どの民進党議員よりもネット使いに長けた民主くんに「あっぱれ!」~中川淳一郎の今月のあっぱれ - 中川 淳一郎

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※この記事は2017年03月15日にBLOGOSで公開されたものです

党関係者から冷遇され続けたゆるキャラ「民主くん」

3月12日に行われた民進党の党大会で、同党の新ゆるキャラ「ミンシン」が初お披露目された。ミンシンは1523案の公募から最終選考に残った4案の1つで、一般による最終投票総数10万1475票のうち、4万5785票を獲得し、公認キャラ選挙に勝利した。「井村屋か!」と当初は突っ込みをくらった民進党のロゴの形状の頭を持ち、水色をベースとしたかわいらしいミンシン、名付け親は蓮舫代表である。しかも目の中には☆までついており、メルヘンさも兼ね備えたキャラとなっている。

しかし、ここで私が「あっぱれ!」を入れたいのはミンシンでもなければ名付け親の蓮舫氏でもない。2016年3月の民主党と維新の党の合併に伴う「民進党」への名称変更に伴いそれまでの立場を失った旧民主党時代のゆるキャラ「民主くん」である。党名が変わったにもかかわらず、なし崩し的に「民主くん」のまま存在し続け、約1年にわたり民進党についてそれなりに積極的にツイートを続けるという、健気ではあるものの「民進党」のブランドイメージ浸透、といった意味合い的には迷惑とも解釈できる謎の活動を続けてきた。

民主くん自体は明太子かクレクレタコラか、果てにはTENGAかと間違えるようなルックスで、いつも口をポカーンと開け、絶対に目を合わせられない妙な上目遣いをしているだけに、人によってはイラッとさせられるキャラである。ゆるキャラグランプリ2015では、1747体中142位という微妙過ぎる順位を獲得したことを、ツイッターのプロフィール欄で過去の栄光のごとく誇っている。なにせ141位は広島県福山市の“ばらの妖精「ローラ」”であり、143位は香川県の丸亀市産業振興課の「とり奉行 骨付じゅうじゅう」なのだ!

野党第一党の公式キャラという恵まれた立場だというのに、「誰だお前らは!」と言いたくなるようなキャラ前後に位置する民主くん。特に「とり奉行 骨付じゅうじゅう」は頭が丸亀名物の「骨付鳥」の形をしているのだが、骨部分には白いモノが巻かれており、汗ダラダラ。あたかも角をケガしてしまい、困っているかのように見えるくせに、乳母車に乗って楽しそうに笑う亀を運ばされるという苦行を味わうなんともマゾのようなキャラである。

そんな民主くんは決して民主党の執行部からも、党本部からも優遇はされていない。今回、新聞に前原誠司氏とのツーショット写真が掲載されるなど、ミンシンはすでに関係者の間では愛されているが、それと比較すると民主くんへの扱いは実にそっけないものだった。

民進党の名前に決定した時、民主くんは「民主」の文字に線を何本か加えるだけで「民進」になることを示す動画を公開。自らのアイデンティを捨て「民進くん」になることさえ厭わないと思えるような行動だった。また、2016年4月に行われたニコニコ超会議にて、進退をかけ、千葉県佐倉市のゆるキャラ「さくら丸」と「ジェスチャーゲーム」などをしたが敗北。民進党公認キャラにはなれなかった。

その後、ツイッターでは「再就職どうしよう…橋下徹さんみたいに弁護士資格ないし、口べただからタレント活動もできないし」と述べると、優しい声をかけてくれたのは旧民主党の議員ではなく、なんと橋下氏だったのだ。「僕もそうだけど、人生何とかなるよ」と橋下氏は民主くんに呼びかけ、選挙の大切さを若者に伝えるイベントに一緒に出ないか、といった提案されたのだ。

民進党が叩かれ続ける中で民主くんは一部から支持されていた

今回にしても、民進党はそっけない。

〈【党職員より事務連絡】これまで応援いただき感謝申しあげます。3月9日に民進党の新キャラ発表がございますが、大賞受賞者が賞品である民主くんの受け取りをご辞退されました。民主くんの扱いを事務局に任されたので検討を行ったところ「廃棄」という結論に至りましたのでご報告いたします。〉

このような酷い扱いを受けたのだった。しかし、民主くんは、ネット上の嫌われ政党・民主党(及び民進党)が常に叩かれ続けられる中、「民主党は嫌いだけど民主くんは好き」と言われることもある程の存在だったのだ。

民進党議員の場合、些細なことで批判を浴びる。しかもそれが「庶民派アピール」やら「皆さんの趣味分かってますアピール」「私も一人の親アピール」であろうとも。蓮舫氏は、2009年末、「マジコン騒動」を起こしている。マジコンとはざっくり言うとゲームのデータを抜き出せる装置のことで、違法ダウンロードにも近い存在と解釈できる。蓮舫氏はこうツイートした。

〈DS「イナズマイレブン2」の改造コードの入れ方をどなたかご存じですか?私にはさっぱり…。〉

蓮舫氏は「ツイッターユーザーと交流したい」「親として子のために役に立ちたい」「私の息子も皆さんのお子さんと同じような趣味を持っています」とアピールしたかったのかもしれない。この発言がヤバいということはゲームに詳しい人間であればすぐに分かるもの。このツイート及び、「2位じゃダメなんですか?」発言により、ネットでの同氏の人気は劇的に下がった。挙句の果てには、サンマの塩焼きの頭が右側を向いていたというだけで「日本人なら魚の頭は左です!」などと叩かれる始末である。

他にも、細野豪志氏の名前が取りざたされると「モナ夫」と呼ばれ、過去の不倫を持ち出されたり、細かい知識を問うような質問をネチネチと繰り返す小西洋之氏は「国会のクイズ王」と揶揄されたり、ツイッターでブロックを連発することからハッシュタグ「#小西ひろゆきチャレンジ」も登場した。これは、小西氏を揶揄するようなことを書いて果たしてブロックされるかどうかを競い合うムーブメントのことである。

これ以上評判の悪い議員の名前を挙げても仕方がないが、民主くんは民進党議員のネットでの嫌われっぷり(気の毒な面も多々あるが…)を理解したうえで、ネットユーザー(主にツイッターユーザー)の不満を吸い上げるような役割を果たしていた。基本的なキャラ設定としては「毒舌」があるのだが、時に党の運営に対してもモノ申し、ユーザーとの対話も心掛けていた。実際、震災当時の菅政権の対応を批判したユーザーにはこう答えている。

〈ご意見は承りましたが、震災当時に菅さんが首相だったおかげで、その決断や行動で救われたこともたくさんあると思っています。もちろんすべてが万全だったとは言いません。至らなかったこともたくさんあります〉

ほかにも、

〈政権党は謙虚さを失ってはいけないという反省が、全く生かされてませんよね〉
などと、自民党政権を批判しつつも、民主党政権時代のことも反省している点などから「民主くんは自戒ができる」といった評価もされている。そのうえで、〈JAL国際線の飛行機内で乗客の胸ぐらをつかむなどのトラブルを起こした自民党の小畑保則北海道議会議員が、22日議員辞職しました。〉などのニュースを紹介するなど、他の政党批判も時に行う。

さらには、こんなツイートもあった。

〈「国賊やまもとたろうは即刻腹を切れ~」とどなる右翼の街宣車が、民主党本部の前に来てるんですけど…(´д`)。あのー、こっちじゃないんですが。〉

明確な意思表示をし、民主党を守ろうという気概も感じられるのだ。これらを見てみると、ブロックを連発する小西氏、妙にネットユーザーにすり寄ろうとして毎度失敗する蓮舫氏、何を書いても叩かれる辻元清美氏などと比較し、民主くんがいかにネット使いに長けていたかが分かるだろう。

民進党になってからも同党の支持率は目立った上昇はしていない。支持率UPの秘策だった蓮舫代表就任も微風が吹いた程度。むしろ「二重国籍問題」でネットはアンチ民進党の空気が高まったほどである。

そんな中、一応は「民主くんだったら文句を真摯に聞いてくれる」といった存在だった彼の替わりに「ミンシン」という無害そうなキャラが公認キャラになるのは民進党にとってはどうなのか。本稿前半にあった【党職員より事務連絡】の「廃棄」なんてしている場合ではない。多分、民主くんの功績は民進党内部が思う以上に外から見ている限りはある。民主くんにあっぱれだ!