※この記事は2011年03月20日にBLOGOSで公開されたものです

　３月１９日午後５時（日本時間２０日午前５時）過ぎ、米国のオバマ大統領は訪問先のブラジルでホワイトハウス同行記者団に対し、リビア情勢について、「リビアでの限定的な軍事行動を許可した。行動はすでに始まった」（３月２０日asahi.com）と述べた。米英仏を中心とする多国籍軍のリビア・カダフィ政権に対する軍事行動が始まった。国際社会の関心は、日本からリビアに移っている。

　今回のリビア情勢は、日本にも二つの点で大きな影響を与える。

　第一は、日本政府が国際基準での統治機能を維持しているかについてのリトマス試験紙になるからだ。日本はＧ８のメンバーであり大国だ。ここで国際情勢の変化に迅速に対応できるかどうかで、現時点での日本国家の能力が諸外国によって測られる。結論から言うと日本は合格点を得た。朝日新聞(asahi.com)はこう報じた。

日本政府、リビアへの軍事介入支持　松本外相が談話 2011年3月20日12時28分

　松本剛明外相は２０日、英仏米などの多国籍軍がリビアに軍事介入したことについて「日本政府は、リビア当局による自国民に対する暴力の即時停止を求める立場から、国連安保理決議にのっとって国連加盟国が措置をとることを支持する」として、軍事介入を支持する談話を発表した。

　談話は「リビア当局が国民に対する暴力を継続していることを強く非難する」としたうえで、カダフィ政権が「直ちに賢明な判断を行うことを強く促す」と求めている。また、「即時の停戦を目的としてあらゆる外交努力が行われるべきだ」と国連やアフリカ連合の外交努力に期待感を示す一方、「地域の平和と安定のためのアラブ連盟の役割を重視する」としている。

　事態が発生してから６時間程度で日本政府として多国籍軍の軍事介入を支持する公式見解を表明したことで、国際社会は「大震災による被害と福島第一原発の危機に直面していても、日本政府は国際問題をきちんとウオッチし、迅速に反応することができる。国家機能は麻痺していない。日本は信頼に足る」という評価をしたことは間違いない。松本剛明外務大臣はセンスがよい。国益を守った。

　これに加え、菅直人首相も同趣旨の見解を表明するとよりよいと思う。リビア情勢の進捗は予断を許さない。事態がより紛糾したときは、菅首相がオバマ米大統領、サルコジ仏首相、キャメロン英首相と電話会談を行い、日本としてもこれら諸国の行動を支持すると表明する必要がある。

　日本の窮状を国際社会は理解している。こういう状況で日本が多大な支援を求められることはない。日本が大国であり、国際社会のプレイヤーであることを目に見える形で示すことが必要なのである。

　第二に政治主導で外務省に以下の指示を出して欲しい。

「多国籍軍によるリビアへの軍事介入によって、原油価格にどのような影響があるか。特にリビアへの軍事介入が産油国のイスラーム原理主義者、アラブナショナリストに与える影響をどう評価するか」

　外務大臣から、関係国に駐在する日本大使館に調査訓令が公電（外務省が公務で用いる電報）で発出すれば、きちんとした情報が集まる。

　東関東大震災からの復興において、原油価格の動向はきわめて重要だ。いまからインテリジェンス活動を始める必要がある。（２０１１年３月２０日脱稿）

■プロフィール：
佐藤優（さとう・まさる）…1960年、東京都生まれ。作家・元外交官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
近著に「3.11　クライシス！」など。