※この記事は2017年03月06日にBLOGOSで公開されたものです

小池百合子が東京都知事になってから8ヶ月。ニュースで小池都知事の顔を見ない日はないが、果たして彼女は1つでも東京のためになることをしているのだろうか?

混迷が続く築地市場の豊洲移転問題において、築地市場の汚染可能性という問題を問われた小池都知事は「コンクリートやアスファルトで覆われており、土壌汚染対策法などの法令上の問題はなく、人の健康に影響を与えることはないと考えている」と述べたというのだ。(*1)

それをいうなら豊洲もコンクリートやアスファルトに囲まれている、それも開放型である築地以上に囲まれているし、元々盛り土がないとして批判された地下空洞の存在は、豊洲がコンクリートに隔離された上に、さらに汚染の可能性がある土からも物理的に隔離されていることを意味する。

もしも、築地と豊洲を同じ基準で考えるのであれば、土壌の上にコンクリートやアスファルトが直接乗っている築地よりも、はるかに豊洲のほうが安全であることは言うまでもないだろう。

この発言をもって、ぼくの中では豊洲問題は100%解決した。理論でもって考えるのであれば、豊洲移転に反対する理由など、少なくとも安全性という点では最初から存在しなかったのである。盛り土のことなど、意思決定や手続き上の問題があるのであれば、それを言及するのは構わないが、それは豊洲に市場を移転してからでも十分だろう。そもそも築地には明確に「老朽化」という問題があるのだ。建物の崩落や、今なお残るアスベストで生命の問題が発生する前に、すぐにでも移転するべきなのである。

しかし、こうした現実を踏まえてなお「豊洲は危険だ、しかし築地は安全だ」と判断するのであれば、ダブルスタンダード以外の何物でもなく、豊洲を批判する理由は安全性以外の「何か」ということになる。

この答弁は、小池都知事にとって致命傷となりかねない答弁である。ここまで明確にボロを出したのは、多分今回が初めてではないだろうか。

しかし、世間の小池人気に押されて、マスメディアの追求はほとんど見られない。マスメディアは小池のシナリオどおり、石原慎太郎の記者会見を大きくとりあげている。

かつては大物であったが、太陽の党だかジジイ世代の党だかを立ち上げては失敗させ、政界を引退した、今や小物の石原慎太郎という存在は、小池にとってみればちょうどいいスケープゴートである。

小池は石原を「利権に凝り固まった悪政の元凶」であるということにして、利権や権力と戦う清廉潔白な存在として、自己をアピールしたいのであろう。

しかし、都民である僕には、小池百合子が都知事就任以来、一切、東京のためのことをしているというイメージがない。彼女がやっているのは権力闘争ばかりだ。

舛添都政を否定したいがために、都が所有する土地を韓国人学校に貸与するということを批判した。その時に使われたのが「都民ファースト」という言葉である。いわばこの言葉は韓国人や在日という都民を拒絶するための差別的な言葉であり、決して都民を大切にするという意味ではないのである。

次に否定したのが東京オリンピックだ。開催は避けられないが、猪瀬都政を否定するために、会場の問題などに手を出したのが、小池都政のスタートだった。見直しと言えば聞こえはいいが、実際には闇雲に手をツッコんで現場を混乱させているだけに、僕には思える。

そして今回の築地で、石原都政にまで手を伸ばしてきた。安全性については科学的に見れば「豊洲は安全」以外の結論はない。小池的にも「コンクリートに囲まれていれば安全」なはずである。しかしそれを否定するのは、石原都政を否定して、東京都知事として過去の権威や権力と戦ったという実績を作りたいからであろう。小池都知事にとっては何より大切なのは自身の実績なのだ。そうした意味で小池都知事は「権力闘争ファースト」な都知事である。

もし、小池が本当に東京ファーストとして都政を考えているのであれば、ふるさと納税のシステムから東京を離脱させると断言するなら、確かに都民ファーストだと認めてもいい。

本来であれば生活する自治体に納める地方税の一部を、好きな地方に納めることができる制度がふるさと納税である。最初は郷土愛的な部分が強調されたが、蓋を開ければ地方都市が豪華な返礼品を用意してカネをかき集めるという醜悪かつ、収入の多い人であればあるほどふるさと納税できる金額が多いことから、逆進性の極めて強い「合法脱税」ともいえる制度に成り果てている。

ふるさと納税は、利用者、受け入れ額共に、右肩上がりで増えている。今後も増え続けるであろうことは想像に難くない。(*2)

このふるさと納税の影響で最もワリを食っているのが東京で、世田谷区だけでも、2016年度の減収は16億円を超えるという。(*3)

確かに地方にも財源は必要だが、東京もまた一極集中により人口は増加の一途にあり、今後の高齢化をにらみ、それに見合う施設や福祉のための財源が必要なはずである。

ふるさと納税は東京都にとってはデメリットしかない制度であり、本当に小池が言葉通りの意味で「東京ファースト」を訴えるのであれば、真っ先に攻撃する対象であるはずだ。実際、築地問題でスケープゴートとされている石原慎太郎は、都知事当時からふるさと納税に反対していた。東京としては減収になるのだから反対するのが当たり前である。

しかし、少なくとも僕は小池の口から、ふるさと納税に対する批判を聞いたことが無い。少なくともオリンピックや豊洲ほど話題にしている様子はない。一体なぜだろうか。

その理由は簡単だ。ふるさと納税は第一次安倍内閣時に当時の菅総務大臣、すなわち今の菅官房長官が中心となって生み出した制度だからだ。都政レベルでは自民党本体と対立しても、都政を権力闘争の道具としてしか考えていない小池にとって、今後のことを考えれば、国勢レベルでは自民党本体とは対立したくないという本音が丸見えである。もしも、ふるさと納税がおなじ菅でも菅直人の政権によって作られた制度だったら、小池百合子は真っ先にこれを攻撃していたであろう。

ここでも、小池百合子は権力闘争ファーストであり、都民ファーストではない。そうした小池の権力欲丸出しの態度によって、都民は不要な負担を強いられている。僕にはもう小池都知事は都知事として失格であるとしか思えないのである。

小池百合子という権力欲にまみれ、それを隠そうともしない闘争マシーンに権力を与えてしまった都民の罪は重い。

*1:知事「築地は健康に影響なし」(NHK 首都圏 NEWS WEB)
*2:ふるさと納税に関する現況調査結果(総務省)
*3:ふるさと納税で割食う都市部-世田谷区の税控除は保育園5つ分に(Bloomberg)