ボーガン「殺傷事件」多発で法改正、許可なく所持は違法に 警察「無償で引き取ります」
ボーガン(正式名・クロスボウ)を使用した殺傷事件が2020年に相次いで発生したことを受け、ボーガンの所持などを規制するため、銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)が2021年6月に改正された。2022年3月15日までに施行される。
施行されると、スポーツ競技などの目的をのぞいて、ボーガン所持は原則禁止となる。これを受け、全国の警察では「ボーガンの無償引き取り」を呼び掛けている。
これまでボーガンは誰でも購入することができる状況だった。多くは愛好家が鑑賞や収蔵のために所持していたが、殺人などに悪用されるケースが近年目立ち、その度にネットでは「規制が必要」「なんで一般人がそんな危険なものを持てるのか」と疑問の声もあがっていた。
これまで、どんな事件があったのか。報道や警察白書をもとに振り返っていく。
●過去11年間でボーガン使用の殺人事件が4件発生
ボーガンが使用された事件は2021年も発生している。
6月、男性がボーガンで殺害され、香川県内の山林に遺体を遺棄された事件が発生した。NHK(9月8日)などによると、この事件で逮捕された男性は、9月に殺人・死体遺棄の罪で起訴されている。
また京都新聞(7月10日)によれば、7月に京都市内のホテルで男性が殺害された事件では、現場からボーガンが見つかり、被害者の頭に複数の矢が刺さっていたという。
警察白書(2021年版)によると、ボーガンが使用された刑法犯の検挙件数は、2010年から2020年までの間に27件発生。このうち殺人は4件、殺人未遂は6件、傷害等が6件で、殺傷事件が半数以上を占めていた。
2020年6月には、20代の男性が、兵庫県宝塚市内の自宅で、親族4人の頭や首にボーガンで矢を発射し、うち3人が死亡し、1人が重傷を負う事件が発生。同年7月には兵庫県内で、8月には長野県内で、ボーガンを使用した殺人未遂事件が立て続けに起こった。
同白書は、ボーガンが犯罪に使用される背景について、詳細が判明した事件では、「被疑者の多くがインターネットを介してボーガンを入手していた」としている。身分証明などもなく簡単に購入できる販売サイトの存在が、事件でのボーガン使用につながった可能性もありそうだ。
実際、前述の2021年6月に発生した事件についても、インターネットでボーガンを購入していたことが報じられていた。
これらの事件を契機に、兵庫県を含む各自治体は2020年、青少年健全育成条例でボーガンを「有害玩具類」に指定するなど規制に動いた。
自治体だけでなく、国もボーガンの販売や所持の規制を検討。警察庁が2020年12月、銃刀法改正の検討を進めると発表し、半年後の6月に改正法が国会で成立した。
今回の改正で、ボーガンの所持は原則禁止となる。スポーツ競技や動物麻酔など一定の用途のために所持する場合には都道府県公安委員会の許可が必要となる。施行後の所持を規制するだけでなく、施行以前からボーガンを所持している人にも、施行後6カ月以内に許可申請や廃棄などの措置を求める。
必要な措置をとらずに6カ月経過後も所持し続けた場合や、施行後に許可なく所持した場合は、不法所持として、3年以下の懲役または50万円以下の罰金となる。
●ボーガン所持は許可制、「なんとなく持ち続けた」は違法に
改正銃刀法は、ボーガンについて、「引いた弦を固定し、これを解放することによつて矢を発射する機構を有する弓のうち、内閣府令で定めるところにより測定した矢の運動エネルギーの値が、人の生命に危険を及ぼし得るものとして内閣府令で定める値以上となるもの」と定義した。
内閣府令で定める内容は2021年9月15日時点でまだ明らかとなっていないが、衆議院内閣委員会(2021年6月4日)に政府参考人として出席した警察庁の小田部耕治生活安全局長が、次のように回答している。空気銃のケースを念頭に定めるつもりのようだ。
「内閣府令で定めるもののうち、まず、矢の運動エネルギーの測定方法、これにつきまして、内容の詳細は検討中でございますけれども、空気銃の場合と同様、発射する矢の先端から0.75メートルの点と1.25メートルの点との間を移動する矢の速さと質量からその運動エネルギーを測定することを想定しているところであります。
次に、人の生命に危険を及ぼし得る程度の矢の運動エネルギーにつきましても、これもやはり詳細は検討中でございますけれども、空気銃における人の生命に危険を及ぼし得る威力の下限値、これが平方センチメートル当たり20ジュールでございます。この下限値で弾丸を発射した場合の侵徹量、例えば弾丸等をゼラチンに対して発射した場合に、そのゼラチンに貫通した距離、これと同等の侵徹量となる場合の矢の運動エネルギーを定めることを予定しているところでございます」
ボーガンの所持は原則禁止となり、一定の用途(標的射撃、動物麻酔等)に使用するためには、ボーガンごとに、都道府県公安委員会の許可を受ける必要がある。許可期間は3年で、更新制となっている。
施行以前からのボーガン所持者は、施行後6カ月以内に許可申請や廃棄などの措置をとらなければ、不法所持となる。「なんとなく持ち続けた」では済まされなくなるのだ。
そこで不法所持となるような事態は避けようと、警察では「ボーガンの無償引き取り」を呼び掛けている。
手元にあるボーガンの処理に悩んでいる人は、不法所持となる前に、最寄りの警察署などに問い合わせてみると良いだろう。