営業は3時間のみ! ラーメン官僚が“規格外”と絶賛する『自家製麺ロビンソン』の中華そばが旨いワケ
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今回ご紹介するのは、昨年(2021年)10月にオープンした『自家製麺ロビンソン』。店舗の場所は、現在めざましい勢いで開発が進む虎ノ門ヒルズエリア。ランドマークとしておなじみの「虎ノ門ヒルズ森タワー」のすぐ近くで、最寄り駅である東京メトロ日比谷線・虎ノ門ヒルズ駅からも、2分も歩けばアクセスできる好立地です。
錚々たる大企業が軒を連ねる虎ノ門エリアは、新橋・内幸町と並ぶ大規模なビジネス街。そんな虎ノ門エリアのど真ん中ということもあり、私がお店にお伺いした時も、お客さんはスーツに身を包んだビジネスマンが過半を占めていました。
『ロビンソン』は、田中恵大氏(和食職人)と伊藤浩二氏(イタリアンシェフ)のお二人が厨房に立ってラーメンを作る、共同経営のお店。提供するラーメンの味は田中氏が考案し、味づくりも主導しています。
『自家製麺ロビンソン』の外観
「20代の頃から、趣味として、ラーメンをコツコツと食べ歩いてきました。成増の『べんてん』や早稲田の『としおか』のような、豚をガツンと利かせたラーメンが好きで、こんな1杯を作りたいと思ったのが、ラーメン店の開業を志したキッカケです」と田中氏。
ちなみに両氏は、夜の時間帯に完全予約制の『虎ノ門 小三治』という、ラーメンを提供しない小料理屋を営んでおり、現在のところ、『ロビンソン』のラーメンが食べられるのは、11時から14時までの3時間だけ。
また、同店は、開店時間の直後から大勢のお客さんが押し寄せる人気店で、一般的な会社がランチタイムを迎える頃には、店内外に相当な数の席待ち客が発生しています。つまり、1時間では会社に戻ってこられない可能性が高いのです。こうした事情もあり、すでに店への訪問を済ませたラーメン好きの知人・友人から、高評価の声を散々聞かされていたものの、なかなか足を運べなかったのですが、今般、ようやく機会を得て駆けつけた次第です。
高級感が漂うスタイリッシュで落ち着きのある店内
店舗外観は、グレー一色に統一された壁面が、実にスタイリッシュ。無駄な装飾を排しシンプルに徹することで、かえって存在感が浮き彫りに。目の前にそびえ立つ「森タワー」の色彩とも調和した、センスを感じさせる店構えです。
店に入ると券売機が鎮座
現在、同店がレギュラーメニューとして提供しているのは、「中華そば」と「つけ麺」の2種類と、その特製バージョン。
最上段は「中華そば」、2列目は「特製中華そば」、3列目は「つけ麺」、4列目は「特製つけ麺」のボタン。「特製」は、デフォルトメニューにワンタン2個と味玉が追加された豪華版です。「中華そば」は、2種類の麺(「手もみ平打ち麺」と「中太縮れ麺」)からいずれかを選択することが可能。「つけ麺」には、「細ストレート麺」が用いられています。
「中華そば」、「つけ麺」ともに上々の出来映えとの情報を入手していたので、両メニューを連食させていただきました。
繊細かつ大胆! 何度での味わいたい「中華そば」と「つけ麺」
「中華そば(普通)」1000円
いずれも、スープ・麺からトッピングに至るまで、真摯に素材と向き合う作り手の姿勢が肌身で体感できる逸品。提供された丼からも、一流の1杯だけが持ち合わせる凜としたオーラが漂っており、口にする前から大いに期待があおられます。
素材の味を極限にまで引き出したスープ
スープには、厳選した「大山鶏」「京紅地鶏」の丸鶏、鶏ガラ、モミジ、挽肉などを使っています。「鶏の中で最も気に入っているのが京紅地鶏。脂の風味が秀逸で、肉質もこの上なくジューシー。夜の部の小料理屋の一品にこの鶏を用いて以来、その魅力の虜になり、ラーメンのスープにも採用した次第です」(田中氏・以下同)
このラーメンのために産み出された「中華そば」の自家製麺
ちなみに、「こんなラーメンを作りたい」と田中氏が話していた『べんてん』や『としおか』とは異なり、意外にも豚は一切使われていません。「ラーメンの試作を重ねるうちに、当初目指していた味からどんどん離れ、最終的にスープに使う動物系素材は鶏だけになりました(笑)」。ラーメンづくりの奥深さを実感させられるエピソードですね。
鶏だけではありません。一般的なラーメン店であれば何も考えずに使いがちな昆布についても、日本料理から得た知識・知見をフル活用し、日高と羅臼の2種類を縦横無尽に使いこなします。
「つけ麺」1000円
「ハッキリとしたうま味が表現できる羅臼昆布は、『中華そば』のスープに最適。他方、『つけ麺』の麺を浸す出汁は、日本料理の出汁という認識なので、日高昆布と羅臼昆布を1対1の割合で合わせて使っています」とのことで、昆布だけでも、ここまで考え抜いたうえで使っていることに脱帽するほかありません。
もちろん、それ以外の素材の使い方も堂に入ったもの。鰹節、鯖節、いりこ、平子干しといった乾物の滋味も、主役である鶏のうま味&コクを際立たせる補佐役としての役割を全うしています。
和食の技術を元に作り上げた「つけ麺」のつけ汁
ひと口すすれば、多様な素材の等身大の滋味が舌上で重なり一体化。ダイナミックなうま味の塊となり、味覚中枢を狂喜乱舞させる至福の味わい。食べ手を一瞬で納得させる深さと奥行き。味わえば味わうほど、弛まざる研鑽の跡が脳裏に浮かんできます。このスープに合わせているのが、熟成を加えない打ちたての自家製麺。
小麦の味と香りを楽しめる「つけ麺」の麺
開業する前から、「ラーメンづくりに携わるのであれば、麺は製麺所に発注せず自家製にする」と決めていたそうで、「製麺機が店に届く前から、製麺機の購入元である『大和製作所』のキッチンをお借りして、麺の試作をひたすら繰り返しました」
こうして完成した麺は、北海道産小麦「春よ恋」、「ゆめちから」に加え、モッチリ感を出すため、もち小麦(「もち姫」)をブレンドしたもの。箸でつまんだ瞬間から、大地の香りが宙を舞う渾身の力作です。
あえて打ちたての麺を用いているのもポイント。「熟成させると、麺にコシが生まれて切れにくくなる…。それはわかっていますが、小麦の豊潤な香りを極限まで表現したかったんです」と、譲れないこだわりを教えてくれました。
炭火で焼かれるチャーシュー
その他、トッピングのチャーシューについても、薫香のさじ加減に気を配るなど、その着眼点の幅広さは尋常なものではありません。
「炭の香りは好きですが、必要以上にスープに溶け出すと、スープの持ち味を損ないます。なので、提供前日にチャーシューを炙り、ひと晩、冷蔵庫で休ませることにしました。そうすることで、薫香が適度な塩梅に落ち着くのです」
ここまで一つひとつのパーツに明確な“理想像”を描き、かつ、その理想を現実のものとして体現できるだけの技量を備えた作り手は、そうそういないと思います。従来、近隣の新橋や銀座と較べて良店が少なく、「ラーメン不毛地帯」と目されていた虎ノ門エリア。そんな虎ノ門に、ようやく、長年の眠りを覚ます「黒船」が来航したという印象です。
店を後にする頃には、お腹も心も幸福感に満たされた状態になっていました。皆さんもぜひ一度、『ロビンソン』の1杯を堪能して幸せを噛み締めてください。
田中恵大氏・伊藤浩二氏のプロフィール
(左)伊藤浩二氏。(右)田中恵大氏
・日本料理の分野で20年超の職人経験を有する田中氏が「自分のラーメンを食べてもらいたい」との思いから、友人であるイタリアンシェフの伊藤氏と共に『自家製麺ロビンソン』を開業。
・夜の部はコース料理を提供する完全予約制の小料理店『虎ノ門小三治』を共同で経営。田中氏は、和食の職人として、伊藤氏はイタリアンシェフとして厨房に立ち、昼の部に『自家製麺ロビンソン』の屋号を掲げラーメンを提供する、いわゆる“二毛作”スタイルを貫く。
・「『小三治』が、お客さんの数を絞り込む完全予約制の営業形態を採っているので、『ロビンソン』には大勢の方々に気軽にご来店いただき、ラーメンに舌鼓を打ってもらいたい」と田中氏。
●SHOP INFO
店名:自家製麺ロビンソン
住:東京都港区虎ノ門1-16-9 双葉ビル 1F
TEL:非公開
営:11:00~14:00
休:日曜、祝日
●著者プロフィール
田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。