなら、昨今の段ボール業界の動向についても詳しいはず!電話してみました。
ー全国段ボール工業組合連合会
全段連の担当者の方によると、「全段連のホームページに段ボールの出荷数をまとめたデータがあるので、それを参考にして欲しい」とのこと。
そして「段ボールメーカーの現場の状況については、各メーカーに問い合わせて欲しい」という返事でした。ご対応いただきありがとうございます。
データを見ていきたいと思いますが、その前に注意点を1つ。このデータに掲載されている段ボールの数は、あくまでも全段連が把握しているものだけ。
さらに、段ボールを自分の会社で作ってそれを配送用に使っているところと、他社が作った段ボールを利用して配送しているところ。大きく分けてこの2種類があるそうですが、全段連がデータとして把握しているのは、前者の段ボール製造から配送まで自社で行っているメーカー。
それ以外のメーカーが作ったり、配ったりしている段ボールは、今から見るデータには反映されていないのでご注意ください。
通販・宅配 引越し用の項目を見ると、2007年(平成19年)の合計は2億4035万5000㎡。それから10年後、2016年(平成28年)の通販・宅配 引越し用の合計は、4億7939万4000㎡。
2倍とまでは行かなくても、プラス2億㎡も増加。10年前より2億㎡分も通販の商品だったり、引越しの荷物に段ボールが使われたことになります。ただ2億㎡というのがピンとこない。
そこで東京ドームで換算すると、なんと約4228個分だそうです。ここまでいくと、もはやすごいのかどうかよく分からないですが、とにかく数が増えているということは分かります。
「通販・宅配 引越し」に限らず、「段ボール需要部門別消費動向」の合計を見ても2007年は約93億㎡で、10年後の2016年は約100億㎡。全体で見ても段ボールの消費は増えているんですね。
段ボールが生まれたのは江戸時代
このように消費が増えている段ボールですが、そもそも段ボールはいつ生まれたのでしょうか?生活の中に当たり前にありすぎて、いまいち知らない段ボール誕生のストーリーについて調べてみました。段ボールが誕生したのは、1856年のイギリス。当時の日本は、江戸時代。徳川13代将軍 徳川家定の時代です。当時イギリスでは、シルクハットが大ブーム。しかし、暑い日の帽子の中はサウナ状態で、汗をかくと大変。そこで、波上にジグザグに折った厚紙を、シルクハットの内側に入れて、汗を吸収する汗取りパッドとして使用していました。
この時は「段ボール」という名前ではなくて、「フルート」と呼ばれていたそうです。段ボールの波型の部分をフルートと呼ぶんですね。綴りも楽器の"flute"と同じで、現在でも厚紙と厚紙の間にある波型の部分はフルートと呼ばれています。
そんな段ボールが、今と同じような役割を担うようになったのは、それから約20年後の1875年。アメリカで、火薬瓶、ガラス瓶、ランプのガラス部分が割れないようにする緩衝材として使われるようになります。
波型のフルートだけでは強度の面で不安があったので、考案されたのが「ライナ」と呼ばれる補強用の段ボール。(我々が触れる外側の部分のことです)。これを波型のボール紙にくっつけることで強度を高めました。この形が、今でも使われているというわけです。
その後、段ボールが物流の分野で脚光を浴び始めます。当初は緩衝材として使われていたのですが、1894年になると、木箱に代わる輸送用の容器としても使われ始めました。
ただし当時の段ボールは、現在のような折りたたみ式ではなく、蓋や底がバラバラに分かれた形でした。
明治42年、日本でも段ボール製造開始
こうしてイギリスで生まれ、アメリカで成長を遂げた段ボールが日本で初めて製造されたのは、1909年(明治42年)。のちに、「日本の段ボールの父」と呼ばれることになる実業家の井上貞次郎氏が、機織り機をヒントに製造機械を自ら考案。機械化されたことで量産にも成功し、商品として売り出されることになりました。ただ、この時に悩んだのが名前。今でこそ当たり前に段ボールと呼ばれていますが、1909年の時点では「段ボール」という言葉はありません。
当時の日本でガラス製品の緩衝材として使われていたのは、ペラペラのボール紙。正式な名前はなく「電球包み紙」と言われていたそうです。段ボールのようなクッション性は全く無く、1枚の紙を山型のジグザグに縮ませただけで、押さえつければペシャンコになってしまうものでした。
ドイツからの輸入化粧品などには現在の段ボールとほとんど変わらない緩衝材が使われていました。この紙は「なまこ紙」と呼ばれていましたが、井上貞次郎氏はこの「なまこ紙」の国産品を作ろうと試行錯誤し、国産初の段ボールを完成させたわけです。
名前をつける際に、候補として上がったのが、弾力紙、波型紙、しぼりボール、コールゲーテッド・ボードなどなど。コールゲーテッド・ボードなんて「?」ですが、その中で最も語呂の良い「段ボール」に決まりました。
波型の段が付いたボール紙なので、段ボール。コールゲーテッド・ボードにならなくて本当に良かったと個人的には思います。
現在、段ボールを中心とする包装資材の製造・販売大手の1つにレンゴー株式会社がありますが、こちらの創業者が何を隠そう、日本の段ボールの父・井上貞次郎氏。2009年には、段ボールもレンゴーも誕生から100周年を迎えたそうです。
技術革新に伴い段ボールの製造機械も徐々に大きくなっていき、より早くより良質な製品を生み出せるようになりました。1964年に開催された東京オリンピック以降は、日本経済の発展に伴って様々な商品の大量生産がスタート。そうした商品を運ぶために、段ボールの生産量も一気に増加しました。
また、段ボールへの印刷技術も進化したため、緩衝材、輸送用だけでなく、広告としての役割を持つようにもなりました。
1974年に起きたオイルショックによって、それまで右肩上がりを続けていた段ボールの生産量が初めてマイナス成長となりますが、日本経済がバブル期に入ると再び生産量は順調な伸びを示し、1990年における段ボールの生産量は、123.4億㎡を記録しました。
ちなみに、2016年の段ボールの生産量は、約140億㎡。段ボールの生産量だけみれば、日本はバブル期よりも盛り上がっているということになりますね。
一方、海外の段ボール生産量を調べてみると、国際段ボール協会が発表している2015年の段ボール生産量によれば、1位中国、2位アメリカ、3位日本という結果でした。
段ボールの生産量はその国の経済発展に連動するようで、2015年の中国は今よりも経済的な勢いがあった時期。GDP=国内総生産と連動するかのように、段ボール生産量で長い間1位だったアメリカが、中国経済の急成長で2位となったようです。
長い間不況が続く日本ですが、段ボール業界だけをみると案外、景気が上向く日が近いのかもしれませんね。