最近はニュースを見ても連日「値上げ」の報道ばかりです。実際に買い物をしていても多くの商品が値上げされていて、ドライブをしていてもガソリン代は高いし、毎月届く水道光熱費の明細を見ても高くて、困っている方も多いでしょう。このような状況下で「スタグフレーション」や「円安」という言葉を耳にする機会が増えましたが、きちんと説明できますか? 今回は難しい経済用語を易しく解説します。

スタグフレーションって何?

スタグフレーションという言葉を理解する前に、「インフレ」と「デフレ」という言葉を理解しましょう。インフレは正確には「インフレーション」の略で、モノの値段が継続的に上昇していく状態を指します。一方でデフレは「デフレーション」の略で、モノの値段が継続的に下がる状態を指すのですが、このデフレという言葉の定義は明確ではなく、論者によって定義がバラバラです。

過去に国際決済銀行(BIS)や国際通貨基金(IMF)が景気とは切り離して「少なくとも2年間の継続的な物価下落」をデフレと定義したことがあります。一方でわが国の内閣府はその他の経済指標も勘案してデフレを認定するなどしていましたが、ここでは深堀りはしないでおきます。

インフレには2種類あって、需要に供給が追い付かないために物価が上昇する「ディマンドプル型」と、原材料価格やエネルギー価格が上昇することで物価が上昇する「コストプッシュ型」があります。現在、日本で起こっているインフレは後者のコストプッシュ型なのは誰にでも理解できることでしょう。

スタグフレーションというのはインフレーションと、経済の停滞を意味する「スタグネーション」を組み合わせた造語です。景気が良くて需要が高まり供給が追い付かないことによるインフレはいいのですが、経済が停滞しているのにエネルギー価格などが上昇して物価だけが上昇する状態をスタグフレーションと言うのです。まさに、今の日本はこのスタグフレーションの状態に陥っています。ガソリン代や生活必需品が値上がりしているにもかかわらず、平均賃金は上がっていませんよね。

円安の何がいけないの?

さて、次に円安とは何でしょうか?これは、簡単に言えば日本の通貨である円が外貨に対して相対的に価値が低くなることを指します。もう少し分かりやすい例を出すと、1ドル=100円の場合は、1ドルをもらうのに100円を払う必要があります。しかし、円安になり1ドル=200円になると、1ドルをもらうのに先程の2倍の200円を払わなくてはいけません。つまり、これが円安(ドル高)になったということです。

この例を基に考えると、海外から1ドルのものを輸入し円換算して国内で売れば、同じものなのに100円と200円で円安の方が価格が上がってしまうわけです。つまり、円安のデメリットとして、輸入価格が上昇するということが挙げられるのです。

日本は多くのエネルギーや食糧を海外からの輸入に頼っています。ただでさえエネルギーや食糧の価格が上昇している中で更に円安が進んでしまうと、日本ではより一層値上げ圧力が高まってしまいます。このため、最近は急速に進む円安に対して、いわゆる「悪い円安論」が叫ばれるようになっているのです。

コロナの影響? ウクライナ侵攻が原因?

そもそもなぜエネルギーや食糧の価格が上昇したり、急速に円安が進んだのでしょうか?

コロナ禍において、一時は感染拡大を防止すべく意図的に経済活動を抑制しました。日本で言えば緊急事態宣言、海外では都市封鎖(ロックダウン)です。その際に多くの人が解雇や休職を余儀なくされ、工場が閉鎖されたり、飲食店も時短営業などを求められたりしました。

その後、経済を再稼働させた際に、需要に供給が追い付かなくなり、あらゆる原材料の価格が上昇しました。そして、更にロシアがウクライナに侵攻し、先進各国がロシアへ経済制裁を課したことにより、ロシアからの輸出が激減、他国への需要が高まることでエネルギーや食糧の価格が一層上昇することとなったのです。

米国では約40年ぶりの物価上昇率を記録したため、中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)がこれまで緩和的だった金融政策を一転し、金利を引き上げるようになりました。一方で、日本ではこれまで行ってきた金融緩和を継続することを決めていることから、両国の金利差が拡大していき、円安が進行していったのです。

その結果として、コロナ禍やウクライナ侵攻を背景に世界的な物価上昇が起き、日本では加えて円安が拍車をかけたことで、経済は停滞したままにもかかわらず、物価だけが上昇していくことになったのです。

体感したことから経済を学ぶ

円安やスタグフレーションという言葉だけを聞いていると、経済の話は難しそうだし自分には関係がないと思ってしまうかもしれません。とは言え、実際に色々なモノの値段が上がっていることや、自分の給料は全然上がっていないということは、実生活を通じて体感していることでしょう。

日本人は値上げに敏感なため、企業はなるべく値上げをしないように努力しています。本来であれば原材料価格が上昇すれば、その分を売価に価格転嫁して利益率を維持しようとするものです。ところが、日本では素直に価格転嫁すると買ってもらえなくなってしまうため、それ以外の部分でコストカットを図ります。たとえば、正社員の賞与を減らしたり、そもそも従業員の多くを非正規雇用者や業務委託にしたりすることもあるでしょう。

その結果、モノの値段がそこまで上がらずに済むかもしれませんが、経済は複雑に絡み合っています。たしかにモノは安く買えるかもしれませんが、一方では給料が上がらなかったり、雇用形態が正規から非正規になったりするかもしれません。そうなれば、消費者は将来に備えて節約するようになるので、企業は更に売価を下げていこうとします。その結果、もっと給料や賞与が下がってしまう……。このような負の悪循環を「デフレスパイラル」といいます。

これまでも経済について学び直してみようかなと思っても、難しい言葉が多くてすぐに飽きてしまう、という人も多かったと思いますが、このように体感できる事象から学んでいくのが一番の方法かもしれません。