住宅ローン審査では思わぬことが落とし穴になります(写真:HM/PIXTA)

住宅は、多くの人にとって一生に一度の大きな買い物です。数千万円単位の購入金額をすべて現金で用意できる人は住宅購入者のうち1割未満。ほとんどの人がローンを組んで購入することになります。

とはいえ、誰でも住宅ローンを組めるわけではなく、「審査」の関門に通らないと借りられません。この審査、年収や貯金額で返済能力が見られると思っていたら「意外な理由」で落ちることも。『すみません、2DKってなんですか?』の著者で住宅ジャーナリストの日下部理絵氏が、ローン審査の裏側を解説します。

原則非公開の審査

そもそも住宅ローンとは、「住宅の購入者に代わって、金融機関がデベロッパーやハウスメーカーなどの売り主に購入費用を立て替える」仕組みの借金です。借金なので、返すときは毎月利息を上乗せします。この利息が銀行の儲け。返してもらえる限り、住宅ローン事業は銀行にとってメリットのある商売となります。

しかし、「お金が返ってこない」となると一転して数千万円単位の損失を銀行は抱えることになります。それを未然に防ぐため、「この人に貸しても大丈夫か」を調べるのが審査です。お金を返してもらえない金融事故を防ぐために、さまざまな角度から「信用できる人か否か」をチェックするわけです。

審査基準は原則非公開で、金融機関によって異なりますが、ほとんどの金融機関で共通して見るポイントがあります。それは次のとおり。

・借入時の年齢、完済時の年齢
・年収、手持ちの資産
・勤務先の業種や規模
・勤続年数
・ほかの借り入れの有無 など

年収や保有資産で「返済能力があるか」を見られるのは当然として、「勤続年数」「ほかの借り入れの有無」も審査では確認されます。実はこれが「隠れ審査ポイント」で、思わぬ形でローン審査の足を引っ張ることがあります。

銀行がお金を貸したい人、それは「組織に所属していて、安定した職・収入がある」いわゆる「手堅く、落ち着いた人」です。

ゆえに危険なのが「転職して間もない人」。向いていない・合わないといった理由で突然辞めるリスクがないとは言い切れません。銀行が貸したい「安定した人」とは言えないわけです。

そのため、転職して間もない人は、「まだ会社に定着しきっていない=安定性に欠ける」と判断されて審査が通らないことがあります。

では、勤続何年で定着したと見なされるかというと、基準は「勤続3年以上かどうか」。

「勤続3年以内」だと、「会社にまだ定着しきっていない」と判断されることがあります。もしも住宅の購入を考えていて転職の可能性がある人は、住宅を買ってから転職をするほうが審査においては安全といえます。

ところで、「勤続3年」で会社に定着と見なすのは、少し早急に思えるかもしれません。ここに絡むのが、「年齢」の問題です。

「勤続20年以上で会社に貢献」といったレベルを求めると、必然的に借り主の年齢は高くなります。しかし、年齢を重ねすぎると、それはそれでローン事故のリスクが高くなることに。

多くの金融機関ではローンが申し込める年齢を20歳から70歳まで、完済時は最高80歳までと上限を定めています。これは、年を取ってから借りると、返済期間が短くなり、1カ月当たりの返済金額が大きく膨らむため。しかし、年を取ってから毎月多額の返済を続けるのは至難の業。そのため、勤続年数のハードルを「3年」としているのです。

ただし、勤続年数の最低ラインは金融機関によって異なり、「勤続半年以上」や「1年以上」など幅があるので、1年未満で通る人もいれば、2年経ったのに審査に落ちる人もいます。「A銀行は落ちたけど、B銀行は通った」という人も珍しくありません。

思わぬものが「借金」扱いに

「返済負担率」という指標も審査では重視されます。これは「年収に占める全ローンの年間返済額の割合」で、「住宅ローン以外に借金はありますか? あれば、住宅ローンを組んだ場合、借金の返済総額はどれくらいになりますか?」を金融機関はチェックします。

多くの金融機関で、返済負担率の上限は30〜35%以内、理想は20〜25%以内とされています。

年収500万円で、住宅ローンの返済額が年間150万円の世帯を想定しましょう。もしほかの借金で年間50万円の返済があれば、年間返済総額は200万円で返済負担率は40%。返済負担率の上限を超えるので、この場合は審査に通る可能性が低くなります。

ここで、「借金はしていないから大丈夫」と安心した人も気をつけてください。思わぬものが「借金」としてカウントされ、返済負担率の足が出る可能性があります。

返済負担率で引っかかる人で多いのが、「車をローンで購入していた」ケースです。

現金で買うかローンを完済できていれば問題ないのですが、もし返済中であれば、住宅ローンの返済負担率に影響します。

また、「スマホ」の本体を分割で購入した場合も、返済負担率に加味されることがあります。借金という感覚はあまりないかもしれませんが、住宅ローン審査では借入金と見なされることがあるので注意が必要です。


(出所)『すみません、2DKってなんですか?』(サンマーク出版)

「クレジットカード」が借金にカウントされることも

また、クレジットカードについた「キャッシング」や「カードローン機能」も、隠れ査定ポイント。お金を実際には借りていなくても、「借りられる限度額」が全額借入金と見なされることがあるのです。

理由は、利用者がその気になればいつでも現金化できるから。「借金できる金額=借入金」と見なされ、返済負担率がはじき出されるのです。

クレジットカードによっては自動的にキャッシング枠がついているものもあるので、ローン申し込み前にぜひ一度確認することをお勧めします。利用していない場合、ローン審査のハードルを無駄に上げないためにもキャッシング枠を解約するのが望ましいでしょう。


ちなみに、実際に借り入れを受けていた場合、「どこから借金していたか」も重視されます。「消費者金融系」の借り入れがあると、審査時に非常に不利になるので注意してください。

銀行はこれらの情報を「信用情報機関」に問い合わせて把握します。この機関は、借金の有無のほか、公共料金や携帯電話料金の支払い履歴といった細かな情報も保管しています。

これらの料金支払いの滞納もマイナスポイント。「滞納癖があるなら、住宅ローンも滞納するのでは」と思われかねません。

「振り込むのを忘れていた」レベルの話も、滞納は滞納です。ローン審査で「しなくていい損」をせずに済むためにも、「新たにローンは組まない」「料金の支払いは期日通り行う」といった住宅ローン申し込み前の行動を意識するのが、スムーズな住宅購入の1歩といえるでしょう。