アフターコロナで、新規事業開発を加速させる、組織のあり方を考えます(写真:Fast&Slow/PIXTA)

アフターコロナにおいて次の事業の柱をどう創るか、がホットだ。特に大企業ではその傾向が顕著だが、一方でなかなか成果が出ない会社も多い。


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新規事業部門から目立った成果は出ず、ビジネスコンテストは形骸化。事業開発人材は社内調整に疲れてしまい、大企業では事業開発はできないと、あえてスタートアップ企業へ就職する若者も増える一方だ。チャレンジングな環境を求めている人たちにとって、残念ながら大企業は新規事業に挑戦しにくい環境に見えてしまっているのだろうか。

もちろん、「大企業」だからと乱暴にくくるべきではないのだが、実際、多くのスタートアップ企業に比べれば、強固な基盤を持っているはずの大企業で、なぜ、新規事業が生まれにくいのだろうか?

ビジネスコンテストをやるだけでは意味がない

私の経営するエッグフォワードが新規事業支援の実務を重ねる中で、よく耳にするのが、「ボトムアップでアイデアを表出する機会をつくっているのに、なかなかいい事業案が出てこなくて……どうしたらいいでしょうか?」という声。新規事業アイデアの社内公募や、ビジネスコンテストと銘打ってイベントを開催する企業も増えているが、回を重ねるうちに尻すぼみになっていないだろうか。

確かに、新規事業になりうるアイデアの種を探すという意味では、役職や職種を問わず、多くの人から意見を募ることが有効だ。だからこそ、運営側は盛り上げる意味で、「1人1アイデアの応募必須」「部門ごとにエントリー数のノルマを課す」といったやり方を取るところもあるが、往々にして、強制しても逆効果になるだけだ。

気をつけるべきはイベントそのものを目的化しないこと。新規事業コンテストは通常の業務とは趣が異なるため非日常感もあるし、経営や普段交流のない部門と話すチャンスもあるので、参加者にも一定の満足感はある。なんとなく成功した気になってしまうからこそ、その先の展開まで考えられていない場合が多い。

事業化を実現している企業は、社員の巻き込み方や全体設計がうまいのだ。たとえば、コンテストでグランプリを受賞した社員には、資金提供や、新規事業開発組織への異動が約束される。つまり、優れたアイデアを出した社員に対しては、「会社のリソースを使って自らの手で実現する機会」が実質的なインセンティブになっている。だからこそ、コンテストにも本気のアイデアをぶつけてくれる。

リクルートの新規事業提案コンテストがうまくいく訳

この仕組みがうまく機能している最たる例は、リクルートだろう。公開されている情報だけでも、新規事業提案コンテスト「Ring」には、毎年多数のリクルート社員がアイデアを提案。最終選考前でも一定の選考を通過した段階で予算をつけてテストマーケティングを行い、担当役員がアイデアのブラッシュアップに伴走するなど、会社も社員のアイデアに対して本気で向き合っていることで有名だ。

「Ring」からはこれまでに『ゼクシィ』『R25』『スタディサプリ』といったサービスが誕生。その実績からみても事業化までのプロセスが、相対的にうまく機能していることがわかる。

当たり前だが、新規事業コンテストは新たなビジネスを生み出す入り口にすぎない。具体的に事業化していく出口までの道のりをどう仕組み化するかが、成否を分ける。さらに言えば、成功企業は仕組みの中で担当社員の本気度や覚悟を醸成していくのがうまい。

たとえば、新規事業のために子会社をつくり、その社長を任せるといった方法もある。“担当者”ではなく“経営者”として事業をつくることで、リスクを取ってでも前に進めなければならないような難しい決断に、覚悟を持って向き合わせるのだ。中には、社長である本人の給料も自分で決めさせるところもある。業績が自分の収入に直結するのというのは、まさしく本気で事業に向き合える環境だといえる。

それに対し、うまくいっていない企業では通常業務+αで新規事業に取り組ませているケースが多い。いわゆる「兼務」でやらせるのは、あまりおすすめできない。仕事への責任が曖昧になってしまい、うまくいかなかったときに「通常の仕事を頑張ればいいや」と逃げ道を与えてしまう。

優秀な社員に現場を離れられては困るという理由から兼務をさせがちだが、体力のある大企業こそ短期業績のために現場へ残すよりも、中長期の人材育成や事業開発を優先できるのではないだろうか。成功企業の場合、現場からの引き留めを禁止するほどの強い強制力で新規事業への挑戦を支援しているところもあるくらいだ。

「自前主義」の弊害

新規事業がうまくいかない典型的な例は、とにかく、自前主義が強すぎることだ。社内で完結してしまう。企業の未来を背負うかもしれない新しいビジネスである以上、情報漏洩に敏感になる気持ちもわかるし、自社の力で事業を創り出したい意識もあるだろう。しかし、会議室の中に閉じこもってあれこれ考えても、既存事業を起点にする発想から抜け出せず、アイデアは広がりづらい。

往々にして社内の上司からのアドバイスは参考にならない。なぜなら、社内で評価されて昇進してきた人たちは、既存の事業環境で実績を積んでいるからだ。今後もその環境が続くのであれば彼らのアドバイスは有益だろうが、新規事業はまったく新しいマーケットを創出するものだ。過去の成功体験に縛られたアドバイスでは意味がないケースも少なくない。

新規事業開発をうまく進めている企業は、社外と積極的に意見交換をし、他社や外部パートナーをプロジェクトに巻き込んで協働するなど、オープンコラボレーションを重視している。先のリクルートの例についても、社外協働の加速に向けてグループ外から協働者としてコンテストに参加することが認められているケースもあり、これはオープンイノベーションを狙ったものだろう。

コロナ禍では、イノベーションを生み出そうにも、コミュニケーションが一部の人に閉じがちだ。そのような課題を解決するべく、社内の相互交流SNSサービスである、バーチャルランチクラブのようなプラットフォームの活用も増えている。

加えて、テストマーケティングなどで顧客の意見を聞く機会を増やし、顧客と一緒に事業をつくっていくスタンスをとることも重要だ。例えば、オープンイノベーションを目的としたイベントに積極的に参加するのも1つの手だ。アメリカで開催されているイノベーターの祭典SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)など、世界中から注目が集まるような環境に身を置き、自社の新規事業構想を見てもらうのだ。

「ミッションへの共感」で組織を動かす

最後にお伝えしたい成功の秘訣は、企業として新規事業をやる意味が社員に浸透しているか。言い換えるなら、ビジョンやミッションと接続できていることだ。

いかなるスタートアップ企業でも、ビジョンやミッションがないまま、事業性だけで飛躍していくことはほぼない。実現したい世界や取り組みたい社会課題がベースにあり、そこから新しい事業が生まれていく。

大企業も本来はそうあるべきではないだろうか。例えば、トヨタ自動車が街づくりに乗り出したが、それは、「可動性を社会の可能性に変える」というビジョンを実現するうえで、街のあり方から変える必要があったのだろうと感じられる。

このように、うまく具体化が進んでいる企業では、一見すると既存事業とはまったく関係のない奇想天外なもののように見えて、なぜその事業が必要なのかという理由が根底ではつながっている。これは、新規事業プロジェクトにおいて目的設定・ビジョンメイキングが重視され、非常に丁寧に進めてきた証拠だ。だからこそ、ビジョンに共感して協力者が集い、普段の立場や役割を越えたチームを形成できているのだろう。

目標の設定も大切になる。一般的な組織は、目的を実現するための中間指標(KPI)を設け、その達成に向けて動いていくものだが、新規事業において、あまりにも細かくKPIを設定しすぎると、特に新規事業・サービスはマーケットそのものが未成熟のため不確定要素が多く、かえってKPIに振り回されてしまうことも多い。

役員会を通過させるためだけに動いていないか

よくある例に、とにかく役員会を通過させるための指標ばかりに追われて、中長期の成長観点が欠落していく、短期成果にこだわりすぎ、チームが分業をはじめるといったことがある。

つまり、イノベーションに必要なオープンコラボレーションとは真逆の方向に進んでしまうのだ。こぢんまりとした短期の確実性の高い投資回収ばかりに目が向くので、新規性がどんどん失われていく。むしろ中長期で実現したいミッションを道標に目指す方向性を示すことが、イノベーションを加速させるだろう。

ちなみに、今回ご紹介したような企業における新規事業開発がうまくいくもう1つの共通点は、柔軟性の高さだ。大手でも、スタートアップ企業を脅威と思わず共創のパートナーとして、コラボレーションをする。自分たちは大企業だから、相手がベンチャー企業だから、と区別しない。十分なアセットや基盤を活かせるがゆえに、できることもたくさんある。

このように、成功企業の共通点に注目してみると、大企業がイノベーションに向かないとは必ずしも言い切れず、むしろスタートアップ企業にはできないやり方でイノベーションを生み出す可能性があるともいえる。

共通の志でつながり、フラットに協力し合う関係性を築くことが、新しい時代には必要なのかもしれない。