笑点でテツandトモが披露した″安倍総理顔マネ″の爆発力 ー もしも「総理まね1-グランプリ2017」があったら - 松田健次

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※この記事は2017年03月21日にBLOGOSで公開されたものです

3月5日(日)放送の「笑点」を観ただろうか。この日の視聴率は19.6%、相変わらずの高値安定ゆえ観た方は多いと思う。山口県周南市からの公開収録で、前半の演芸ゲストにテツandトモが登場した。安定の鉄板ネタで笑いを重ねる姿をゆるく眺めていた。するとネタの終盤、思いもよらぬ突風が吹いた。

<2017年3月5日放送 「笑点」(日本テレビ)より テツandトモ 採録>
トモ「きょうは山口県周南市に特別ゲストが来てくださいました。さあそれでは早速紹介させて頂きます。大きな拍手でお迎えください。山口県出身のこの方です、総理大臣、安倍晋三さんです!(ギターをかき鳴らして盛り上げ)」
テツ「(前髪多めのカツラをつけ、安倍総理の顔メイク、右手を上げて登場)~(客席大喝采)~(神妙な面持ちで何度も頷きながら聴衆に応えて舞台中央へ)」
トモ「ありがとうございます。総理わざわざ来て頂きました。ひと言お願いします」
テツ「・・・アベシンゾウです」(客席爆笑)
トモ「知ってます。安倍さーんって言って出てきてるんだからわかってます。でもね、先日はトランプ大統領とゴルフに行かれたということですけれども」
テツ「うん」
トモ「いかがでしたか?」
テツ「ぶち、えらい」
トモ「(地元、山口弁で)すごく疲れた!もういいよ!(ギターIN)はい」
二人「♪なんでだろう~ なんでだろう~ なんでだなんでだろう~」
トモ「山口弁で」
テツ「なんでじゃろう~ なんでじゃろう~ なんでじゃなんでじゃろう~」

上記採録は雰囲気を追想する一助に過ぎないが、テツが披露した安倍総理の顔マネがあまりの絶品で驚いてしまった。

顔の輪郭をテープでメイクし、独特の頬を強調。顔は総理なのだが首から下はいつもの赤いジャージ。顔と体の階級格差がまさしく「なんでだろう」であり、しかも総理の顔で「♪なんでだろう~」と歌い踊る姿がシュールでナンセンス、ひたすらバカバカしかった。

しかも時期的に森友学園問題が広がりを見せ、総理への注目が高まっており、はからずもテツの安倍総理顔マネは「総理いじり」のタイムリーな放送に。なお、総理の地元、山口で「笑点」収録が行われたのは2月18日。一部報道から森友学園の話題が炎上していくのはこの数日後だったため、安倍総理ネタ回避の「忖度」には至らなかったのだ。そもそも山口での収録ということで安倍総理のネタを持つテツandトモがブッキングされたのだろうから、忖度のしようもない。

ひもとけばテツは第一次安倍内閣発足が発足した2007年、もう10年前から安倍晋三の顔マネを披露しているという。これまでに自分も幾度かこの顔マネをテレビで見ていたが、今回ほどツボにハマることは無かった。おそらく、10年前は37歳だったテツが現在47歳となり、この年月がテツの顔を熟成させ、顔マネのうま味をさらに質高く引き出したのではないか。熟成肉の効果が笑いに及んだと言えるかもしれない。

(放送を見逃した方は「テツandトモ 安倍総理 画像」等で検索おためしを)

総理大臣ものまね 失われた20年

あらためて思うに総理大臣のものまねというのは、総理の「存在感」を計るバロメーターだ。その代表格は言わずもがな田中角栄(1972年7月~74年12月)だ。

1970年代、田中角栄の「まッ、このォ~」は主にプロの声帯模写芸人(桜井長一郎、佐々木つとむ・・・)あたりから発せられ、その「まねのまね」は全国の素人にあまねく広がり、「まねのまね」はコピペを繰り返しながら日本列島改造計画よりもスピードを持って拡散、声変わりしない小学生ですら「まッ、このォ~」とダミ声を発する時代があった。

以後、三木武夫を挟んで、福田赳夫「ヘーヘーホーホー」、大平正芳「あ~う~あ~う~」で70年代が終わると総理ものまね界は冬の時代に突入。鈴木善幸、中曽根康弘、竹下登、宇野宗助、海部俊樹、宮沢喜一、細川護熙、羽田孜、村山富市、橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗と、総理ものまねが国民的盛り上がりに至ることは無く、「総理ものまね失われた20年」となる。

息を吹き返したのはゼロ年代、小泉純一郎(2001年4月~06年9月)の登場による。
2001年5月27日、大相撲で負傷しながらも優勝した貴乃花に、優勝賜杯を渡す場面での小泉総理によるマイク「痛みに耐えてよくがんばった!感動した!おめでとう!」のフレーズがひな形で切り取られた。

小泉純一郎のものまね巧者数ある中で、しいて一人選ぶなら、落ち着いたロートーンボイスの安定感でザ・ニュースペーパーの松下アキラを選びたい。

(未見の方は「小泉純一郎 松下アキラ 動画」等で検索おためしを)

<2013年 ザ・ニュースペーパー 松下アキラ ネタ採録>
松下「(長髪で波打つカツラ、三角の付け鼻、小泉純一郎に扮して講演)・・・自民党は相変わらずね。二世議員、三世議員ばかりだと批判されたけどね、うちの進次郎は問題ないですよ、四世議員だから。(客席爆笑)そもそもね、世襲の何が問題なんですか!どこの馬の骨ともわからないのが国会議員になるより、あそこの馬の骨ってわかったほうが安心でしょ。(客席大笑)」

さすが手練れの風刺集団である。ネタがきちんと仕上がっている。ライブ時には元総理だった小泉が現総理の安倍晋三を評するフレーズもキレている。

松下「(小泉純一郎で)安倍君、かなり評価されてるね。6年前総理をやったときと今と全然違うと言われている。だけど私はそうは思わない。まったく成長してない。変わってないよ。なんにも変わってない。前は私が総理のあとだったから頼りなく見えて、今回は民主党のあとだから頼もしく見えるだけなんだ。(客席爆笑)」 

「総理まね1-グランプリ2017」

さて、ここで勝手ながら、10代20代でもわかりそうなゼロ年代以降で「総理まね1-グランプリ2017」をためしてみたい。

<総理まね1-グランプリ2017 エントリー>
◎森喜朗(2000年4月~2001年4月)
花田勝(元横綱)「顔30年後部門」
山田二朗(俳優)「顔30年後部門」

◎小泉純一郎(2001年4月~2006年9月)
松下アキラ(ザ・ニュースペーパー)「声&トーク構成部門」
松村邦洋(太田プロダクション)「声部門」

◎安倍晋三(第一次)(2006年9月~2007年9月)
松村邦洋(太田プロダクション)「声誇張部門」

◎福田康夫(2007年9月~2008年9月)
川柳川柳(落語家 かわやなぎせんりゅう)「顔10年前部門」

◎麻生太郎(2008年9月~2009年9月)
石倉チョッキ(元ザ・ニュースペーパー)「顔&声部門」
松村邦洋(太田プロダクション)「声部門」

◎鳩山由紀夫(2009年9月~2010年6月)
鳩山クルオ(オフィス北野)「顔部門」

◎菅直人(2010年6月~2011年9月)
村野武範(俳優)「額黒子部門」

◎野田佳彦(2011年9月~2012年12月)
上島竜兵(ダチョウ倶楽部/太田プロダクション)「顔部門」

◎安倍晋三(第二次)(2012年12月~2017年3月現在)
テツ(テツandトモ/ニチエンプロダクション)「顔メイク部門」

ここから優勝を選んでみた。

<総理まね1-グランプリ2017 優勝発表>
総理まね1-グランプリ「顔部門」優勝 テツ(テツandトモ)
・・・安倍晋三の爆発力
総理まね1-グランプリ「声部門」優勝 松村邦洋
・・・先駆力&総合力

それぞれに素晴らしく部門ごとの優勝とした。

せっかくなので小池百合子都知事でも・・・

<小池都知事まね1-グランプリ2017 優勝発表>
小池都知事まね1-グランプリ「顔部門」優勝 八幡カオル
・・・謝罪必至の劣化力
小池都知事まね1-グランプリ「声部門」優勝 清水ミチコ
・・・高い精度と応用力

こちらもそれぞれに素晴らしく、部門ごとの優勝だ。

八幡カオルの小池都知事、あのタヌキ眼メイクには全盛期の赤塚不二夫が描きおろしたようなギャグキャラクターの至福がある。下地となる八幡の顔はAKB48の峯岸みなみに始まり、誰をまねても絶妙な劣化で仕上げてくる。地顔の力だ。発するフレーズの偏差値が低いのも劣化顔に合っていてちょうどいい。

八幡「(小池都知事で)いま何時? とちじ。小池百合子でございます~ いま何度? もりど。小池百合子でございます~」

清水ミチコの小池都知事は、2016年7月31日に都知事当選が決まり、選挙期間中にあった公職選挙法の縛りが解かれた直後、「ラジオビバリー昼ズ」(ニッポン放送)で第一声が披露された(2016年8月4日)。これがものまね界では一番乗り。その出来は精度が高く、清水の内面からにじむ微毒も高かった。以後清水は、小池都知事の折々の発言を捉えては自在にフレーズを操っている。

清水「(小池都知事で)都民ファースト、県民セカンド、小池百合子でございます」

とまあ、勝手にグランプリを選んだりしたが、要するにものまねされる政治家は良かれ悪しかれ「存在感」があってこそであり、その尺度においても2017年3月現在、現職である安倍総理、小池都知事がかなりの存在感を放っているということを、しばし記憶に残しておきたかった。