少年院在院者たちの「学びたい」「働きたい」という思い - BLOGOS編集部

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※この記事は2017年03月03日にBLOGOSで公開されたものです

昨年から、投票できる年齢が18歳に引き下げられたことに合わせ、少年法の適用年齢を18歳まで引き下げることが検討されている。少年法の適用年齢が18歳まで引き下げられた場合、これまで少年院などで教育的な保護措置を受けていた18、19歳の若い世代の更生が課題になると言われている。そのため、法務省では受刑者の教育にも重点を置く新たな刑罰の導入が検討されているという。

現在、少年院では、若い世代の更生に向けて、どのような「教育」「支援」が行われているのだろうか。その一端を知るべく、少年院からの出院者たちへの支援活動を行っている認定NPO法人育て上げネットが行っている多摩少年院におけるスタディツアーに参加した(永田 正行【BLOGOS編集部】)。

「”非社会的”な少年たちが増えている」

「少年院の中に、『学びたい』『働きたい』と感じている少年たちがいること自体がそれほど知られていない。だからこそ、今回のように実情を知っていただく機会を設けているが、中には見られることに抵抗を感じてしまう少年たちもいる」。

話が出院後の就労支援に及んだ際に、説明を担当した職員は複雑な思いを口にした。就労支援については、民間企業と連携するケースもあり、積極的にノウハウを活用していきたいと考えているが、広報の難しさもあるというのだ。

法務省のサイトによれば、少年院は、「家庭裁判所から保護処分として送致された少年に対し,その健全な育成を図ることを目的として矯正教育,社会復帰支援等を行う法務省所管の施設」とされている。日本には現在、全国に52の少年院があり、それぞれに特徴があるという。

私鉄の駅から7~8分ほど歩き、急な坂を上ると、昭和43年に建てられた多摩少年院の建物にたどり着く。ここには、17歳6ヶ月以上の男子が収容されている。少年院に入院した少年たちは原則として11ヶ月程度の矯正教育を受けるが、近年は少子化などの影響もあり、入院者は減少傾向にあるそうだ。

少年たちが入院に至った理由については、窃盗と詐欺が20数%で最も多い(平成28年3月末)。特に詐欺は、ここ数年増加傾向にあるという。説明を担当した職員は、「暴走族のような”反社会的”な少年たちよりも、人との関係をつくることが苦手な”非社会的”な少年たちが増えている」と実感を語る。

院内で行われる矯正教育は「生活指導」「職業指導」「教科指導」「体育指導」「特別活動指導」の大きく5つに分けられる。収容される少年の中には、「歯磨きをしたことがない」など、多くの人々にとって一般的な生活習慣が身についていないケースもあり、置かれた環境、立場はそれぞれ異なる。

そのため多摩少年院では、一人一人に対して、それぞれの計画を立案した上で教育に取り組んでいるという。また、「職業指導」の一環として、院内では、農業や、Word・ExcelなどのPCスキル、溶接、小型建機の運転を学ぶことが出来る。

さらに、かつての仲間と再会することで、再び罪を犯してしまうといった流れに乗らないよう、出院後の交友関係のあり方についての教育・支援も行われているという。現在は、TwitterなどのSNSを通じて、以前の交友関係が復活してしまうというケースもあり、在院者に対する教育・支援の多様さをうかがわせる。

“支援”をめぐる広報の難しさ

社会学者の西田亮介氏は、少年犯罪が減少傾向にある中で、再犯率が減少していないことを指摘している。

すでに、検挙人員自体は大幅に減少していること、少年犯罪比率も低下していることは指摘したが、図4は、再非行少年数は減少傾向にあるが、検挙人員に占める再非行少年の率、つまり再非行少年率はゆるやかに右肩上がりのトレンドにあることを示している。社会はこうした少年たちを十分に受け入れられているとはいえない状況を示唆する。

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出院した少年たちが、再び罪を犯すことなく、社会に溶け込んでいくことは、非常に重要だと考えられる。そのため、多摩少年院では、出院後の社会復帰支援に力を入れており、独立した「支援部門」を持っている。具体的には、キャリアカウンセリングやハローワークの利用の仕方などを指導しており、最近では希望した在院者に大学受験をさせたケースなどもあるという。こうした取り組みのハードルの一つが、冒頭の職員の発言にも見られたような、広報の難しさだという。

企業が、少年院からの出院者や刑務所からの出所者の就労を支援する「職親プロジェクト」のような仕組みも用意されているが、定着率が思うように向上しない現状もある。とはいえ、就労することによって、経済的安定と社会との接点を得ることができれば、再び罪を犯す可能性は下がるだろう。

職親プロジェクトに参加し、矯正施設出所者の雇用に取り組んできたお好み焼き専門店・千房株式会社の中井政嗣社長は「反省は一人でできるが、更生は一人ではできない」と語っている。在院者の更生に向けた支援に対する理解者を増やしていくためには、まずは多くの人が「少年院の中に、『学びたい』『働きたい』と感じている少年たちがいる」という事実を認識することが重要なのかもしれない。