松坂桃李『孤狼の血 LEVEL2』で10メートル落下!壮絶アクションに密着
白石和彌監督の映画『孤狼の血 LEVEL2』(8月20日公開)で主人公の刑事・日岡を演じる松坂桃李。3年の間に、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞し、大きな成長を遂げた松坂は、本作でさらなる進化を遂げる。2020年9月29日から11月8日まで35日間に及んだ撮影で彼が見せた、役者としての魅力、そして俳優として戦い続けた姿を伝えたい。(取材・文:森田真帆)
3年ぶりに帰ってきた『孤狼の血』で見せた笑顔
前作『孤狼の血』(2018)は、2016年広島県呉市でクランクインした。その頃の日本はまだ、コロナというウイルスなどもちろんなく、これほどまでの試練を誰も想像していなかったはずだ。俳優たちも顔を突き合わせながら怒号を飛ばしあい、撮影現場には異様な熱気が流れていた。第1作で松坂が演じた日岡は、広島大学を卒業したエリート刑事。役所広司が演じるベテラン・大上の横暴なやり方に動揺するようなピュアな男だった。だが、大上亡き後3年が経った日岡は、当時の雰囲気からまるで変わった風貌で登場する。髭を生やし、色付きのメガネをかけた姿。この変貌について、松坂と白石監督はイン前から話し合い、松坂は孤独な“飢え”を表現するために減量を行った。暴力組織からも警察権力からも追い詰められ、目をむきながら自分の正義を貫こうとする日岡のエネルギーはとてつもない。大上を殺されたことへの復讐心はセリフでの説明など必要もなく、全編を通して伝わってくるはずだ。
鈴木亮平率いる上林組と、孤独な狼・日岡
『孤狼の血LEVEL2』 について、本作が柚月裕子の原作「孤狼の血」の続編「凶犬の眼」の映画化だと思っている人は少なくないかもしれない。だが、本作は脚本家・池上純哉による完全オリジナルのストーリーだ。大上亡き後、日岡がどのような刑事になり、そして暴力組織とどのように対峙していったのかを描きつつ、映画でしか描けないエンターテインメント性をふんだんに盛り込んだ、アクション満載の作品となった。全く新しい日岡の物語だからこそ、松坂の肩には、「続編」のプレッシャーだけではなく、主演として、そして役所広司から継いだ座長としての覚悟と重圧がのしかかっていたはずだ。それでも現場での松坂は、終始、スタッフや共演者への思いやりを忘れず、柔和な姿を見せる一方、ただただ真剣に、切実に日岡という役柄を演じ続けた。
スケジュールの都合により撮影6日目、本隊に遅れて合流した松坂だったが、白石監督はこの空白こそが、松坂と鈴木亮平演じる上林組組長に最高の化学反応を起こさせたと後に話した。松坂不在の6日間で撮影されたのは、上林組が大暴れする一連のシーンが中心で、数日の間にすっかり上林組が現場を掌握していた。また広島ロケということもあって日々上林組キャストたちの結束も固まり、鈴木は舎弟を演じる若手俳優たちと共に松坂を万全の体制で迎え撃った。孤独な戦いに足を踏み入れた松坂が、上林組の気迫とぶつかったのが、中村梅雀演じる瀬島とともに、日岡が上林組の事務所に聞き込みに行くシーンだ。鈴木演じる上林は「待ってました」とばかりに日岡を迎え、気合十分に現場入りした松岡演じる日岡もまた不敵な笑いで彼らに挑戦する。スクリーンにみなぎる異様な緊張感は、役者同士がぶつかりあった最初の緊張感でもあったのだ。
前作を凌駕するアクションシーン
前作では、広島大学空手部という輝かしい日岡の経歴をあまり目にすることができなかったが、本作では日岡の身体的な強さをわたしたちは目撃する。松坂が現場入りして1週間後、撮影14日目に撮影されたのは、10メートルはあるであろうビルからガラスを突き破って、パトカーのルーフに落下するシーンだ。何度かに分けて撮影されたそのシーンは、まず松坂がガラスを突き破って飛び出すシーンを建物3階の室内から撮影。ワイヤーを体につけ、そのまま窓から飛び出すシーン。その後、撮影隊は建物外に移動してパトランプを外したルーフに落下する松坂を撮る。
この撮影も相当に壮絶で、命綱を巻いた松坂の体をアクション部の人間たちが数名で引っ張り上げて、「1、2の3!」という号令とともに綱を緩めてルーフに向けて叩きつけるのだ。実際、パトカーの上にクッションなどないわけで、松坂の体は何度もルーフに叩きつけられた。現場には、「ドーン!」という鈍い音が響き、その衝撃の大きさが伝わってくる。それでも松坂は、「痛い」とも弱音一つ吐くことなく何度も繰り返した。このシーンはのちに日岡と上林の宿命的な対決へと続くが、最後の「カット!」がかかるころには松坂の目は血走り、行先に待ち受ける「悪魔」上林へと向かっていったのだった。
3日にわたる宿命の対決シーン
日岡と上林の命を懸けた対決シーンは、クランクアップが目前に迫った撮影28日目に撮影された。呉市・広町にある港湾地帯の現場で、連日のナイターとなったこのシーンは、2人の男が激しい戦いを繰り広げ、撮影が始まる前からスタッフたちには並々ならぬ緊張感が漂っていた。そんな緊張感がありながらも、常に和やかでいい雰囲気に包まれているのが白石組の魅力だ。白石監督は、まるで少年のように目を輝かせながら「さあー、いよいよですね!」と笑みを浮かべ、松坂と鈴木の対決を心待ちにしていた。冷え込む夜の撮影となるため、呉市内で購入したという真っ白なフリースを見せながら「今日はこの真っ白なフリースを返り血で血だらけにして帰りますよ!」と気合い十分だった。
一方、撮影の声がかかるときを待つ松坂と鈴木は、アクションの動きを繰り返し確認する。感情を乗せた芝居を一度始めれば、動きのことを一つずつ考える余裕などなくなる。だからこそ、アクションはスタートがかかった時に頭に入っていなければ、体が勝手に動くところまでひたすら練習が重ねられていく。それでも、横に吠え、殴り合い、体同士でぶつかり合い、血で血を洗う戦いの激しさは、繰り返し観たいと思うほど、燃え盛る炎よりも熱いシーンへと昇華させた。こうしてコロナ禍での撮影を白石監督、スタッフたち、共演者たちとともに駆け抜けた松坂は嬉しそうな笑顔でクランクアップを迎えた。