※この記事は2015年04月10日にBLOGOSで公開されたものです

ヤフー株式会社は、定期的に「熟論 日本の課題」と題した政策に関する討論会を行っている。この「熟論」は、社会問題への興味喚起と理解促進のための情報提供を目的とし、政治家や学識者などを招いて実施される。

3月25日に行われた第7回においては「経済政策~経済成長への道筋~」をテーマに、内閣府副大臣を務める自民党・西村康稔氏、民主党所属の参議院議員・大久保勉氏、大和総研主任研究員の鈴木準氏が議論を行った。

写真一覧

“第一の矢”金融緩和は時間稼ぎ


司会を務めたヤフー株式会社執行役員社長室長・別所氏から現在の経済状況について問われると、西村氏は、「雇用環境が非常によくなり、昨年を上回る勢いで賃上げがされている。また、行き過ぎた円高が是正された中で企業の収益がよくなっている。徐々にデフレ状態から脱出しつつあり、ゆるやかなインフレに向けた道筋が見え始めている」と述べた。

ただ、一方で「全体的にはよいイメージを持っているが、まだデフレ脱却が道半ばであること、大企業を中心に給与が回復しているが、中小企業、地方にまだ波及していない部分がある。我々としては補正予算を活用しながら、地域や中小企業にこの流れが広がっていくように政策を打っていきたい」と話した。

これに対して大久保議員は、「現在では、アベノミクスの副作用が出てきている。2年前、安倍さんは『貿易収支を1年後には4兆円のプラス、2年後には8兆円改善する』といっていましたが、現在ではマイナス10兆円と輸出が伸びていない。また、急激な円安は中小企業、家庭にとっては厳しい側面もあり、副作用が目立ってきている」などと、アベノミクスの問題点を指摘した。その上で、「私は、安倍さんはよくやっている部分もあると思う。なので、ポイントは、3本目の矢である構造改革をしっかりできるか。TPPや労働法制に関してもしっかり議論する必要がある」と話した。

さらに成長戦略の具体的な中身について問われると西村氏は、「第一の矢である金融緩和は我々としては時間稼ぎだと思っている。その間に、大久保さんも指摘された構造改革、成長戦略をしっかり実行していく。アメリカの例をみても、金融緩和をやっている間に、様々な技術が出てきているので、そうしたイノベーションを起こす改革が必要。また雇用改革についても、労働生産性の低い働き方ではなく、メリハリをつけて、自分のキャリアを考えた働き方を実現していきたい」と話した。

一方で、大久保氏は「民主党政権においては『成長戦略がなかった』と指摘があるが、訪日外国人の増加やNISAなどは民主党政権の頃に種をまいたと思っている。また、環境、観光、医療については重点的に種をまいた。構造改革は早急にやるべきだが、自民党の支持母体とぶつかることになるので、なかなか厳しいのではないか」と指摘した。

日本の生産性を伸ばすためには、労働市場、大学改革が必要

議論のテーマが生産性に移ると、西村氏は、日本は生産性の伸びが低迷している要因の一つとして、欧米と比較してIT装備、活用が非常に低いことを指摘。「特にサービス産業で生産性が低く、IT整備が遅れているので、これを勧めていく必要がある」と話した。また、海外からの対日投資が少ないことについても問題視。対日投資を促進するために、外国人が日本で生活しやすい環境を整える必要があるとした。

さらには、教育の重要性にも言及し、「大学改革も重要。キャリア教育、実務教育を行うような大学もあっていいと思う。あるいは、社会に出てからも教育がうけられるような働き方の改革もしていきたい」と述べると、大久保氏も「考え方は非常に近い」と賛意を示し、「働き方は終身雇用から変化しつつあるので、女性を含めた人材の多様化が重要であり、そのための労働法制はこれから議論する必要がある」と補足した。

民間と政府とでやるべきことを整理すべき

格差や貧困などの話題になると鈴木氏が、世帯所得の分布データを提示し、その中でも中央値が1999年調査の544万円から13年調査で432万円まで低下しているというデータを紹介した。

こうした格差の問題について、西村氏は「頑張ったら報われる。失敗してもやり直せる。そうしたセーフティネットは大事だし、貧困を固定化させない政策を打っていきたいと思う」と述べ、

大久保氏は「これは民間だけでは解決できないので、国がやる意味があると思う。再分配を強化する、累進税率を強化していくとか、場合によっては大企業限定の税金を考えて、子育ての財源にするなど、そうした施策が長期的に日本の経済成長力を高めていくことになるのではないか」と話した。

こうした2人の政治家の議論を受けて、鈴木氏は「お2人とも言いにくいとは思いますが、政府はいろいろやっているので、後は民間の責任というか民間が元気を出してやらないことには始まらない。結局、ためこんだお金をどうつかうのかは民間の問題。民間と政府とでやるべきことをうまく整理してやるかが重要」として民間企業の奮起を促した。

さらに、「高齢化が進む中で現役世代が弱ってきているという部分がある。現役といっても、若い人という意味でなく、高齢者も健康寿命が延びているので様々な形で社会参加できるだろう。女性のM字カーブも残っていたりするので、そういった部分を含めた現役をサポートするということを考えてほしい」と締めくくった。

この討論会の様子は、ヤフー株式会社のページで公開されている。

■関連記事
・「すごく頑張る女性だけが自分の思いを叶えられるという状況を解消したい」~国会議員が待機児童問題を語る
・「成長戦略は、海外から高い評価を受けている」竹中平蔵氏、伊藤元重氏らが成長戦略をめぐり議論
・「負担のババ抜きみたいな形はもう限界だ」石破茂・地方創生相が語る「地方の生きる道」