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 東京オリンピックのメダルラッシュに湧くなかで、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。

【写真】高齢者夫婦どちらかが感染したら……イラストで解説!

 感染力の高い「デルタ株」が広がり、新規感染者数は凄まじい勢いで増え続け、第5波が押し寄せてきている。

 政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は4日、東京都の新型コロナ感染症の新規感染者数が1日1万人を超える可能性について「最悪の場合にはそういうこともありえる」と明かした。

 政府も感染が拡大している地域での入院の基準、方針を変更。入院は中等症以上で重症化するリスクが高い人などに限られ、軽症や無症状の患者は自宅療養を基本とする方針を示したのだ。

自宅療養ってどうするの?

 だが、自宅療養は急変した時に手遅れになるリスクが非常に高いことは再三、指摘されており、政府の決定に強い反発の声が上がっている。

 現実的に感染者が増え続けているため病床数は逼迫し、医療従事者の疲労も色濃くなっていく。今年4月末、大阪府では確保していた病床数をはるかに超えた1万5000人以上が入院。受け入れ先が見つからず、救急車の中で47時間以上も待機させられた人やホテル療養の受け入れ先も足りない状況に陥った。同じ状況が東京都や全国で8月中に起こりうることも懸念される。

 感染症の専門家、岡田晴恵さんは「今後はほとんどの国民が自宅療養となります」と事態を重く受け止める。

 だが、感染し発症、『自宅療養』と告げられてもどうしていいかわからない人は少なくないのではないか。

 前出の岡田さんは、「感染する前に、必要なものを備えておくことが大切です。もう誰がいつ、どこで感染するかわかりません」と呼びかける。

 そこで週刊女性では岡田さんの著書『新型コロナ 自宅療養完全マニュアル』(8月31日まで無料公開中)をもとに『自宅療養』について取り上げた記事(3月2・9日号、5月11・18日号)を再構成。命を守るために必要なモノ・コトについて改めて触れていく。

必要なものを家族で話し合い

 まず、記事の最後にある『絶対にそろえたい物リスト』 参考に、家族で話し合い準備すること。

 食料品や日用品は感染時だけでなく、不要不急の外出をしないためにも役に立つ。

 常温で保存でき、日持ちする根菜類やフリーズドライを準備。野菜、肉類、魚で冷凍できるものは小分けにしておこう。冷凍庫が大きければ業務用の食材をまとめて購入しておくのもおすすめだ。

「インスタントのみそ汁や粉末状のスープなどは宿泊療養先でも重宝するので、備蓄に入れておくといいでしょう」(岡田さん、以下同)

 これらは新型コロナだけでなく、地震や台風などの災害時でも活用できる。この機会に備えておいても損はない。

看病するときの準備

 次に看病をする際の準備もしておこう。

「看護する側のために、飛沫を防ぐマスクとゴーグル(もしくはめがね)を必ず用意しておくこと。アルコール除菌液や石けん、洗剤もストックし、家庭内での二次感染防止を徹底させましょう。体温計や体内の酸素飽和度を測るパルスオキシメーターもあるといいです」

 普段から服用している薬のほか、市販の風邪薬などの常備薬も用意しておく。

 どれを飲んだらいいのかは薬局で薬剤師に相談を。ただし、市販薬はあくまでも代用案。原則は政府や厚労省などの指針に従うように。

 「風邪薬は新型コロナの治療が目的ではなく、風邪の症状をおさえて体力の消耗を和らげるためのもの。睡眠も確保できて回復につながります」

 解熱剤はアセトアミノフェンの成分が配合された総合風邪薬がベター。薬剤師によく相談してから購入しよう。

 そしてかかりつけ医に、万が一感染したときのことを相談しておくこと。連休中やお盆の対応についても聞いておくことが大事。

 また、高い熱が続くと、脱水症状になりやすいため、こまめな水分補給も必要になる。経口補水液や粉末タイプのスポーツ飲料も準備。

同居する家族が感染したら

自分や同居する家族が感染した場合の看病について話し合っておくことも大切。誰が看病するか、あらかじめ決めておいてもいいだろう。

「感染拡大防止のため、看病する人は1人に限定しましょう。看病者は感染しやすいので、重症化リスクが高い妊婦や高齢者、基礎疾患のある人は避けます」

 必ずメガネ、マスク、手袋、防護服代わりのビニールのカッパを用意。これらを着用し、看病にあたることが鉄則だ。

 看病をせず、症状が出ていない家族もウイルスを広げる可能性があるので外出は控える。

「感染者とそのほかの家族で住居スペースを分けましょう。部屋を分けるのが難しければ、感染者と2メートル以上の距離を保って生活してください。仕切りやカーテンを設置して直接、飛沫を浴びないように工夫をすること。そしてよく換気をしましょう」

 どうしても同じ部屋で寝なければならない場合には頭の位置を互い違いにするなどして、なるべく顔が向き合わないように注意を。

 風呂は常時換気をし、感染者は最後に入浴すること。洗面所やトイレは使った後は速やかに家庭用洗剤で清掃し、こまめな消毒も忘れずに。

 感染者が使用したマスクや鼻水をかんだティッシュなどにはウイルスが付着している。

「ゴミの捨て方は“袋は二重にする”“ゴミに直接、触れない”“袋はしっかり縛って封をする”“捨てた後は速やかに石けんで手を洗う”。この4つを心がけてください」

 これらを守ることで、ゴミを扱う清掃業者や近隣住民らの感染防止にもなるのだ。

 感染者が着用していた衣類やシーツ、枕などにも咳などでウイルスが付着している場合がある。そのため、1日1回は洗濯をしよう。ほかの家族のものと一緒に洗濯してもいいが、洗濯を行う人はマスクとゴーグル、手袋をつけて、感染防止に気をつけよう。

 汚れた衣類やリネンは80度以上の熱湯で10分間消毒し、洗濯するとなおよい。洗濯物は屋外に干してもOKだ。

「看病者の衣類にも、ウイルスが付着している可能性があります。必ず洗濯し、手も石けんでよく洗ってください」

 そして棚やリモコン、ドアノブなど感染者と看病者が触れたものは、必ずすべてこまめに消毒。家庭内感染を防ぐ大切なポイントだ。

 過去には高齢者で基礎疾患がある人でも自宅療養になったケースがあった。そのため、重症化リスクの高い高齢夫婦世帯の場合であっても入院できない想定をしておくことも必要だ。

経過観察をして急変を見逃さない

 気になるのは、自宅療養中の救急車を呼ぶタイミングだ。

 これまでは感染者の2割が発症後7日〜10日くらいで肺炎が重くなるとされていた。だが感染が広がっているデルタ株の場合、重症化までの期間が短くなるとも言われている。

 血管内に血栓ができ、心筋梗塞や脳梗塞などを併発する症状も報告されているため、経過観察も欠かせない。

「経過記録表を必ずつけること。体温はもちろん“いつ、どんな症状が出ていたのか”を記録して正確な情報を残しましょう。救急搬送や入院となったときに、医療従事者が状況をすぐに把握できるため、あると便利です」

 記入は朝、昼、夜の1日3回。食事をどれくらいとれたかも、重要な記録になるので忘れずに。

 特に『ショック状態』は絶対に見逃さないように。これは血圧が低下し、血液が全身に行き渡らなくなるため、生命の危機に瀕する。次の5つのいずれか1つでも見られたらすぐに救急車を呼ぶ。

(1)顔色が青白い
(2)呼吸が浅くて速い
(3)脈拍が弱くて速い
(4)皮膚が冷たく湿っている
(5)ぐったりしている。

「こうした状況を見逃さないためにも注意深くフォローすることが大切です」

 救急車を呼ぶときは、救急隊員に落ち着いてはっきりと簡潔に状況を伝えたい。

「自宅療養中に急変・悪化した場合、どのような対応をとったらいいのか。自治体で取り決めがありますから、事前にその流れも確認しておきましょう。重症化リスクのある人は、軽微な熱や咳でも早めにかかりつけ医師の指示を仰ぐことが肝心です」

 収束の見えない現状でも、いざというときでも落ち着いて行動できるよう、事前の準備を心がけたい。

「オリンピックも行われ、積み重なってきたストレスから外出したくなる気持ちもわかります。ですがここが堪えどきです」

 そう岡田さんは訴える。来週にはお盆を控え、帰省や行楽を予定している人は少なくないだろう。だが、感染拡大を防ぐには今しかないのだ。命を守り、「復活の日」を迎えるためにはひとりひとりの行動がカギとなる。

絶対にそろえたいものリスト

*のものは入院やホテル療養時にも役に立つ

<日用品>

□ティッシュペーパーやトイレットペーパー*
□せっけん、ハンドソープ、洗濯洗剤など
□アルコール除菌スプレーや除菌シート*
□塩素系漂白剤
□使い捨てマスク(1人につき1日2枚は消費)
□使い捨てビニール手袋(1日4枚は消費)
□ビニールのレインコート
□各種サイズのビニール袋(ゴミ袋サイズ、コンビニ袋サイズなど)
□ゴーグル(もしくはメガネ)

<食料品(最低でも2週間分)>

□主食(お米やおかゆ、シリアルなどの食べやすいもの)
□冷凍やフリーズドライ、根菜類など日持ちする野菜類
□菓子類(特にチョコレートやビスケットなど)*
□ゼリー状栄養補助食品*
□レトルト食品・インスタント食品・缶詰(果物など)*
□冷凍食品(冷凍の肉や電子レンジで調理できるうどんなどもあると便利)
□経口補水液
□スポーツ飲料(粉末状のもの含め)

<薬剤など>

□総合風邪薬*
□解熱剤*
□胃薬
□水まくら・冷却ジェルシート*
□うがい薬
□常備薬

<その他>

□体温計(予備含め2本あるといい)*
□飲料水
□多少の現金*
□パルスオキシメーター
□下着やパジャマ*
□タオル(バスタオル・フェイスタオル)*
□シーツ
□かかりつけ医の連絡先や緊急連絡先など記したメモ*

<入院時にすぐに持って出られるようにひとつの袋にまとめる>

□保険証と身分証
□携帯電話とその充電器
□コップ
□暑さ・寒さを調整できる衣類(ひざかけなど)
□基礎化粧品(化粧水やリップ)・爪切り
□メガネ
□補聴器(替えの電池も)
□スリッパ
□ピンチハンガー

<参考>
●「顔色が悪い」状態って?
(1)顔色、手足、唇、爪などの色が青黒い
 →呼吸不全、心臓の異常など。酸素不足で唇が青紫色に変わる場合がある。

(2)顔色や全身の皮膚が白い。皮膚が冷たくなっている
 →心臓のポンプ機能が低下している可能性がある。

(3)顔色や全身の皮膚の色が赤みを帯びている
 →高血圧、熱中症など。新型コロナの発熱で赤みを帯びることもある。

●「ショック」症状って?
 血圧が低下し、血液が全身に行きわたらず生命の危険がある状態のこと。
・顔色が青白い 
・呼吸が浅くて速い 
・脈拍が弱くて速い 
・皮膚が冷たく湿っている
・ぐったりしている

●パルスオキシメーターの見方
・正常値96〜99%
・軽症96%以下
・中等症1(呼吸不全なし)96〜93%
・中等症2(呼吸不全あり)93%以下

※重症度を分ける基準は主に「酸素飽和度」。政府の方針を受けて、東京都では「中等症以上」などとしている入院の基準をより厳しくすることなども視野に見直しを検討しており、専門家の意見も踏まえて具体的に決めていくことにしている。

 現在の基準は「発熱や呼吸などの症状が中等症以上」は入院させることになっている。

 具体例としては38度以上の発熱、血液中の飽和酸素度が96%未満といった症状や所見があるケースは入院とされている。東京都ではこの入院基準について、血液中の酸素飽和度の目安を下げてより厳しくする案なども視野に検討している。今後は都の専門家からの意見も踏まえて具体的に決めていくことにしている。

参考にしたのは……『新型コロナ自宅療養完全マニュアル』1320円(税込み)
新型コロナの基礎知識から、感染して自宅療養をせざるをえない場合の対応や心構えなどを完全網羅。(実業之日本社刊)

2021年8月31日まで無料公開
※感染状況によっては延長する場合もあり 
公開URL https://bit.ly/3rSlmSu

お話を聞いたのは……●岡田晴恵さん●感染症の専門家、白鴎大学教育学部教授。医学博士。専門は感染免疫学、公衆衛生学。主な著書に『どうする!?新型コロナ』(岩波書店)などがある。また、テレビ出演や講演も多数