今、もっとも国民と距離が近い政治家…と言っても過言ではない政治家のひとり、河野太郎さん。

2015年に初入閣を果たすと、国家公安委員会委員長、行政改革担当、国家公務員制度担当、内閣府特命担当大臣など重職をいくつも兼任。その後も新型コロナウイルス感染症ワクチン接種推進担当など、数々の要職を歴任されてきました。



実績・キャラクターともに圧倒的な存在感を放つ河野さんを見ていて、「この人はいったい、“仕事人”としてどんな力が優れているんだろう?」と筆者はずっと気になっていました。

そこで、ダメもとで「河野さんを、僕らと同じいち“働き手”として分析する取材をしたいです」とメールをお送りすると、なんとご本人から「はい、日程調整します」と一言、お返事が。

政界に改革の嵐を巻き起こす男との1時間。いったいどんな取材になるのか、ド緊張しながら議員会館に向かったのでした…。

〈聞き手=サノトモキ〉

「そういうの、得意だろ」菅前首相はなぜ河野さんに“ワクチン接種推進”を任せたのか

サノ:
今日はよろしくお願いいたします…!

さっそくですが、今回お伺いしたかったのは…

河野さん:
マスクから、鼻が出てる。


筆者、マスクがズレておりました…元ワクチン接種推進担当大臣を前に一番やってはいけない失態から取材がスタート

サノ:
今日は河野さんを、僕らと同じひとりの「ビジネスパーソン」として分析したいんです。

あの未曾有の事態、“コロナ対策の要”となるワクチン接種推進担当大臣という大役を任された河野さんは…いったい、菅元首相からどんな“力”を評価されて任命されたのでしょうか?

河野さん:
まあ、 “スピード感”じゃないでしょうか?



河野さん:
2015年に安倍内閣で初めて閣僚になったとき、僕はとにかく兼務だったんですね。

公安委員長、行政改革担当、そして防災担当もやっていて。

そんななか、2016年、熊本で大きな地震が起きた


※熊本地震…震度7の揺れが28時間以内に2度発生する大規模災害。272名の命が失われ、負傷者2,738人、20万棟近くの家屋被害が生じています(2020年3月時点)

河野さん:
復旧というのは、最初はとにかく「水と食料と毛布」。…の、供給なんですが。

ああいった緊急事態においてもっとも重要なのは、「いかに組織の“横ぐし”を通すか」なんですね。

サノ:
横ぐしを通す?

河野さん:
たとえば、「パン」が必要だとします。

そしたらまず、農水省がパンメーカーにお願いする。そしてパンメーカーが用意したパンを自衛隊が飛行機で現地の指定ポイントまで空輸する。

最後は国交省が現地の物流会社に「パンを避難所まで届けてくれ」と連絡して、ようやく現地の人々にパンが届く。

パンひとつとっても、このようにあらゆる組織の横ぐしを通し、動かし、連携の総指揮を執る必要があるわけです。


災害時、国を守っていた男のリアル。改めて、とんでもない仕事だ…

河野さん:
ほかにも、「焼却炉が壊れちゃった、ゴミの回収ができません」「電気が止まった」「水道止まった」というような連絡が絶えず届く。

「今日問題になってるのはこれ。明日やんなきゃいけないのはこれ」って、もう毎日官邸の副長官室に全部の省庁担当を集めて、指示を出してました

サノ:
と、とてもできる気がしない…

河野さん:
当時それを、菅官房長官×河野防災担当大臣でやったんですよ。

そこで、巨大な組織を動かすスピード感を買っていただいたんでしょうね。

ワクチンも、迅速に推進するには「横ぐしを通す力」が不可欠だから。「この前やっただろ」となったわけですね。「役所動かすの、得意だろ」と。



「俺ね、回りくどいの大嫌いなの」河野太郎のあらゆる行動原理はここにあった

サノ:
たしかに河野さんって、ワクチン接種推進もそうですし、ほかにも行政改革担当大臣として「脱ハンコ」に向けてゴリゴリ組織を動かしたり…

つねに政治家として異例の「スピード感」で物事を動かしているイメージがあります。

この「スピード感」に関しては、河野さんが政治家のなかでも突出されてるんでしょうか?

河野さん:
突出してんじゃないですかね?


断言。これは痺れる

河野さん:
僕、回りくどいの大っ嫌いなんです(笑)

「おかしいことがあったらすぐ直せよ」と。

いろいろ理由つけて物事が進まないのとか、すごく嫌なんです。

サノ:
なるほど…

あの、ちょっと答えづらいかもしれないんですけど…正直、日本の政治ってもろもろ「遅い」と感じますか?

河野さん:
…遅い。



河野さん:
もちろん我々は「民主主義」だから、多くの人の意見を尊重することが大事でもあります。

スピード重視で手続きを省略したり、ひとりが勝手に決めていったりしたら、独裁になっちゃいますから。

ただそれを差し引いても、日本の政治は後手に回りすぎ。

サノ:
どんなところでそれを感じますか?

河野さん:
たとえば3回目のワクチンの接種なんて、オミクロン株がもっと増える前に国民が打てるようにしちゃえばよかったのに、「途中で足らなくなったらどうすんだ」みたいな議論で全然進めなかった。

「こうやったら国民のためにはやく推進できる」より、「こうやったら文句言われそうだから、もっと状態が整ってから動き出そう」って考えが先に立っちゃった。

で、結局、接種が遅れたんですね。

サノ:
なるほど…

河野さん:
とやかく言わずに、今できる一番早い方法でやってみるしかないんです

それでもし足りなくなったら、謝るしかない。



河野さん:
もっと根深い話をすると、そもそも日本は“議論ができていない”。これが日本の遅さの最大の原因。

国会には「こういうことを議論しましょう」と事前に伝える“質問通告”って仕組みがありますが、大臣には「ワクチンについて」って1行だけしか通告がなかったりするんですよ

サノ:
えっ?

河野さん:
「ワクチン推進のこういう点を議論したい」って詳細を伝えると、答えを準備されてしまう。

だから質問を通告しないで、大臣が困るのを野党はテレビに流したい。

そんなの“議論”って言えないですよね。

サノ:
つら…

河野さん:
本来「ここについて聞きたい!」と、正々堂々言ってくれればいい。

それに対して「事実はこうです」ってきちんと正確な答弁を用意して答える。そして、それに対して「そこはおかしくねぇか?」って突っ込んでもらう。

ここからやっと「議論スタート」じゃないですか。


「とまあ、そういう変えるべき“おかしいこと”が今の日本にはいっぱいあるわけですよ」

サノ:
国民がもどかしく思ってるのと同じように、河野さんもいろいろとヤキモキしてるんですね…

河野さん:
その状況を変えていこうと思ったら、“ポジション”が重要になってくるわけですよね。

最初は僕も「ただ新人議員が騒いでるだけ」みたいな感じだったかもしれないけど、規制改革担当大臣になったら実際に役所を動かせるようになった。

このルールはおかしい。変えられないならもうこの仕事、ほかの省庁へ振っちゃうぞ?」って。


ここから、河野さんが”40代で総裁選に挑んだ理由”をお聞きしていきます

「急がば回れは結果論」。リーダーに必要なのは“経験”じゃない。

サノ:
ちなみに、“ポジション”という話でいくと…

河野さんは昨年自民党総裁選に出馬されたのが記憶に新しいですが、じつは2009年にも1度総裁選に出馬されていますよね?

河野さん:
はい。

サノ:
総裁選って普通、閣僚経験のある人が出馬するイメージがあるんですけど…当時河野さんはまだ40代で、閣僚経験すらなかったと思うんです。

なんかこう…「自分にはまだ早いんじゃないか」みたいに引いてしまう気持ちはなかったんですか?

河野さん:
ない

サノ:
それは「自分ならできる」という…?

河野さん:
総理大臣に立候補する人なんて、みんなそう思ってんじゃない?


すごい会話をしている

サノ:
と、とはいえ…当時は閣僚すら経験せず「内閣とはこう動かすものである」みたいな経験値も圧倒的に足りてないと思うんです。

僕だったら「もっと経験を積んでから」と思ってしまうんですが、40代の河野さんはどうして「自分ならできる」と思えたんでしょう…?

河野さん:
たとえばイギリスに、トニー・ブレアっていう首相がいました。

彼は閣僚をやったこと1回もないんです。ずーっと、サッチャー政権で野党だったから。

でも、彼は43歳でいきなり首相になった


※トニー・ブレア…イギリスの政治家。1997年に43歳でイギリス第73代首相に就任。在任期間は1997年5月2日〜2007年6月27日

サノ:
ほう。

河野さん:
もうだいぶ前の話になりますが、トニー・ブレア政権のときにイギリスの保守党の青年部(いわゆる若手チーム)と話してると、どうも話がかみ合わない。

「ちょっと待って。保守党の青年部って何歳くらいの人たちなの?」って聞いたら、「俺らは20代まで。えっ、自民党の青年部はいくつなの?」「自民党は、45歳以下」

みんな爆笑してさ(笑)。「自民党だったら、トニー・ブレアも青年部だ」って。


血の通ったブリティッシュ・ジョークや…(ブリティッシュ・ジョークの特徴のひとつには「権威ある組織を批判する皮肉」があります)

河野さん:
イギリスのトニー・ブレアは、43歳かなんかで総理やった。ケネディだってアメリカ大統領になったのは43歳のとき。

「若いからダメだ」なんてことはないと、世界中のリーダーが証明済みです

若くても、経験が浅くても、国は動く。

サノ:
たしかに…日本って、「まずはいろいろ経験してから上に立ちなさいよ」って考え方が強いんですかね。

それこそ「急がば回れ」みたいな。

河野さん:
俺、「急がば回れ」も嫌い

急ぐなら、「直進で行くのが1番早い」に決まってる。



河野さん:
「急がば回れ」って、結果論なんです。

「結果的に、遠回りしたほうが早かったね」ってことはそりゃありますよ。まっすぐいったら川があって渡れなくて、みたいな。

でもそれは、 “後からわかる話”で。

サノ:
たしかにそうかも…

河野さん:
まずは最短距離を導き出して、直進。ぶつかったら対処を考える

それでいいんじゃないですか。

スタートするときに最初から遠回りを考えてたら、そんなの負け戦でしょう。


「遠回りになるのがわかってるのに、最初からそっちを選ぶなんてさ」

河野さん:
40代での立候補も、「経験」はリーダーに必須の条件じゃないと判断したから。

経験が足りないなら、詳しい人を呼べばいいだけのこと。

自分がやろうと思ってることを実現しようと思ったら、そりゃ総理になるのが一番早い。

リーダーに必要なこと。それは「何をやりたいか」を明確に示せるかどうか

サノ:
じゃあ河野さんが思う、リーダーに必要な要素とは…?

「経験」じゃないとしたら、いったい何なんですか?

河野さん:
「何をやりたいかが明確なこと」。

というか、“どんな職業・立場を選んだとしても真ん中にくるべき要素”だと思います。



河野さん:
よく私のところにも、「政治家になりたいから秘書にしてください」って大学生が来るんですが、私は取りません。

それって要するに、“バッチつけたい”って言ってるだけ。

サノ:
バッチ?

河野さん:
職業・肩書き、それが目的になってる。「このバッチつけりゃ勝ち」みたいな。

そうじゃねぇでしょ

「自分はこういうことをやりたい」。それを成すための手段として、職業や肩書きはある。



河野さん:
たとえば「故郷を豊かな町にしたい」とかね、人それぞれいろんなゴールがあって。

それを叶えるためには、「ビルゲイツみたいにしこたま金を儲けて財団つくって、その金でやっちゃう」って選択肢もあれば、「NGOで頑張る」っていう手もある。「その町に会社つくってたくさん人を雇って、企業の収益で町に還元する」とかもできる。

そういういろんな選択肢のひとつに、「政治家になって実現する」って道があるだけです。

目標が叶えば、べつにどんな職業でもいいはず

サノ:
…!

それは、「リーダー」も同じだと。

河野さん:
「リーダーになりたい」って、それはゴールじゃないから。

何をやりたいか。これが明確にあることじゃないですか。

(ノック音)お、ごめんなさい。もうそろそろ行かないと。

サノ:
では最後に、最後にひとつだけいいですか…!?

河野さんはなぜ、「政治家」を選んだんでしょうか。

いったい、何が「やりたいこと」なんですか?

河野さん:
これはやっぱりね…

とにかく…めんどくさいのがイヤダ…



河野さん:
変なこととか、不条理なこととか、面倒くさいことが、とにかく気になる。

子どものころから、掃除当番とかになると「どうやってさっさと掃除を終わらすか」とか考えない?(笑)

サノ:
めちゃくちゃわかります

河野さん:
「こうやったほうが早いのに、なんでこんなやり方してんの」みたいな。

とにかく、めんどくさいことをやりたくない。全部その延長線上にあるんでしょうね。たぶん。

「めんどくささ」を根本からなくすとしたら、政治家が一番かなという。

サノ:
ああ…。 今すべてが腑に落ちたかもしれません。

この国のめんどくささを、変えたいんですね?

河野さん:
そう、そう、そう。

「自分のまわりにある“めんどくさい”を何とかしたい」を突き詰めたら、“国”という単位にたどり着いたということなんでしょうね。



あっという間の1時間。

河野さんと対峙した日はもう疲弊しすぎて仕事にならなかったのですが、うわべの言葉ではなく、「河野太郎」というひとりの人間として向き合ってくださった1時間は本当に楽しかったなと、個人的に強烈に印象に残っています。

政治って、なんとなく距離の遠いものに感じてしまったりもするけれど、「政治家」が自分たちと同じひとりの働き手として、どんな思いで、どんな仕事をしているのかを知ることは、政治を身近に感じるひとつの手段なのかもしれません。

そのうえで…政治家・河野太郎。その仕事哲学、信念。やっぱりいちビジネスパーソンとしても、学びだらけでした。面白かった!

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=福田啄也(@fkd1111)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉