「命を守る福祉・防災都市東京を作ろう」～小池晃氏が訴える東京都政～ - BLOGOS編集部
※この記事は2011年03月23日にBLOGOSで公開されたものです
ジャーナリストの須田慎一郎氏が、東京都知事選への立候補を表明した小池晃氏に聞くロングインタビュー。『福祉・防災都市東京へ～私が出馬する理由～』をテーマに、先日の東日本大震災を踏まえて、氏が標榜する福祉・防災都市東京実現への意気込みを聞いた。未曾有の大災害を経た首都東京の未来をどう描くのか……？（取材：入江大輔）東京の被災者受け入れ数はちょっと少ない
須田慎一郎（以下、須田）：東日本大震災から1週間が経過しました。都知事選挙を前に、この件を伺いたいと思います。ここまで国の対応をどのようにご覧になっていますか？
小池晃：亡くなられた方々に哀悼の意を、そして被災地の方々に心からお見舞いを申し上げたいと思っています。国の対応については、このような時ですから、『これが悪い』、『あれが悪い』と言うのではなく、むしろ前向きに改善すべき点を指摘する必要があると思っています。まず、情報の出し方が、国民視点で考えると後手後手で小出しになっている印象が拭えない。このような時だからこそ、情報公開を徹底して、あらゆるメディアにきちんと生の情報を刻一刻と伝えていくことが最も大切ではないか……。頑張っているとは思いますが、さらなる努力が必要です。
須田：今回の震災を考えた時、その被害は大きく2つに分けられます。ひとつは直接震災の被害です。被災地域に対する救援をどのような体制で行なうべきなのか。そして、もう1つは過去の震災と大きく質を変えている要素として、やはり原子力発電所の問題があります。まず、前者についてお伺いしたいのですが、この一週間大困難の中でやるべき範囲に限度がありますが、今一番すべきことは、何だと考えていますか？
小池：やはり今の段階、現瞬間は、被災者の方への安定した避難場所を確保すること。そこに救援物資を届ける体制を確立することだと考えています。その点では、国もですが、自治体が色々な役割を果たさなければならない段階に来ている。いくつか始まっていますよね、例えば、さいたまスーパーアリーナに町ごと移設するなどです。このような事が、今回の震災では一番大切なのではないか……。コミュニティー、いや自治体そのものが破壊されるような被害が出ていますから、大規模に町ごと、あるいは地域ごとに、まとまって一定の安定した所に移動することになるでしょう。ある程度先の見通しを持った落ち着き先を提供する。そのためには国もですが、やはり自治体が動かないと。しかし、他県に比べて、東京の受け入れはちょっと少ない。
現在、公営住宅600戸を提供と言っているんですが、万単位で引き受けると表明している自治体もある中で、もっとやるべきことがあるのではないか。そして、救援物資をきちんと届ける。これは本当にもう緊急課題としてやっていかなければなりません。優先的に物資を運搬するために、ガソリンの供給体制確立なども最優先にすべきでしょう。
一定地域の救援について責任を持つくらい役割を
須田：冒頭で国の役割を伺った時、自治体の役割を指摘していまた。東京を考えた場合、これまでも東北エリアとの相互依存が高かったこともあり、東京自体が計画停電や交通網の混乱、生活物資も不足している状況にあります。その中で、何かやれることはあるのでしょうか？
小池：東京もひとつの被災地です。都民に対するケアと、被災地に対する支援を二本立てでやっていくしかない。やはり今回のような未曾有の大災害では、復興費用・期間も、これまでとは較べものにならないはずです。だからこそ、東京は一定地域の救援について責任を持つくらいの、大きな役割を果たさなければなりません。確かに東京都民の生活を守っていくのは、大変な仕事です。でも、私は首都東京にはそれだけの力があると思っています。そこはおおいに訴えていきたい点ですね。
須田：2番目の原子力発電施設の問題です。CO2排出削減、環境問題を考えた時、世界的な潮流は『原子力ルネサンス』などが叫ばれ、原子力発電所回帰が進められてきました。この動きも見直されるのか、今後の歴史が判断することになるでしょうが、前提として東京のエネルギー問題が非常に脆弱だったと明らかになりました。
小池：そうですね。
須田：はっきりと露呈しました。その辺りについてはいかがですか？
小池：今回は想定外の事態だとは思っていますが、以前から我々は地震や津波による被害の可能性を指摘しています。その意味では、今回は人災だったと思うんです。
やはり最初にやるべきことは、原発の安全神話と決別して、安全再優先の立場で原子力行政を見直すべきでしょう。総点検をすぐにでもするべきです。ただちに全部の原子炉を止めるのは現実的ではありません。ですから、今必要なのは総点検。それと同時に新しいエネルギーの導入への第一歩を踏み出す必要もあります。自然エネルギー、再生可能エネルギー、風力、水力、マイクロ水力、あるいは太陽熱……。
東京では自給自足は、100%不可能かもしれませんが、やはり自給率を高めていく必要があると思っています。ドイツなどは、すでに12%程度の電力を自然エネルギーで賄っていて、今後80%という目標を掲げています。今の水準でも福島原発25基分の電力を自然エネルギーで賄っている。日本でも、これを契機にきちんと数値目標を掲げて、再生可能エネルギーでどれだけの電力需要を賄えるのか。東京は東京で、何％は自然エネルギーで賄うのか目標を掲げて、取り組みを開始する必要があります。
須田：自給自足という意味では、これまで東京は、福島県、そして今回は被災していませんが、新潟県などに原子力発電所を建設して、地方に依存する形で行なわれてきました。やはりこれは見直さなければならない状況になるでしょうね。
小池：谷垣（禎一：自民党総裁）さんまでが、原子力行政を見直すと言い始めていますからね。誰がどうみても、今のやり方で良いとは思えない。一定期間このままの状況が続くのは、現実問題としてやむを得ないでしょう。でも、方針を切り替えて、新たなスタートを切る時だと思います。
須田：東京電力は4月末まで計画停電を予定していますが、それ以降は東京湾沿岸部の火力発電所の再稼動を計画しています。これでは不十分だと考えている訳ですね。
小池：不十分です。温室効果ガスのことを考えても、国際的にも、そのような流れにはなっていません。逆に東京湾は今回の震源地になりませんでしたが、東京湾北部地震の可能性も指摘されています。すでに市原ではタンク火災も起こっています。液状化現象の事を考えると、そうそう東京湾岸の火力だけに頼る訳にはいかないでしょう。応急的な対処もしつつ、やはり将来的な方向としては自然エネルギーに思い切って舵を切る。これを本気でやる時です。
須田：そのために東京電力に丸投げという訳にはいきませんね。自治体としても、積極的に関与していく必要があると。
小池：自治体として、きちんとしたエネルギー政策を持たなければならなりません。東京都としてのエネルギー行政がなかったことが、今回の大混乱のひとつの要因だと私は考えています。東京電力に丸投げを続けてきて、結果的に振り回されている。自治体行政としてもエネルギー政策を持つ事を、今回の事態は求めていると思います。
推進行政と振興行政は切り離すのが世界の常識
須田：東京電力が現在行なっている計画停電を、どのようにご覧になっていますか？
小池：う～ん、この混乱の中ですし、やむを得ないという側面もあります。しかし、あまりに情報の出し方が悪過ぎる。直前に出される上に、二転三転している。これでは計画停電ではなくて、無計画停電だと言われるほどです。もちろん技術的に困難な面もあるとは思いますが、鉄道、水道、病院、介護施設のように、電力が途絶えると深刻な影響を受ける施設については、優先的に供給するなどやり方はあったはず。今回のような事態を想定していなかったことは、大きな責任を取らされる問題です。ライフラインに関わるということは、きちんとエネルギーを供給しながら、フォローも行なわなければなりません。その意味でも、現在のやり方では駄目だと思います。
須田：対談の冒頭で、『国の役割』について伺いました。今回の原子力発電所や計画停電に関する事象に対して、東電に100%丸投げするのは無理があったと私は思っています。やはり国か政府が、トップダウンでリーダーシップを取る必要があった。鉄道は国交省、東電の問題は経済産業省と、縦割り行政の弊害が出てしまっています。
小池：そうですね。例えば、経済産業省の人間が東京電力に天下りしている事実があります。しかも、原子力安全保安員は、ほとんど彼らと一体です。利益を得る企業と監督官庁のつながり。しかも原子力の安全に関わる担当行政が推進役所の下にある。ここに究極の癒着構造があるわけです。ここは見直さないと……。保安員の会見をテレビで見て、これでは駄目だと多くの方が感じたはずです。
須田：今年の正月明けですか、元経済産業省資源エネルギー庁長官（石田徹氏）が、退官後4カ月も経たないうちに、東京電力顧問に就きましたね……。
小池：天下りしているんですよ。やはり、このような事態の背景にその問題が関わっていると思わざるをえません。
須田：しかし、もし万が一癒着がなかったとしても、国民の目から見たら『何か情報を正しく開示していないのではないか……』という、疑いの目を向けられること自体もまずいですね。
小池：おっしゃる通りです。安全に関わる部分は、きちんとしないと。推進行政や振興行政とは、切り離すのが世界の常識です。
ところが、最近経産省が出した文書見たんですが、アメリカでは原子力発電所の監視に3000～4000人のスタッフがいるのに対して、日本は300人だと書いてありました。彼らは自慢しているんです、『これだけでやっている』と。要するに民主党政権から行政の無駄を削れと言われて、それに対して返答を出していると。これはやっぱり間違いですよ。アメリカではジミー・カーター政権以来、原発建設はストップしています。今、バラク・オバマ大統領は新規建設を進めようとしていますが、スリーマイル事故からストップしたアメリカと比較しても、その後延々と原発を作りつづけた日本が、アメリカの1/10以下の体制で安全監視をやっていること自体が、重大な問題です。
須田：私も先週、計画停電中の足立区に取材に行って来たんです。言ってみればゴーストタウンですね。住民の方とお話させて頂くと、いくつか不満がありました。ひとつは、なぜ自分達の地域だけ1日2回も停電になって、停電にならない地域があるのか？ 不公平感です。もうひとつは、東電の情報不足もさることながら、例えば区であるとか、あるいは都の対応がまったく不十分じゃないのか、とちいうこと。そのような声がかなり聞こえました。今回の件に関しても、都の果たす役割があったのでしょうか？
小池：もちろんあったと思います。都民の暮らしに関わることですからね。今は東電のホームページを見なければならない。そもそもホームページにアクセスできない方がたくさんいるし、見ても分かりませんよね。YahooやGoogleが、停電区域の地図をアップするようになって、私にもようやく分かるようになりました。地図を見て、自分の所はどうだろうかって……。東電があの程度の情報公開しかできないことに私は失望したし、憤りもありました。それならば東京都や行政がこの状態を正すべき。インターネットだけじゃなくて、地域にチラシを配るとか、東京都の広報を緊急に出すとか、そのような事もやっていません。
須田：これは混乱しているからなのか、それとも普段から体質が整っていないからなのか？
小池：両方でしょうね。混乱もあると思いますが、やはりそのような備えがキチンとされていなかった。ただ、東京都という自治体は、巨大な力を持っているはずです。そのくらいのことは出来ると言いたい。いくら混乱しても、そのくらいの事はやってもらいたいのです。それをやる責任があると思います。
須田：生活に直結することですからね。そうするとやはり、東京都、直接住民とのやり取りがある行政、そして東電が協議をして、いったいどの地域に、どの程度の規模と期間で計画停電を行なうのか。協議をしっかりとやるべきでしたよね。
小池：そうですね。この事態に至ってから、都庁にも色々な形で情報を聞きに行っていますが、一番感じるのは、『国から要請が来ないから、出来ないんです』と、言葉が返って来る。確かに仕組みはそうなっているかもしれませんが、今はそんな事を言っている場合ではない。今は国から要請がなくても、都としてやるべきことがあるはず。手続きがあって、通達が来て、指示があって、初めて動き出すというお役所スタイルが、非常事態でも変っていないのは、根深いものがあると思う。そこは変えて行かないといけない。
須田：その意味では、意外と今回の震災では東京都知事のリーダーシップが見えてこないですね。
小池：見えないですね。リーダーシップどころか『天罰』発言までありましたからね。その点では、本当に都民の命を本気で守ると言うリーダーとしての姿勢が、私は感じられなかったし、そのようなことが、撤回はしましたけれど、発言に現れたのではないか。私は思っています。
『賃金払う必要ない』なんて言う省庁はない方がいい
須田：話は変わりますが、BLOGOSのユーザーからも注目を浴びていますが、このどさくさの中で厚生労働省の方から、『計画停電が実施される場合の対応について』という、通達が出ています。これについては、どう思いますか？
小池：要するに『計画停電で休業した場合は、賃金を払わなくてもいい』と。ただ、これは昭和26年の労働基準局長の通達をもう一度紹介している訳です。昭和26年ですよ？
須田：終戦後の混乱期ですね。
小池：混乱期の停電と、現在のこれだけインフラも整った中で起こっている停電を同列にして、その時の通達を瞬間的に出した。この通達に基づいてやって下さいというのが信じられない。配慮しなければならない問題がたくさんあります。例えば中小企業にとってみると、たちまち景気に直面しますからね。でも、そのようなことを一切考えずに、『昭和26年にこんな通達が出ているから、これでやって下さい』というのはないだろうと。計画停電自体を、政府が認めてやっているならば、計画停電によって生じた損害に関しても国が引き受けなければならない。労働者にしわ寄せをするのは、間違っていると思う。この通達は撤回すべき。もう一回事態を踏まえて、丁寧に議論すべきでしょう。
須田：しかも、これは労働基準監督署からの対応ですね。BLOGOSのユーザーはご存知ではないかもしれませんが、企業にとって労働基準監督署の通達は“絶対”ですね。
小池：命令です。こうしなさいと。
須田：選択肢はない。その点でも、軽々とこのような通達を出すべきではないでしょう。
小池：本当にチェックされて出て来ているのかも含めて、私はかなり重大だと考えています。マスコミはあまり取り上げていませんが、重大な問題です。
須田：正社員であれば、さほど大きな問題ではないかもしれません。しかし、非正雇用の社員にとっては、収入が完全にゼロになってしまいますからね。
小池：大手を振って首を切れるし、雇い止めも出来る。一番厳しい時に、むしろ厚生労働省は労働者を守らなければならないのに……。経産省が言うならば分かります。厚生労働省が瞬間的に対応して、『賃金払う必要ない』なんて言うとはね。こんな省庁はない方がいい。
はっきり言って知事選をやるべき時ではない
須田：そろそろ、知事選の話を伺っていきたいんですが、“そもそも論”として、本末転倒な質問かもしれませんが、『この時期に知事選をやっている場合なのか』という疑問もあります。
小池：私ははっきり言って、知事選をやるべき時ではないと思います。国会で、選挙の延期法案の協議が始まった時に、私はtwitterなどで『選挙は延期すべきだ』と発信していたんですが、やはり今は国を挙げて救援に集中すべきときだし、まともな政策論争をやる環境がありません。海外から支援が来て、国際的なニュースになっている時に、日本では選挙をやっていて、首都東京も首長を選ぶ選挙中というのは、海外からどう捉えられるのか……。
でも、やると法案が強硬で通りましたから、やると決まった以上は、きちんと政策論戦をやっていくべきだと思う。一番悪いのは、選挙をやるとだけ決めて、『このような時だから自粛します』と言って政策論戦はやらないこと。街頭での訴えもやらないのであれば、暗闇選挙になってしまう。選挙をやるべきでないとは思うけれど、やるならば都民に対して、きちんと現在の事態の中で、東京都の防災のありかた、原子力発電所の政策がどうなのか、議論する場にしなければならない。
須田：しかも、おそらく都民のほとんどの方が、小池さんの訴えている政策を正しく認識していないでしょうね。
小池：広い東京ですから、その中で政策の訴えが届かずに、言ってみれば人気投票的になってしまう。知名度で選ばれてしまうと、これから先4年間の都政にとっても、マイナスになると思います。やはり、例えば公開討論や政策討論の場をきちんと用意すべきです。今の状況の中でも候補者の努力さえあれば出来ますからね。ところが、そのような討論の場がなくなっているのが現状です。
須田：その中であえて伺いますが、争点は何になりますか？
小池：この東日本大震災を受けて、東京の町造り、都市造りが、いかにあるべきか。これは防災のハード面だけではありません。やはり今回の震災の実体見ても、一番被害を受けているのは高齢者、障害者、病気を持っている人、妊産婦、子供達なんですね。災害弱者達です。ハードとしての防災政策と、そのような人の命を守って行く、医療や福祉の在り方が東京はどうなのか？ このふたつが、問われる選挙になると思っています。
須田：その状況の中で、小池さんが国政から都政に転じる理由はどのあたりにありますか？
小池：直接的な理由は『革新都政を作る会』、私たちの選挙母体が、立候補を要請してきたことが直接のきっかけです。私自身も東京に生まれて、東京で育ってきましたし、今の石原都政12年間、これでいいのかという思いを、ずっと持ってきました。やはり都政を変えたいと、私自身もそう思っていましたし、そのような役割を与えて頂けるのであれば、都政を変えることを訴えて行きたいんです。
須田：『革新都政を作る会』なんですが、おそらくBLOGOSの読者もその存在が分かっていないはずです。どんな会なんでしょうか？
小池：もとを辿って行くと革新都政時代、美濃部（亮吉）都政時代にさかのぼります。あの時、政党としては社会党や共産党、労働組合などの幅広い団体が選挙母体を作っていました。その流れを汲みながら、現在は政党として共産党だけが入っています。労働組合、市民団体、弁護士や医療分野の団体が、つくっている都内の組織です。日常的に都民の皆さんが目に見えるような形で、派手に活動はしていませんが。恒常的に存在する組織です。その中で色々な団体の代表者が候補者を誰にしようかと議論した結果、私になったと。
須田：民主党政権が誕生以来、『革新』という言葉のイメージが浮かびにくくなっています。この革新という言葉は、どのように定義付けしているのでしょうか。
小池：もう読んで字のごとく、新しく変えて行く。中身を言うと、私は日本の憲法の精神を都政に活かして行くことだと思っています。憲法には25条に生存権がありますが、東日本大震災の中では、生きて行く権利が奪われている事態があります。医療や福祉、介護を都政の中心に添えていくべきです。石原さん時代の大型開発中心でやってきたやり方から脱却しなければならない。他の自治体と比較しても、巨大開発予算をどんどん増やしつづけてきました。それではなく、流れとしては命を守る、福祉や医療を中心のテーマにすべきで、私もそれを訴えています。
新銀行東京は破綻処理をするしかない
須田：今回、小池さんに対して『10問のアンケート』を用意しました。マルとバツで、お答えしていただきたい。１問目は、『新銀行東京の継続はどうする？』ですが……。
小池：バツです。これはもう破綻処理をするしかない。実際にもう破綻していますしね。ただちにキチンと処理をする。
須田：中小零細企業支援の意味で、新銀行東京はその役割を果たしたと思いますか？
小池：役に立っていませんよね。中小企業同友会などが、『新銀行東京は、役に立ちますか』とアンケートを行なったら、１割くらしいか『役に立つ』と答えていない。実際銀行業としても、成り立っていない訳ですよ。確かに帳簿上は経営状態が良くなっていると言われていますが、結局貸倒引当金をどんどん取り崩していただけですから。銀行業としては完全に破綻していると思います。精算処理をして、現在融資を得られている方には制度融資などで責任を持って引き継ぐ形で……。銀行業として継続するには、さらに都民の血税を無駄に使うだけになってしまう。今は石原都知事の面子だけでやっている状態ですから。
須田：1400億円の血税が消えていますからね。
小池：これだけで万死に値しますよ。しかも、この件に関しては色々な口利きなどの疑惑がある訳です。きちんと精算して、この新銀行東京に関する疑惑を洗いざらい明らかにしなければならない。これは絶対に石原さんにはできません。
須田：小池さんが都知事になられたら、全容解明はやりますか？
小池：もちろんやります。やらなければならない。これだけの税金を無駄に使ったことは、責任をきちんと取らせないといけない。
都民が安く新鮮な魚や野菜を手に入れるためには築地がベスト
須田：2問目は『築地市場の豊洲移転は？』ですが……。
小池：バツ、反対です。これには大きく2つ理由があります。1つ目は豊洲が生鮮食品を扱う市場に使う場所ではない。今回の地震で液状化現象も起こっています。我々は写真も撮ってきましたが、表層の土壌対策はやると言っていましたが、有楽町層と言われている深部から下は手つかずです。そこから吹き出して来る可能性もありますし、移転は白紙撤回すべきです。築地は今回の地震でも問題は起こっていません。もちろん耐震対策は必要ですが、きちんとあの地で再整備をする必要があります。
もう1つは、築地には独自の機能があって、蓄積された仲卸の皆さんがいます。大量に買い付ければ安くなるのではなく、良いものをきちんと品質を見抜いて価格をつけると言う仕事をやっている。それが生産地を守っているし、消費者に良い物を届けるという調整機能を持ってきました。それが豊洲に移ると、ほとんどなくなってしまうでしょう。結局大手物流スーパーマーケットなどのための市場に変質していきます。これは都民の食の安全、そして江戸の食文化を守って行く面でもマイナスになります。これは断固として、築地で再整備をすべきです。
須田：今の話には2つの大きなポイントがありました。最初に現在の築地における再整備は可能なのでしょうか？ かなり老朽化が進んでいますが……。
小池：現地で仕事をしている皆さんは、『可能だ』と提言されています。アスベストが危険だと言われていますが、アスベストはどこにあるか分かっている。でも、豊洲はどこに毒物が埋まっているか分かっていない。これはまったく同列には語れません。当面のアスベストの飛散については、処置されています。解体時に出て来るのは、どんな建物でもありますからね。私は対応可能だと思っています。もちろん再整備している間の一時的な移籍先も必要でしょう。それはきちんと当事者が参加して、議論をしていくことでクリアできるはずです。以前は東京都も計画を持っていた訳ですから、それをキチンと今日版に作り直せば、十分可能です。
須田：二点目として、大手スーパー・大手小売りのための市場になってしまうと。零細の鮮魚店などの小売りがたくさんありますが、大手小売りの市場というのはどのような意味ですか？
小池：豊洲の構図を見ると、明らかにトラックターミナルです。市場の設計図を見ても、歩いてまわるのは不可能です。今の築地であれば、魚の市場から青果の所まで歩くことが可能です。寿司店が魚仕入れて、そのまま青果に行って必要なものを手に入れることができますが、豊洲では無理です。巨大な建造物になってしまいます。今の市場の機能とはまったく違うものになる。何よりも“競り”がなくなってしまう。本当に相対取引でやっていく市場になっていきますから。競り機能は本当に大切だと思います。個別対応もしてくれますしね。“相対”だけでやっていると、大手が大枚はたいて大量に買い占めるのが有利になってしまう。中小業者の営業を守って行くためにも、競り機能をきちんと維持するのが重要。それができるのが築地です。
須田：都民が安く新鮮な魚や野菜を手に入れるためには、築地がベストだと。
小池：ベストだと思います。私は、あの議論の中には首都圏全体の市場にするというプランもありますが、私は懐疑的です。今回の災害を受けてみると、豊洲に集中して首都圏全体の市場になっていたら、災害時首都圏全体がストップする可能性がある。ある程度分散して機能を維持した方が、災害対応を考えても良いのではないかと思っています。
起立しない教員を処分するのは国際的に見てもあり得ない
須田：3問目は『教育現場での日の丸・君が代強制』です。
小池：反対です。これは内心の自由の問題。個人の自由であるべきです。起立をしなければ、処分するべきではない。それぞれが自分の判断ですべきこと。それがこの問題に対する常識ある対応だと思っています。東京都は起立しない教員を処分するとか、民主主義国家としては国際的に見てもあり得ない対応です。
須田：憲法を考えると、思想・信条の自由が定められていますから、大前提として憲法、その次に色々なルールや法律があるべきです。処分は馴染まない感じがしますね。
小池：憲法を鑑みても、認められません。
漫画にとって誇張こそが、メディアとしての特徴
須田：4問目は、BLOGOSユーザーにとって一番関心のある質問です。『青少年健全育成条例』について、漫画の問題についてはいかがですか？
小池：そもそも、この改正には反対でした。規制として上から見るべきではありません。きちんと自分自身が見分ける力をつけていくことが、この問題への対応です。今回の改正では、非常に恣意的な解釈ができる条文になっています。私は現在の出版界の自主規制やルールで十分だと思います。この改正部分に関しては、私が知事になれば、廃止条例を都議会に出す約束をしています。都議会で認められるのか、ご意見もありますが、私がそのような事を明確に訴えていますし、当選した場合には都議会も尊重してもらうつもりです。
須田：直近の民意ですしね。
小池：都議会民主党の中にも、この改正には懸念を持っていた議員も少なからずいたと聞いています。私は都議会で通して頂きたいと思っています。
須田：そもそも、思想・信条の自由、報道の自由も含めて、お上が一定の基準を持ち込むのは馴染みませんね。
小池：『過度に誇張を賛美する』という条文がありますが、漫画にとって誇張こそが、メディアとしての特徴です。それを規制しては、漫画を描きようがない。創作者のみなさんが、一様に駄目だと声を挙げていますよね。私は今回の条例改正が、憲法違反だとはっきり思います。
オリンピックよりも、まずは暮らしを支えること
須田：5問目は『オリンピックの誘致』です。石原さんの目玉政策でしたが……。
小池：もちろんバツですね。私自身、オリンピックは大好きですし、非常に素晴らしいイベントだと思います。しかし、今のこの東京都は色々な課題を抱えています。高齢化社会を迎える、あるいは子育て支援も駄目だと指摘されている中で、税金の使い方の優先順位としてオリンピックではないでしょう。まずは暮らしを支えることにコストを使うべきです。しかも、東日本震災からの復興は、国を挙げて本当に大変な事業になっていきます。その時、オリンピックのために税金を支出するのは、反対です。励ますためにと、おっしゃる方もいるけれど、そのような一時的なイベントで励ますよりも、きちんと暮らし続けられる、安心して住める、東京を作っていくことこそ、国民を一番励ますことになるはずです。
須田：このようなイベントで経済の活性化、あるいは都民の気持ちを鼓舞するのは、高度成長期の発想ですよね。
小池：右肩上がり時代の話ですよね。東京オリンピック、北京オリンピックのような状況です。その時とは、日本の置かれている立場がまったく違います。
須田：しかも、東京は、日本を代表して急速に少子高齢化が進んでいます。あるいは、プラスの意味に捉えると成熟化が進んでいっている。この中で本当にオリンピックが必要なのか……？ 人、物、金をもっと重点的に配備すべき所があるのでは？
小池：おっしゃる通りです。現在、東京で介護を必要としている方は約50万人いらっしゃいます。これが15年くらい経つと、90万人になります。本当に現在の体制のままであると、大変なことになりますからね。孤立した高齢者が街にたくさんいる中で、大災害が起こったら……。本当に惨状ですよ。これは緊急課題です。今から手をつけても、間に合うかって状況。私はこれが都政に問われていると思います。このような福祉の街造りをやっていくことに、真剣に取り組まないと。
防災面でも木造密集地域が東京には大量に残されている。そして、マンションが100万戸を越したと言われています。臨海部にも高層マンションがどんどん建っている。地震があっても、建物は耐えられると思いますが、ライフラインは途切れますよね。上層部に住んでいる人は、例えば30階から水を取りに行けるのか？ 検討・対応しなければならない課題が山積しています。これはすぐにやらなければならない。
須田：その中でオリンピック開催は、ブラックジョークのようですね。
小池：あり得ない話です。
外環道よりも耐震化事業を
須田：6問目は、『東京外環道路建設事業』。これについては？
小池：バツです。渋滞解消と言っていますが、実際に環状道路を作ると渋滞は増加します。事実、中央環状線の新宿～渋谷が出来た結果、4号線の渋滞が悪化しています。ロンドンでも環状道路を作ったために、自動車交通量は約26%増えている。湾岸線が出来た時、横羽線の交通量も約20%増加しました。高速道路を作れば作るほど、自動車需要を喚起して渋滞を生み出してしまう。その点では、やはり見直す時。これから人口減少社会が進む時、『1m造るのに1億円』という巨大プロジェクトで、東京の地下を彫り貫いて行く。災害の観点でも、専門家の方も地下40メートルという大深度に巨大なトンネルを、5階建てのビル2本分の深さに通すのは、たいへん危険だという指摘もあります。これはストップさせるべきです。
須田：先ほどのオリンピックの話ではありませんが、そこにお金をかけるならば、もっと使うべき所があるだろうと……。
小池：おっしゃる通りです。『1メートル1億円の道路』を造るのであれば、そのお金で福祉、教育、医療を充実化する、耐震化を進めるべきです。
都営住宅の新規建設はやっていくべきです。ニーズは非常に高い
須田：それと関連しますが、7問目『都営住宅の新規建築』については？
小池：これはマルです。このような公共事業は進めていくべきです。東京の一番の悩みは、家賃が高いこと。若い人が住めない。石原都知事になってから、都営住宅の新規建設をやめてしまった。現在は、都営住宅が限界集落化、つまり高齢者だけの住宅になってしまっています。コミュニティとしても、このままでは大変なことになってしまう。団地というのは色々な世代の人たちがいるべきです。間取りの異なる部屋を取り混ぜて、若いカップルも、単身者も、高齢者がひとつの地域で住める街造りをすべきだと思っています。そもそも都営住宅の倍率が凄まじいことになっていますよね。
須田：20倍を超えています。
小池：一部では50倍に至っている所もあります。これはただちに推進しなければなりません。私は年間2000戸の新たな都営住宅の建設を行なうと今回の選挙でも訴えています。もう1本の柱としては、家賃補助も必要です。都営住宅だけでは賄えませんから、民間賃貸の家賃補助を若い人たちの世帯に向けて月10万円くらいでしょうか。このような家賃補助をやっていこうと提言しています。
須田：この問題は、社会保障政策の一環になりますね。貧困対策、母子家庭対策であるとか、住宅に入れない場合、多重債務に向かってしまう場合もありますね。
小池：そうですね。職を失った時、一番困難になるのが住宅です。派遣村の時にも痛感しました。住む所さえあれば、それをベースに職探しもできるし、色々な社会資源を活用して制度を使うことも可能です。とにかく住む所さえを確保すればというのが、実体としてある。最低限の責任を果たしていくためにも、都営住宅の新規建設はやっていくべきです。ニーズは非常に高いと実感しています。
須田：例えば足立区には、昭和30～40年代に建設された都営住宅が未だに残っていますね。これは耐震と言う点で大丈夫なのでしょうか？
小池：私も見て来ました。江東区の辰巳団地は都営住宅ですが、液状化現象が起こっている。土台がひび割れた結果、下水道管が破断して、下水が地面に広がる大変な状況になっています。現在存在する都営住宅の液状化対策を含めた耐震補強もやらなければならない。これまでの東京都は立て替えを行なった場合に、高層化すると土地が余っていました。しかし、余った土地を住宅化しないで売却していた。そこに新たに住宅を作っていくで、都営住宅拡充の余地はあります。あるいは、そこに保育所やグループホームを作ることで、コミュニティを創設する。やることはたくさんありますよ。
多選は良くないが、制限するのは反対
須田：8問目は『都知事多選制限を儲ける』ことに関して。これはいかがでしょうか？
小池：多選も良くないと思いますね。特に石原さんが今回で4選になります。<やはり余りにも長過ぎると思いますし、長くても良いことをやってればいいけれど、中身が酷いですから……。そして、やはりこれは選挙で都民が判断することではないでしょうか。何か法律を作って制限するのは反対です。『あまりに長いし中身も酷い。ストップだ』と都民が判断していけばいい。
八ッ場ダム建設は止めることがプラスになる
須田：9問目は、民主党政権発足後の大きなテーマでもありましたが、『八ッ場ダムの建設中止』についてです。
小池：私は治水にも利水にも役に立たないと思っていますし、財政的にも莫大になってきますから、やめるべきだと思います。しかし、止め方に問題がある。これだけの巨大プロジェクトでしたから、関係者・地域住民の理解をしっかり得るための努力が必要。東京外環道についても言えますが、一方的に止めると宣言して、後は聞く耳を持たないという訳ではなく、私の考えをしっかり訴えて、地域住民・関係者とも膝を詰めて話し合う。それに代わる色々な措置・保証も含めて、理解を得る必要があります。八ッ場ダム建設中止は当然のことだと思いますが、もっと理解を得る努力を行政はすべきでした。
須田：完成した方が、都民にとって経済的にプラスになるのでしょうか？
小池：東京に水は余っていますし、利水の面でもどうでしょうか。過去の水害を検証しても、水位を下げる効果はほとんどないと国土交通省も認めています。まぁ、なんのメリットもないと思います。これから先に投資する場合はお金の無駄ですし、貴重な環境を破壊する点でも、都民にとってマイナスにしかなりません。止めることがプラスになるはずです。
連合体のように自治体の形を変えるのは反対
須田：最後の質問ですが、最近の地方行政では流行になりつつある統一行政について。『1都3県をまとめる広域行政』ついては？
小池：広域で協力・連携することは必要です。特に今回のような巨大災害の時には、広域的な対応はどうしても必要になります。しかし、首都圏連合や道州制にして、ひとつの自治体に統合してしまうのは反対です。それぞれの自治体が固有の課題を抱えていますし、東京には東京の課題があって、千葉や神奈川とは全く異なります。きめ細かな住民サービスを行なっていくためにも、今の規模以上に大きくすることはマイナスになる。首都圏で一体化すると、あまりにも巨大なマンモス自治体になってしまって、日本全体を考えても極端な一極集中になってしまう。広域的な行政の連携には賛成ですが、弊害の方が大きいですし、連合体のように自治体の形を変えるのは反対です。
須田：密に連携を取り合う事はやっていくと。
小池：もうすでにそのような仕組みはあるわけですし、都県の連絡会議があります。その辺りをしっかり強化することで充分だと思っています。
救急車の数を見ると、都民ひとりあたりで全国47位なんですよ。
須田：10問の質問は以上です。ここで、ようやく小池さん自身が訴えている事について、伺いたいと思います。今回の都知事選で特に訴えたいのは？ ご自身が都知事になった時にまず手掛けたいことを教えてください。
小池：今回のような事態の中で、『命を守る福祉・防災都市東京を作ろう』をスローガンにして訴えていこうと思っています。両者は一体のもの。福祉は人の命を守りますし、防災もそうですよね。石原都政を見ると、『何が贅沢か、それは福祉だ』として、色々な制度をなくしてしまった。典型的なのは16もあった都立病院を、8つまで減らしてしまったこと。これが象徴しているように、医療・福祉行政がだいぶ後退しています。防災面でも、石原さんはキチンとやってきたイメージがありますが、違います。
かつて1971年までは東京都地震震災予防条例がありました。条文の中に、『地震は自然現象ですが、震災は人の力で防げます』と書いてあります。ところが、石原さんが2000年に最初の仕事として手掛けたのが、この条例の改訳でした。震災予防条例を震災対策条例に名称を変更して、その原則の第一を『自分の命は自分で守る』とした。これは考え方が180度違う。私は『天罰発言』もこのような事が背景にあると思う。それで防災予算が減っています。その点で、福祉を削って来た、防災を後退させてきたことの根っこはひとつです。このふたつをチェンジして行きたい。
福祉を立て直し、防災を強化していく点では、具体的に都立病院潰しをストップして、医療・介護のネットワークを作る。震災時に命を支えられるネットワークを構築します。特別養護老人ホーム、あるいは認可保育園を増加させる。東京は土地の取得がネックになるんですが、都内だけで使っていない国有地が、東京ドーム500個分以上もあるんですよ。国会で参議院でも取り上げたんですが、財務省はそれを1円でも高く売ろうとして手放さなかった。『それでいいのか？』と問題提起して、前向きな答弁が初めて去年でました。
今、世田谷区などで国有地を認可保育園にする取り組みが始まっています。これをドンドン進めます。住民の要求に応えるだけでなくて、経済対策にもなるでしょう。地元業者への仕事作りにもなりますし、雇用も増やせます。防災面を考えると、いくつもの課題があります。東京の防災計画は 震度6を前提に作られていますが、やっぱり震度7を前提とした計画にして、全面的に見直していく。知っていますか？ 救急車の数を見ると、東京は都民ひとりあたりで全国47位なんですよ。
須田：最下位ですね。
小池：消防ポンプ車は46位なんです。今、東京消防庁が頑張って、重機での作業を原子力発電所で行なっていますが、あの車両は全都で8台しかないんです。ハイパーレスキュー隊をもっと強化します。そして、都営住宅の1000戸の建設ですね。
国民健康保険料が高くて負担になっています。減税が今流行っていますが、一番良いのは、この面のコストを下げるのが一番です。こういった計画を、現在『小池ビジョン』として打ち出していて、およそ総額2500億円の計画になっています。オリンピックの誘致のための積立金が4000億円以上手つかずで残っています。それ以外にも、都民のために使える積立金が1兆円以上ある。このような時代こそ、これを活用する時じゃないか。東京都の一般会計だけで6兆円以上もありますから、2500億円はその4%になります。その程度の組み替えで可能なんです。都政のありかたを巨大開発推進型から、福祉・防災都市に切り替えていきます。このように財源も示してきました。でも、よく『小池さん、そんな約束して大丈夫？』って聞かれるんですよ。
須田：財源がありますか、と（笑）。
小池：『民主党みたいになりませんか？』と。そこは東京の豊かな財政力を活かすことで、それだけのことが実現出来るんだと正面から示して、選挙で訴えて行きたいです。
須田：都民のある一定の年齢層の中には、『福祉の推進、革新』というと、美濃部都政を思い出して、ある種のアレルギーがあります。あの時、財政が悪化して大変な思いをした。その状況への懸念もあると思いますが。
小池：美濃部都政とは、時代が違います。右肩上がりで財政的な問題を考えずに出来た時代と、今はまったく違います。その点では、現在の経済状況を踏まえなければならないのは、おっしゃる通りです。ただ、同時に福祉はすべてマイナス、すべてコストがかかるかと言うと、私はそうは思っていません。きちんと経済が循環していく方向に制度を変えることも含めて進めれば、私はマイナスばかりではないと思う。中小企業の低迷を支えていく力にもなり得るはず。暮らしが大変で物が買えないからこそ、商店街も元気がないわけです。将来の不安があるから、みんなが物を買わない。そういったことを立て直すことで、経済を順調に回復させる方法はあるはずですよ。美濃部都政時代の教訓を踏まえて、あのような事態を起さない。あの時は色々な悪条件も重なったと聞いています。国は革新都政を敵視していて都債の発行を妨害したり、オイルショックもありました。私が進める福祉都市は、今の時代の経済情勢・財政に相応しい形でやっていきたいと思っています。
須田：これまで福祉行政を考えると、例えば大阪市が増大する生活保護費負担に耐え切れなくなって、平松（邦夫）市長が生活保護の抜本改正を打ち出しています。福祉政策を全面に打ち出すと、その辺りの増加圧力もあると思いますが……。
小池：生活保護はナショナルミニマムです。私は自治体に負担を求める事自体が間違っていると思う。あれではどうやっても破綻します。困窮者が集まっている自治体は大変ですから……。生活保護行政は、国が全額持つという仕組みにする必要です。このような制度的な見直しも一緒にやっていかないと、すべてを自治体が引き受けることでは出来ない。その辺りは国に堂々とモノを言う行政が自治体には求められている。
救急車の数を見ると、都民ひとりあたりで全国47位なんですよ。
須田：話は大きく変りますが、今回の都知事選には大きな違和感があります。松沢（成文：神奈川県知事）さんが、最初に出馬表明をされて、石原さんが出馬するから取り止めるという状況になった。都知事の椅子が私物化されているのか？ 政策論争以前の問題ではないのか？ なぜ、このような事が起こっているのでしょう。
小池：東京都政をどうしたいという問題ではないのでしょう。彼らからはそのような印象を受けます。どうしたら選挙に有利になるのか？ 自分のキャリアアップに有利に働くのか？ そのことだけで立候補を決めている。これは都民を愚弄していると思います。都政は大きな問題です。都政が変れば、もの凄い仕事ができる可能性を持っています。国の政治に問題があれば、東京から変えて行く力があります。都政をどうするかを考えないで、自分にとって有利かを考えるばかりです。
須田：有利と言うよりも、『得か損か』の非常にレベルの低い所で判断していますね。
小池：そこまで私の口からは言えませんが（笑）。私物化でしょうね……。それがはっきり出ていると思います。
須田：我々有権者にも責任があるんでしょう。そういった政治状況を許してしまった……。
小池：最大の責任はやっている人たちですよ。その意味で今回の選挙は、『そんなのいい加減にしろ』と言える選挙に是非したい。
須田：そもそも、東京と縁もゆかりもない神奈川県知事が横滑りで来るのか？ なぜ元宮崎県知事が来るのか？ さっぱり訳が分からないというのが、都民の本当の心境だと思いますね。
小池：しかも、出ると言っていた人が２人並んで、片一方が出ないと会見して、一方が出ると会見をするというのは、悪い茶番劇、三文芝居を見ているようでした。本当に都民を馬鹿にするなと言いたいです。
須田：我々も反省しなければなりませんね。時間が来たので、最後に都民へのメッセージがありましたら、是非お願いします。
小池：東京都政というのは、本当に大きな可能性を持っていると思っています。全ての会計を合わせると12兆円もある。ロシアの国家予算の半分、韓国の国家予算に匹敵する。これが本当に都民の生活を支える方向に、新たな取り組みを色々進めることで、暮らしも変るし、生活不安という点でも大きな役割を果たすはずです。今回の選挙では、夢や希望を正面から大いに語って行きたい。あんな事も、こんな事もできるようになる。財源を示しながら、同時に私の最初の仕事として、今度の選挙で訴えたいのは、震災の被害から救援・支援する人たちを励ます。これを、まず都知事の仕事としてやっていきたい。防災の町造り、福祉の町造りを訴えたい。あの震災で亡くなれた方々、家族を失った方々に対して、そんな東京を作っていくことが、その思いに報いる道のはずです。
須田：長い時間、ありがとうございました。
小池：ありがとうございました。
プロフィール
小池晃（こいけ あきら）
前参議院議員、日本共産党政策委員長。医師。1960年生まれ。東北大学医学部卒業後、小豆沢病院、北病院、代々木病院で勤務。1998年7月から2010年7月まで参議院議員。東京民主医療機関連合会理事、日本科学者会議会員も務める。2011年2月、「革新都政をつくる会」から要請を受け、都知事選挙に無所属で出馬表明。
聞き手：須田慎一郎（すだ しんいちろう）
経済ジャーナリスト。1961年生まれ。日本大学経済学部卒業後、経済誌の記者を経て、フリージャーナリストに。「夕刊フジ」「週刊ポスト」「週刊新潮」などで執筆活動を続けるかたわら、テレビ朝日「ワイドスクランブル」、「サンデーフロントライン」、読売テレビ「たかじんのそこまで言って委員会」、ニッポン放送「あさラジ」他、テレビ、ラジオの報道番組等で活躍中。
・須田慎一郎ジャーナル
・須田慎一郎の政経コンフィデンシャルブログ
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