※この記事は2015年03月17日にBLOGOSで公開されたものです

17日、秦郁彦・日本大学名誉教授と大沼保昭・明治大学特任教授(元アジア女性基金理事)が会見を行い、同日付けで公表した「McGraw-Hill社への訂正勧告」について説明した。

この勧告は、秦郁彦氏のほか、藤岡信勝、長谷川三千子、芳賀徹、平川祐弘、百地章、中西輝政、西岡力、呉善花、高橋史朗氏ら19人の日本人歴史家有志によって提出されたもので、米国の公立高校で使われている世界史の教科書において、慰安婦の強制連行など。事実とは異なる記述があるとして訂正を求めている。 会見場には櫻井よしこ氏や長谷川三千子氏も姿を見せ、秦氏は改めて「日本の官憲による組織的な強制連行はなかった」とし、大沼氏は慰安婦問題の解決のためにメディアが果たすべき役割は大きいと指摘した。

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秦郁彦氏の冒頭発言

いきなり本題に入ります。
最近、日本大使館と韓国の外交部が慰安婦問題について交渉をしていた1992年から93年にかけての外務省の外交記録を読む機会がありまして、その中にこういうことが書いてありました。
韓国の担当官が、こんな明るい時間に外交官同士が慰安婦問題を議論するのは恥ずかしい、"Shame"だと述べている。日本の外交官も、"同感です"という会話を交わしたと書いてありました。

アムステルダムの"飾り窓の女"というのは有名ですよね。我が東京においてもソープランドがあるのはご存知だと思いますが、こういう話題をオランダ政府が、あるいはヘッドラインで報道するとか、こういうことはないわけですね。いわば一種の常識であります。しかしながら、なぜ日本軍の慰安婦問題だけが大問題になってしまったのか、誠に不思議であります。

1944年にビルマでアメリカ軍が20人の朝鮮人慰安婦を捕虜にいたしまして、詳しい尋問記録を残しております。その中で彼女たちは日本軍に所属している売春婦だ「"nothing more than prostitute or "professional camp follower"」と結論しております。

売春婦は何時の時代にも、どこの場所にも存在してきたのであります。従って、慰安婦と呼ばれる人たちが特別なものだとは私は考えません。

慰安婦は日本軍のほかに第二次大戦中、ドイツ、アメリカ、イギリス、その他の国々にもありました。第二次大戦後にも、朝鮮人慰安婦が韓国軍アメリカ軍の元で働いておりました。

それにもかかわらず、日本軍の慰安婦だけがクローズアップされたのは一部のNGO活動家によるプロパガンダのせいであります。彼らは自国の売春婦や日本人慰安婦に対しては関心を示しません。

プロパガンダですので、虚と実が混じり合い、誇張された情報が乱れ飛んでおります。そのひとつが最近報道されたマグロウヒル社の高校生向け世界史教科書であります。26行という短い文章でこれほど事実の間違いが多い記述を私は見たことがありません。ここにその教科書がありますけど持つだけで重い本です。

私たち19人の日本人歴史家がこれを検分いたまして、重要な8箇所のミスを今日みなさまにお伝えしたいと思います。

たとえば、強制連行はなかったと私たちは強調しているんですが、慰安婦というのは、大多数は朝鮮人の親が娘を朝鮮人のブローカーに売り、それが売春宿のオーナーを経由して売春所に行くと、こういう経路であります。 一部に新聞広告を見て応じた者もありまして、これはつまり強制連行する必要がないということが明白かと思います。

また20万人の慰安婦が毎日20人から30人の兵士たちに性サービスをしたと書いてあるんですが、当時海外に展開した日本軍の兵力は約100万人です。教科書に従えば、接客は1日5回という統計になりますから、20万人が5回サービスすると100万になりますので、兵士たちは戦闘する暇がない。毎日慰安所に通わなければ計算が合わなくなるわけですね(会場から笑い)。そういう誇大な数字が教科書に出されているということです。

次に、「慰安婦は天皇からの贈り物である」という件がある。これは国家元首に対する、あまりにも非常識な表現だろうと思います。

日本の外務省はこれに対して抗議をしましたけれども、これが別の反応を生み出したのであります。

アメリカの歴史学会の19人は、日本政府の検閲は学問の自由を脅かす、外務省のマグロウヒル社への抗議は学問の自由を奪うものだとして、吉見義明さんら日本の歴史家と連帯し、マグロウヒル社を守ろうという声明を3月2日に発表しました。

私たち19人の日本人歴史家、この中には吉見義明さんは入っていませんが、とりあえずマグロウヒル社に誤りを指摘し、訂正の申し入れをしたいと思います。

私なんかも、個人で書いたものに対して読者から間違っていると言ってくることはある。これは非常に有り難いことで、お礼状を書き、次のエディションでは改めます、と返事をするのを習慣にしておりますので、マグロウヒル社も我々に感謝をしてくれるのではないかと期待しております(会場から笑い)。

最後に、私は日本の官憲による組織的な強制連行はなかったということ、慰安所における女性の生活条件は「性奴隷」と呼ぶほど過酷な状況ではなかったことを強調して終わりたいと思います。

大沼氏の冒頭発言

支配的慰安婦像とメディアという点についてお話したいと思います。
慰安婦問題というのは、金学順さんのカミングアウトがきっかけで一躍世界的に有名なニュースになったわけですね。その後、韓国でデモが行われ、あるいはナヌムの家というハルモニがいる家が登場したわけです。

このように我々が持っているいわゆる慰安婦のイメージというのは、新聞・テレビで大々的に流布されたイメージであります。しかしながら私が実際にお会いした犠牲者達や、いくつかの研究書、ルポなどで理解している慰安婦の方々というのは非常に多様であるわけです。

わたしたちも多様で、この中にも右寄り・左寄り。男性もいれば女性もいるし、金持ちもそうでない人たちもいる。慰安婦も、我々と同じく多様なわけです。それらがコレまでメディアでは報じられてきませんでした。

我々はどうしても公=Publicというものを、国家と政府と考えて結びつけやすく、政府と関わらないものは民間と考えられやすいです。その典型は、「アジア女性基金」が民間基金として考えられたことであります。 民主主義国家において、その国民が選挙に行って投票する場合、それは民間人として行動するわけではなく、国家の一員として行動するわけです。

アジア女性基金というのは、まさに日本国家を代表して、政府と日本国民を代表して、その予算の大部分は日本政府の予算で充当され、総理のお詫びの手紙を犠牲者にお渡しし、国庫から支出された福祉費用をお渡ししたわけです。 事務局は国庫の予算で運営されている。国庫から支出されていないのは、我々のような呼びかけ人や運営委員に対するもので、ここからは一切受け取っていない。しかし他の点では、国家の性格を体現する機関であったし、広い意味での公的な機関であったわけです。

そういう意味から言うと、メディアも非常に重要な公的存在であり、メディアの活動は公共性の高い活動であります。 政府の行き届かない問題に感心を誘導、報道し、人々にこれは重要な社会的・公共的な問題だと植え付ける、そして問題解決に向け働きかける。これは極めて重要な活動であります。

マスメディアは非常に巨大な影響力をもっております。そのために時として社会の諸国民を抑圧する行動を営むことがあります。メディアの意義は巨大だが、同時にメディアは非常に公共的責任を負っております。ところがメディアやジャーナリストの多くの方々は、政府の権力性に集中して、自らの権力性には鈍感と言わざるを得ません。(会場から笑いが起こる)

特にCNN、FOX、New York Timesという、国際的にも巨大な影響力を持つメディアは、自己の権力性、自己の報道がもたらすネガティブな影響にも敏感で謙虚であるべきだと思います。

慰安婦問題は、こうしたメディアの権力性それに随伴するこの当事者個々人を抑圧してしまう、そういうネガティブな機能が典型的に現れた事例であります。

アジア女性基金が償いの事業を開始した時にフィリピンの支援団体はこれに対して批判的な態度を取りましたけれども、被害者自身が受け取りたいという意思を表明した場合、それを尊重しました。オランダのNGOは100%慰安婦制度の被害者の意思で受け取るかどうかを決めるべきだという態度でした。

ところが韓国と台湾では、残念なことに元慰安婦の支援団体が強硬に反対して、当事者である被害者が受け取ることを断じて許そうとしませんでした。

私は韓国の挺対協をはじめとする、元慰安婦の方々の支援団体が問題を発掘して公共化した役割を高く評価しますけれども、挺対協その他の支援団体が犠牲者の希望を踏みにじって、償いを受け取るかどうかの判断を妨げたのは非常に大きな誤りだったと思います。

さらに韓国のメディアの責任は重大だったと思います。彼らは慰安婦が受け取るべきではないという挺対協を始めとする支援団体の誤った主張を批判したのではなく、それを大幅に増大して、韓国の社会に徹底させ、そのことによって本当はアジア女性基金の償いを受け取りたいと考えている慰安婦の方々に対する巨大な社会的な権力として、それを抑圧したのです。

当時、韓国には約200名の認定された元慰安婦の方々がおられまして、最終的には61名の方々がアジア女性基金の償いを受け取りました。しかしながら、そのうち7名は最初に公に受け取りましたけれども、その7名が韓国社会で非常に厳しいバッシングを受けたために、残りの54名は全部秘密に受け取りたいという希望を寄せられました。その結果、我々は公に償いの事業を実施することができずに、秘密裏に償い事業を行いました。

熱くなりまして時間をオーバーしてしまいましたが、問題解決に一番重要案なことは、メディアのこれまでの報道姿勢に対する自己反省、これは日本でもそうですし、韓国のメディアにも自己反省が必要だろうと思います。 お互いの国に対する世論があまりに硬化しすぎていますが、その責任の多くはメディアにあるわけですね(会場から笑い)

そのことはメディアが努力して解いていかないと、政府だけに期待しているのでは困難だと思います。 ご清聴ありがとうございます。

質疑応答

ー秦先生に質問です。この勧告はマグロウヒル社にどのような形で送るのでしょうか。訪問する可能性もあるのでしょうか。また、どのような反応を期待しているのでしょうか。

また、公の場でこの問題を議論することで、かえってこの扇動してしまうおそれや、事態を悪化させるおそれはないのでしょうか。(ブルームバーグ)


秦氏:さっき申し上げたように、マグロウヒル社からは非常に好意的な返事を期待しているんですけれども、そうはならないということも予想しております。

これは出来上がったばかりでございまして、明日か明後日にはマグロウヒルに送ろうと。何で送るかきめておりませんけれども、郵便局へ行って、できるだけ安い値段で送ろうと考えております(笑)。

また、扇動的効果があるかどうかですが、それは私にもわかりません。そうなってから考えます。

ー秦先生の主張では、慰安婦は約2万人だったということですが、この2万人全員がキャンプ・フォロワー、売春婦であったと考えているのでしょうかか。(フリーランス)

秦氏:これはオフィシャルな統計がないんですよ。1941年までは日本の外務省があちこちにある領事館で統計を取っておりました。中国、満州、日本の国内、朝鮮においては警察がきちんと統計を取っておりました。

1942年以降、日本軍が東南アジアに侵攻して以降は、軍の占領統治ということになりますので、外務省の統計がそこできれれいてしまうんです。ですから私は外務省の統計を元にして、色々な角度から計算してみて大体2万人という数字を出したわけです、だいたいがキャンプフォロワーだった、そう考えていいと思いますね。トラックで行ったからキャンプ・フォロワー…とか言いだすときりがないですけれどね。

また、強制連行は韓国には無かったけれども他の地域にあった、ということを、これは朝日新聞なんかも言っているわけなんですね。特に朝日新聞は一昨年、チームを作ってインドネシアとかマレーシアに探しにいったんですね。新聞2ページ潰して報告を出してますけど、結局見つからなかったと。10年前に死んだという慰安婦を見つけた、とかそいういう話ですがね、日本のアクティビストのなかに掘り起こそうとする人がいるんですね。しかし、70年前の犯罪事件は警察もやりません。それに意味のある答えが出てくるとは思いません。

私は「強制連行」には条件を付けています。官憲による組織された強制連行、ですね。ものには例外があります。個人的な犯罪ですね。新聞には毎日、日本の警察官の犯罪の話が出てますよね。かといって日本の警察が全部そうだというわけではないですよね。
それから命令違反がありますね。どこの国の軍隊でも命令違反はあります。ですからインドネシアの話も、命令違反や個人的な犯罪だったと考えております。

ー日本の歴史家19名が署名していますが、マグロウヒル社を守るというアメリカの歴史家も19名が宣言をしています。最終的には20名になったそうですが、19と19、何か意識して数を合わせたのでしょうか。

また、マグロウヒル社にはすでに外務省の方から抗議していますが、外務省や官邸とはどのくらいのコンタクトを取っているのでしょうか。(ワシントンポスト)


秦氏:19人というは偶然です。20人になったという話は私も聞いてるんですが、、はっきりしません。ただ、毎日新聞の取材でアンドリュー・ゴードンさんが私もサインしましたと言ったと言うんですね。名簿を探してもゴードンさんの名前がない。少し遅れて参加されたのか…。我々の方も、探せばどんどん増えるだろうと思います(笑)。

外務省には友人もいますけれども、全く相談をしていません。日本の新聞がマグロウヒル社、あるいはハワイ大のジーグラー教授に申し入れを行ったということを報道しておりますので、ああやってるんだなと。しかし何を申し入れたかは公式に発表してません。ですから我々は独自に検証したということです。

ー戦後70年が経ちますが、この問題は今でも非常に活発に議論されていて、国を分断しているし、日本と韓国・中国の関係を悪化させてもいます。なぜ70年が経っても、慰安婦問題やそれ以外の歴史問題がくすぶっていると思いますか。

また、安倍総理が談話を発表すると言われていますが、これがもしかしたら国家間の和解につながるのチャンスだと思わますか。そうだとすれば、そのために談話にどういうことを盛り込むべきだと思いますか。(ロイター)


大沼氏:まず最初の質問に対してですが、これは非常に多くの理由があると思います。
まず第一に、日本の戦後70年、我々に日本国民はブラントもワイツゼッカーも持たなかったと。日本の政治指導者がブランの"跪き"とか、ワイツゼッカーの演説のような、目に見える形での、戦争犯罪なり植民地支配なりを反省する機会を持たなかったと。

日本の総理たちも繰り返し謝罪しておりますけれども、それが十分評価されていません。これは中国や韓国のメディア、それから国際メディアの責任もあるだろうと思います。日本の政治的指導者がしばしば行った謝罪、反省は十分に国際的に報道され、評価されてこなかったことがあるだろうと思います。

戦後、だいたい1970年代から90年代前半まで、日本においては戦争責任、植民地支配を反省する声が次第に高まってきたわけですね。私はそういう研究と活動に従事しておりましたので、それは非常に頼もしく感じておりました。 しかし残念なことに、その日本の努力というものが、韓国・中国で十分評価されなかったし、また国際メディアでも評価されなかった。

たとえばドイツの反省ははフランスでも高く評価され、国際的なメディアでも高く評価された。ところが日本の中では努力を重ねたのに、それが中国・韓国の正当な評価を受けなかったと、国際的にも評価を受けなかったという失望感が広まった。しして90年代後半からの日本の経済的不調とともに、それへの不満が非常に高まってしまったと。

私は率直に言って、韓国の市民社会の成熟というものにもうちょっと期待しておりました。日本が反省を明確にすれば、韓国の市民社会はそれを評価してくれるだろうと、私自身1970年代から90年代期待しておりましたけれども、残念ながらそういう成熟を示さなかった。そのことも日本の方の側の謝罪疲れといいますか、それをもたらしたと思います。

秦氏:私は、今年戦後70年ということなんですが、今年は戦勝国の国々のお祭の年だと思っています。ですから、それに安倍さんが介入して何か言うのは余り適当ではないんじゃないかと。その、いわゆる戦勝国に韓国は入りたい入りたいと言っているわけですので、それは非常な混乱が起こるだろうと。だから日本は黙って静かにしているのが正しい方策ではないかと思います。

ー近年、慰安婦問題については強制連行の有無を中心に、事実関係の訂正、修正の見方もあるのかもしれませんが、そその目指すところは何なのかということなんですけれども、さきほど大沼先生がおっしゃったような、謝罪したことへの評価がされないことへの残念な気持ちがその矛先になっているのでしょうか。

また、おりしも戦後70年ということで、日本が過去に向き合うかが注目されていると思いますが、問題がまだ解決していないことで、外交にどのようなインパクトが心配されるとお考えですか。(AP通信)


秦氏:日本国にとっては、慰安婦問題は終わっていると思います。これを終わらせるということを韓国が承知しないわけですね。それから日本のの一部のNGOの人たちも韓国と一緒になって慰安婦問題が消えたら大変だと、今アメリカへ出かけて一生懸命働きかけていると。これは完全に政治問題になっているわけですよね。

韓国も大統領が口を開くと"慰安婦問題が未解決だ"というんですが、じゃあ要求はなんなのか、どうしてくれということは言わないんですよね。

私が聞いているところによりますと、韓国の中で決定的な権力をもっているのは挺対協、ないしは北朝鮮と繋がっている勢力だと。だから韓国側から提示できない。日本側に言わせて、ノーと、そういうスタンスだと聞いております。だから韓国政府には今、当事者能力がないんですよ。

ですからこれはいくらやってもきりがないということで、私は日本政府が自主的にこの問題を打ち切ると、それでもって韓国も打ち切る、ということであればこれで全部終わりです。韓国に生き残っているのは慰安婦は50人くらいしかもういません。彼女たちはもう十分お金をもらっているんですね。

ただし、アメリカ軍の慰安婦だった122人の人たちが韓国政府に対する訴訟を始めています。この人達の話を聞くと非常にかわいそうなんですよね。彼女たちは、日本の慰安婦には応援団がたくさんついてお金もたくさんもらっているのに、私たちは使い捨てだと怒っているわけですね。

私はアジア女性基金のようなものではなくて、純粋なチャリティの機関で、お見舞金を送ったらどうかと思いますが、アメリカでは朝鮮に駐留したアメリカ兵からお金を出そうじゃないかという動きも始まっているそうですね。

ですからは私は慰安婦問題は終わったし、終わらせるべきだと思います。

ーメディアが、その国の政府の過去の政策の過ちをインドネシアまで行って探しまわるという行為は必要な行為だとお考えになっていますでしょうか。

また、大沼先生は(日本の謝罪が)理解されないとおっしゃいましたが、日本側にも理解されない原因があるのでしょうか。あるとすればそれはなんなのでしょうか。(神保哲生氏)


大沼氏:日本の側ににも原因はあるのではないか、それはおっしゃる通りだと思います。

私自身、95年から12年間、アジア女性基金で日本政府と一緒に働いてつくづく感じたことですけれども、例えば我々が総理のお詫びの手紙を差し上げようと決め、その主張を政府は飲んだわけですが、その原稿を作る作業の中で、外務省の官僚が"my personal feeling of apology"とう言葉を一言入れたわけです。我々から言えばナンセンスな表現、形容詞なんですけれども、それを入れて発表しました。
それがどういう結果を招いたかというと、これは単に総理のパーソナルな謝罪であって、パブリックな謝罪ではないという翻訳を許してしまい、そういう報道をされたと。
我々アジア女性基金は、そういう愚かな事はやめるべきだと言ったが、外務省は聞かず、批判が出てから表現を取りました。そういうことがあります。

謝罪という言葉も、韓国語では二つ表現があって、"サジェ"という、重い、very deep apologyというもの、"サゲ"という、light apologyの意味のものがあるんですが、これほど重要な総理の手紙で、外務省は"サゲ"という言葉を使った。

日系米人が第二次大戦中に強制収容所に入れられたことについて、ジョージ・ブッシュがお詫びの手紙を出したわけですね。その手紙と総理の元慰安婦への手紙を比較すれば、いかに日本の手紙が誠実なものというかがわかるわけです。

にも関わらずそういう小手先を日本の政府、官僚機構がやって、そういう形だけの総理のお詫びをやってしまっている。それが、ブラントやワイツゼッカーのような、心を動かす反省と受け止められなかった。その意味で、原因は日本にもあると思います。

ー今回はアメリカの教科書を検証されましたが、秦先生は中国の教科書、韓国の教科書についてはどうお考えでしょうか。

大沼先生は、外国メディアが正しい報道をしてこなかったとおっしゃいましたが、日本においても様々な意見がありますので、我々はどこを聞き、見ればいいのでしょうか。(シンガポールのメディア)


秦氏:日本には文部科学省の検定がありますけれど、事実が間違っていること、極端に右や左の解釈、これは教科書調査官が直しなさい、あるいは直した方がいいですよ、というアドバイスをするわけですね。 ですから日本の教科書のクオリティはまあまあというところなんでしょうけれども、ただ直せと言われた方はしょっちゅう活動家と一緒になって、文部科学省はけしからん、と言ってやってるわけですね。

中国と韓国の教科書ですが、両国には本当の意味で表現の自由はないと思うんですよね。中国は政府が完全にコントロールしていますし、韓国も書いている人が元慰安婦たちに呼び出されて土下座させられると考えている状況なので、検討してみても意味がないと私は思うわけですね。

もちろん韓国でも朴裕河さんのように素晴らしい歴史家がいます。そういう人が3つも訴訟を起こされていて、非常に危ないというニュースが入っています。身の安全も保証されないという国の歴史教科書に何か言ってみてもしょうがないと思いますので、私は今まで何も言っていません。

大沼氏:日本は当然のことながら民主主義国家であって、思想・表現の自由は100%保証されている国ですので、統一された見解がないということは当然のことですね。もし国の意見が一様であれば、それは残念ながら北朝鮮や中国のような怖い国家であって、私は日本が100%一致しないのは評価すべきことで、否定的に考えられることではないと思います。

他方で、実際に外国の特派員の方が、じゃあどういう報道をするのが最適なものなのかという質問をなさるのであれば、私の現実的な答えは、朝日と読売の両方を読んで、それぞれの言っていることをお伝え下さいと。日本の世論はその両方の中で動いていると。朝日だけ、読売だけという報道はしないでくださいと。それが私の現実的な答えです。

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