日産「フェアレディZ」が50年以上愛される理由
会場に勢ぞろいした歴代フェアレディZ(筆者撮影)
50年以上の歴史を誇り、世界中に多くのファンを持つ日産自動車(以下、日産)のスポーツカー「フェアレディZ」。その新型モデルが、2022年にいよいよ日本でも市場投入される。日産は、2022年1月に、まずは特別仕様車「プロトスペック」を240台限定で国内販売することを公表。メイン市場であるアメリカでは、すでに2022年春に先行発売することも明かになっており(2021年8月発表)、世界中のスポーツカー愛好家たちから注目を浴びている。
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日本では「フェアレディ」や「ゼット(Z)」、北米など海外では「ズィー(Z)」の愛称で長年親しまれ、今までに世界で180万台以上を販売したという日産が誇るロングセラーモデルがフェアレディZだ。近年は、国産旧車ブームに後押しされ、1969年発売の初代S30型をはじめ、1970年代や1980年代の古いモデルにも多くの注目が集まっているが、そんなフェアレディZの歴代モデルがイベントに一挙集結。ビンテージカーの展示会「ノスタルジック2デイズ(2022年2月19日〜20日・パシフィコ横浜)」で、輸出仕様車も含めた全8車種が一堂に展示され、会場を訪れた旧車愛好家たちから熱い視線を浴びていた。
近年、とくに日本車では、SUVやコンパクトカーの需要増などもあり、スポーツカーのラインナップは縮小傾向だ。そんな中、なぜフェアレディZだけはいまだに存続し、新型モデルが世界中で話題となるのだろう。ここでは、イベントに登場した歴代モデルを紹介するとともに、なぜ多くの愛好家に長年愛され続けているのかを紐解く。
初代S30型フェアレディZ
初代S30型フェアレディZのスタイリング(筆者撮影)
「世界で最も売れているスポーツカーのひとつ」と言われるほどの伝説を作ったフェアレディZ。その元祖となるのが1969年発売の初代S30型だ。オープンスポーツカー「ダットサン・フェアレディ」の後継車種として登場したこのモデルは、当時、小型スポーツカーの人気が高かった北米市場をメインターゲットに開発。ライバルであるポルシェ「911」やジャガー「Eタイプ」などの欧州製スポーツカーに対抗するモデルとして発売され、大ヒットを記録した。大きな特徴は、車体前方が長く、荷室が短い「ロングノーズ・ショートデッキ」というスポーツカー独特のシルエット。このフォルムは、現在のモデルにも引き継がれており、まさにフェアレディZの基本形を生み出したモデルだといえる。
初代S30型フェアレディZのリヤビュー(筆者撮影)
国内外で販売されたS30型だが、国内仕様車に搭載するエンジンは、排気量2.0LのL20型水冷直列6気筒SOHC(シングル・オーバーヘッド・カムシャフト)で、最高出力は130ps(のちに2.4Lなど排気量アップ仕様も存在)。軽量なモノコックボディやストラット式4輪独立懸架の前後サスペンションなど、当時の日産が持つ最先端のコンポーネンツを搭載することで、ライバルの欧州メーカー製スポーツカーに負けない高性能ぶりを発揮した。加えて、「ポルシェ911の3分の1」といわれたほどのロープライスも実現することで、北米市場だけでなく、世界中でベストセラーとなり、販売台数の累計54万台という大ヒットモデルとなった。
1970年式のダットサン240Z(筆者撮影)
なお会場には、初代S30型のとなりに、北米向け仕様の「ダットサン240Z(展示車は1970年式)」も展示されていた。このモデルは、排気量を2.4Lにアップした6気筒エンジンを搭載し、トルクなどを太らせた仕様だ。モデル名のダットサン(DATSUN)は、当時、日産が国内外で使用していたブランド名で、北米など海外では「NISSAN(日産)」よりも広く知られていたほど有名だった。現在は、新興国向けのみで展開しており、国内はもちろん、北米などでも使用していない。だが、例えば、北米で人気が高いピックアップトラックなど、古い日産車で名車と呼ばれる車種には、ダットサンの名称を持つクルマも数多い。その意味で、ダットサン240Zの大ヒットは、「ダットサン」という日産のブランド名を世界中に広めることにも貢献したといえるだろう。
2代目S130型フェアレディ280Z
2代目にあたるS130型フェアレディZ(筆者撮影)
1978年のモデルチェンジにより登場したのが、2代目のS130型だ。先代S30型のイメージを引き継ぎつつも、より時代にマッチした洗練されたフォルムに生まれ変わった。大きな特徴は、よりきびしくなった排ガス規制(昭和53年度排出ガス規制)に対応させたこと。排ガス規制への対応は性能低減もまねくが、S130型では、従来からの2.0L仕様に加え、排気量を2.8Lにアップした仕様も設定することでこれに対応。今回展示されたモデルがそれで(展示車両は1980年式)、2.0L仕様と区別するため「フェアレディ280Z」と呼ばれた。
S130型フェアレディZのリヤビュー(筆者撮影)
なお、S130型では、当時の北米安全基準にもとづいたコーナーラバー付き衝撃吸収式大型バンパー、通称「5マイルバンパー」を2.8L系全車に装備した。また、のちにフェアレディZのオープン仕様車の代名詞となるTバールーフ車も設定された。これは、ルーフパネルの中央を細く残し、左右ルーフが取り外し可能な構造のオープンカーのこと。この仕様の登場で、フェアレディZは、よりスペシャリティカー的な要素を持つモデルとしての地位も確立する。
3代目Z31型フェアレディZ
3代目となるZ31型フェアレディZ(筆者撮影)
1983年にデビューしたのが3代目のZ31型だ。このモデルは、1980年代に生産された国産スポーツカーのキーワードともいえる「ターボチャージャー」や「ワイドボディ」が特徴的(ターボ車自体は2代目の後期型などにも存在)。また、前照灯を車体内に格納できる「リトラクタブル・ヘッドライト」を装備していたことも大きな特徴だ。搭載エンジンには、排気量の異なる2.0L仕様と3.0L仕様を用意し、ターボ搭載により当時としてはトップレベルの高出力を誇った(輸出仕様には3.0Lの自然吸気エンジンも設定)。また、エンジン形式も、それまでの直列6気筒からV型6気筒へ変更された(のちに2.0Lは直列6気筒ターボに変更)。
Z31型フェアレディZのTバールーフ(筆者撮影)
なお、今回展示された車両は、1986年のビッグマイナーチェンジで新設されたグレード「300ZR」(展示車両は1989年式)だ。Z31型のフラッグシップとして登場した当モデルの大きな特徴は、DOHC(ダブル・オーバーヘッド・カムシャフト)仕様の3.0L・V型6気筒エンジン(自然吸気)を搭載したこと。吸気弁と排気弁を別々のカムシャフトで開閉することで、高い燃焼効率とハイパワー化を実現するのがDOHCだ。今では当たり前となった機構だが、当時はSOHCエンジンが主流で、ハイグレードな仕様にしか搭載されなかった特別なシステムで、Z31型でも300ZRだけが採用を許された。ちなみに展示車両はTバールーフ車で、高い走行性能に加え、オープンカーならではの高級感や爽快感も演出する。
4代目Z32型フェアレディZ
4代目となるZ32型フェアレディZ(筆者撮影)
4代目となるZ32型が登場したのは1989年(展示車両は1999年式)。まさにバブル景気の絶頂期で、高価な高性能スポーツカーや高級セダンが飛ぶように売れていた時代だ。Z32型は、トヨタ「スープラ(1986年発売のA70型)」など、当時のライバル車を打ち破るべく、先代モデルまで継承してきたロングノーズ・ショートデッキというスタイルを変更。ワイド&ロー(幅広くて低い)なボディによる理想的な重量配分を追求することで、スタイルとパフォーマンスの両方で完璧なマシン作りを目指したモデルだ。
搭載するエンジンは、3.0L・V型6気筒で、自然吸気のVG30DE型のほか、新たにツインターボチャージャーを採用したVG30DETT型エンジン搭載車も設定した。
Z32型フェアレディZのリヤビュー(筆者撮影)
VG30DETT型は、日本車のエンジンではじめて最高出力280psを発揮したことで知られる日産の名機だ。その後、日産は2.6L・直列6気筒ツインターボのRB26DETT型エンジンを搭載した「R32型スカイラインGT-R(1989年発売)」、トヨタでもスープラに2.5L・直列6気筒ツインターボの1JZ-GTE型エンジン仕様車を出すなど、当時の馬力自主規制値280psを発揮するモデルが次々と登場する。Z32型は、それら高性能な国産スポーツカーの先駆けとなったモデルだといえる。
バブル経済の崩壊後も約11年間という長い間、モデルチェンジをせずに販売され続けたZ32型だが、2000年に生産が終了。約30年続いたフェアレディZの歴史は、ここでいったん幕を下ろすこととなる。
5代目Z33型フェアレディZ
5代目にあたるZ33型フェアレディZ(筆者撮影)
先代のZ32型が生産終了となった約2年後、2002年に5代目として登場したのがZ33型だ。空力性能を追求したボディには、流麗なファストバック(車体後部にもドアを持つ3ドア車)タイプを採用したほか、オープンモデルの「ロードスター」も設定。フェアレディZのオープンカーは、それまでTバールーフが伝統だったが、このモデルではルーフがないコンバーチブルタイプを採用したことも特徴だ。
Z33型フェアレディZのリヤビュー(筆者撮影)
エンジンには、排気量3.5L・V型6気筒のVQ35DE型などを搭載。北米などの海外仕様では、この排気量が由来の「350Z」という車名で販売されていた。なお、今回の展示車両は2005年式で、初代30型の登場から35周年を記念して発売された「35thアニバーサリー」モデル。Z33型のトップグレード「バージョンST」の6速MT車をベースに、エンジンやサスペンションなどをチューニングした特別仕様車だ。
6代目Z34型フェアレディZ
6代目にあたるZ34型フェアレディZ(筆者撮影)
2008年に登場した6代目のZ34型は、フェアレディZの歴史上で最も長く販売されているモデルだ。後述する2022年6月末頃に発売予定の新型も、型式名はZ34型であり、ビッグマイナーチェンジとなる。つまり、Z34型の販売は、15年目に突入することになる。
モデルチェンジ前のZ34型では、初代S30型へ原点回帰したロングノーズ・ショートデッキのスタイルを採用。エンジンには、先代モデルから排気量を拡大した3.7LのV型6気筒のVQ37VHRを搭載し、最高出力は366psを発揮する。北米など海外では、先代と同様に排気量を由来とするネーミングを採用し、「370Z」として販売された。
Z34型フェアレディZのリヤビュー(筆者撮影)
なお、今回展示された車両は、フェアレディZ生誕50周年を記念し、2018年に発売された「ヘリテージエディション」という特別仕様車だ。大きな特徴は、北米で大きな人気を博した1977年の「280Z スペシャルデコレーションパッケージ(ZZZap)」のデザインをリメイクしていること。外装には、ボンネットやルーフ、ボディサイドなどに、1970年代に人気を博したレーシングストライプを施し、レトロな雰囲気を現在のスポーツカーで再現。また、インテリアも、ブラックのステアリングやセンターコンソール、シフトノブなどに、差し色として鮮やかなイエローを入れるなど、特別な内装色を施した仕様となっている。
新型となる6代目Z34型フェアレディZ プロトスペック
今年発売予定の新型フェアレディZ(筆者撮影)
そして、最新型のフェアレディZ。外装は、ロングフードや低重心のリヤスタンスなど、初代S30型をはじめとする歴代モデルへのオマージュを込めたシルエットを採用する。とくにLEDヘッドライトのデザインは、240ZG(S30型)を彷彿とさせる2つの半円をイメージした形状とすることで、新型に独特なフロントフェイスを与えている。また、リヤコンビネーションランプは、Z32型を彷彿とさせるデザインが印象的だ。新たに3DシグネチャーLEDテールランプも装備することで、レトロな雰囲気の中に現代風なテイストも盛り込んでいる。
新型フェアレディZのヘッドライト(筆者撮影)
搭載エンジンは、高性能セダンモデルの「スカイライン400R」にも採用されている3.0L・V型6気筒ツインターボのVR30DDTT型に変更。最高出力405ps、最大トルクは48.4kgf-mを発揮し、トランスミッションには6速MTのほか、幅広いギアレンジにより、ダイレクトで素早いレスポンスを実現する新開発の9速ATも設定する。
なお、国内へ最初に導入される予定のプロトスペックでは、ボディカラーにイカズチイエローとスーパーブラックの2トーンを採用。チタニウムゴールドの専用カラーを施したレイズ製19インチアルミ鍛造ホイールや、4輪アルミキャリパー対向ピストンブレーキなどを装備する。また、内装にもイエローのアクセントなどが入った本革・スエード調ファブリックコンビシートを装備するなど、特別な仕上がりとなっている。
Zが愛される理由
新型フェアレディZのリヤビュー(筆者撮影)
以上のように、フェアレディZの歴代モデルたちは、登場した各時代のトレンドを取り込みつつも、スポーツカーらしい「わかりやすい」スタイルや、当時の最新技術による高い動力性能などで、今に続く根強い人気を獲得してきた。
スターロードが展示していたフェアレディZ(筆者撮影)
当展示会では、ビンテージカーのレストアやパーツを扱う事業者により、国産旧車も数多く展示されたが、とくにフェアレディZの初代S30型や2代目S130型は、ここで紹介した車両以外でも、かなりの数が展示されていたのが印象的だった。現在ブームとなっている国産旧車の代表格としては、1968年に発売された日産「スカイライン」の3代目、通称「ハコスカ」が有名。また、1972年発売の4代目、通称「ケンメリ」も人気が高い。だが、あくまで個人的な印象だが、今回の展示車両だけでみれば、フェアレディZの方が目立っていたような気がする。
T.C.Sグースが展示していたフェアレディZ(筆者撮影)
複数の事業者からの「ハコスカやケンメリは、あまりにも人気が高くなり過ぎた」といったコメントも、筆者の印象を裏づける。近年、どちらのモデルも、高まる需要増により中古車市場での流通台数がかなり減っており、おのずと価格も高騰。とくにハコスカは、1000万円を優に超える車体も多い。高価かつタマ数が少ないため、ユーザーが手に入れにくくなっているのだ。一方、S30型などの古いフェアレディZは、いまだに500万円台で購入できる車体もある。つまり、ハコスカやケンメリと比べ、より安価で手に入れやすいため、ユーザーからのニーズも増えてきているようだ。
T.C.SグースのフェアレディZは510万円で販売されていた(筆者撮影)
また、これも多くの業者が「S30型などの純正部品はいまだに入手できるものもある」という。よく、国産車は「生産終了から10年以上経つと純正部品が手に入りづらい」と言われる。そのため、古いモデルを維持したり、レストアしたりすることが困難な場合も多い。その点、フェアレディZは、いつまでも現役で走らせたい愛好家にとって、比較的維持しやすいことも、人気が高い理由のひとつであることがうかがえる。
歴代モデルと変らない“手の届くスポーツカー”
新型フェアレディZのリヤビュー(筆者撮影)
「いままでに世界で180万台以上を販売した」というフェアレディZは、「世界で最も売れているスポーツカーのひとつ」だと言われている。その人気の秘密は、高性能なだけでなく、これも初代S30型の説明で述べたとおり、ライバル車と比較して比較的リーズナブルな価格を実現したことも要因だろう。近々発売される新型モデルについても、日産は「歴代モデルと同様の手が届くスポーツカー」だと言及している。
実際に、先行で国内販売されるプロトスペックの価格(税込み)は特別仕様車ながら696万6300円。同じ日産のスポーツカー「GT-R」は、現在受注を終了しているものの、安いグレードでも1000万円を超えることを考えれば、かなりの安さだ。多くのユーザーに手が届くスポーツカーであるという点も、フェアレディZがこれだけ長く愛され続けている理由のひとつなのではないだろうか。
(平塚 直樹 : ライター&エディター)