押井守監督、攻殻機動隊が“戦う女”のスタート
SFアニメーション映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の4Kリマスター版のIMAX上映を記念した舞台あいさつが18日、TOHOシネマズ日比谷で行われ、押井守監督と若林和弘音響監督が登壇。制作の裏側を明かした。
士郎正宗のコミックを原作にした本作は、情報化の進展と共に高度に凶悪化していく犯罪に対抗するために結成された特殊部隊・公安9課(通称:攻殻機動隊)の隊長である草薙素子が、国際的に指名手配された正体不明のハッカー“人形使い”をめぐる捜査に乗り出していくさまを描き出す。
今回の4Kリマスター版は、劇場公開当時の技術では再現できなかった35ミリフィルムに眠る膨大な情報を引き出し、4Kの高解像度でリマスタリング。描線のタッチや背景の細部、暗いシーンでの色彩表現に至るまで、より鮮やかな映像としてよみがえった。
外はあいにくの雨模様だったことに押井監督は「大変な天気なので、来るのをやめちゃおうかなと思っていたんですけど、若(若林)が車で迎えに来てくれたから仕方なく来た」とうそぶきながらも、この日は制作の裏側について熱いトークを繰り広げた。
1995年に公開された本作。「『攻殻機動隊』って絵もそうだし、編集や音響も最新技術でやろうとまわりは盛り上がっていたけど、わたしはもうひとつ(デジタルを)信頼できなかった。でも新しいことをやるきっかけにはなった」と振り返る押井監督は、「あの時は(編集の)掛須秀一がデジタル録音をしたいと言ったんだよね。(パソコンを使ったノンリニア編集の)Avidを最初に始めた男だしね。ただデジタルでやったんだけど、昔のMacって(エラーマークの)爆弾が出まくりで悩まされた。そのたびに10分くらいかけて再起動をすることになったし」と笑いながら付け加えた。
だが、「実はデジタルで作ったというのは実態と違っていて。デジタルというのを手段にしたのではなくて、デジタルならどう見えるかという目的にしたんだよね。だからデジタルっぽく見えるように、実はアナログで作っているところも多いんです」と明かす押井監督は、脳内に響く声を、信楽焼の壺を使って録音したことなど、アナログ的手法を駆使した制作エピソードを次々と披露した。
公開から25年以上の時を経て、「もし今、頭からアフレコをやり直すとしたら、どういうふうに変わるかね」という押井監督の問いかけに、若林音響監督は「アフレコはやはり当時が一番良かったと思う。(素子役の田中)敦子は20代だし、(バトー役の)大塚明夫、(トグサ役の)山寺宏一は30代でピチピチなのに、渋く声を出してくれたから。男性の声優で旅立った方がいらっしゃいますからね。どうしても男性は、いろんな無茶をした中で自分の声ができあがっている方も多いので」と返答。その言葉に押井監督も「そうだよね」と言いながらも、人形使い役の家弓家正さんや、荒巻役の大木民夫さんなどの故人を偲ぶ場面もあった。
そして最後のメッセージを求められた押井監督は「この作品ってめちゃくちゃ地味なんですよね。最後は素子が大暴れするところを除くと、ブツブツ言っているだけだから。よく作れたなと思いますよ」としみじみしつつも、「当時はまだイケイケの気分が残っていて。『天使のたまご』でへこんだけど、『パトレイバー』で大人になった。監督ってこれ(アップダウン)ばっかりで。『機動警察パトレイバー2 the Movie』の後にこれが来るとは思っていなくて。(別の企画をやりたかったため、この企画をやるのは)予想外だった」と述懐。
だが、「自分がやりたくてしょうがない作品じゃなかったから、それが良かった」と感じているという押井監督は「けっこう客観的に作れたというか。士郎さんの原作がやたら難しいので、これをどうやって映画にするのかということで、キャラクターとも距離がとれた気がするし、そういう作り方を学んだ。これがある種の、僕の中の“戦う女”のスタートとなった。素子が最終的に気に入ったんですよね」とコメント。
さらに「25年以上経って、いまだにこういう劇場のスクリーンで観てもらえるのは、監督として一番幸せなことだといつも思っています。スクリーンで上映しても儲からないし、なんならDVDを売った方が儲かる。でもスクリーンで観たいというお客さんの要望がないとできないことなので、皆さんの熱意のおかげだと思います。本当にどうもありがとう」と観客に感謝の思いを述べた。(取材・文:壬生智裕)