ミニコンポも今は昔、オンキヨーが事業を売却 もはやサブスク時代に抗えず......
音楽を据え置き型スピーカーで聴くスタイルが主流だった「昭和」の時代には、「ビクター」「パイオニア」「ケンウッド」「アイワ」といった日本の音響・映像(AV)機器ブランドは輝いていた。だが、21世紀に入って急速に進んだ音楽のデジタル化への対応に遅れたメーカーが相次いで失速した。
そんななか、高性能なスピーカーでブランドを確立していた「オンキヨー」も、ついに主力のAV事業の売却を決めるに至った。
オーディオ関連市場は20年で大きく縮小
オンキヨーホームエンターテイメントがAV事業を売却する先は、シャープと米音響機器メーカーのヴォックス。「オンキヨー」のブランドを維持しながら、生産をシャープが担い、ヴォックスが販売する。売却額は33億円で、シャープとヴォックスが設立する合弁会社に2021年7月1日付で譲渡される予定だ。
オンキヨーは1946年、松下電器産業(現・パナソニック)を退職した五代武氏が高性能な国産スピーカーを作ろうと創業した「大阪電気音響社」がルーツ。高級スピーカーには定評があるほか、1980年代にはプレーヤーやチューナー、アンプ、スピーカーをコンパクトに組み合わせた「ミニコンポ」が若者の心をつかんだ。
この当時もウォークマンのような機器で音楽を聴くこともあったが、そこで聞くカセットテープやミニディスクは自宅のミニコンポなどを使って好みの曲を録音したものが主流だった。
ところが、2001年に米アップルが初代を発売した携帯音楽プレーヤー「iPod」の登場で、パソコンを使ってインターネットから音楽を手に入れて、持ち運ぶ時代が到来した。さらにスマートフォンの普及で、データ通信量の定額料金が始まると、音楽データを入手して、聴くという流れがスマホで完結するようになった。多くの人にとって音質の違いはさほど関係なく、オーディオ関連市場はこの20年間で大幅に縮小してしまった。
そこで、オンキヨーは2015年、パイオニアのAV事業を買収して規模の拡大による生き残りを目指したが、市場の縮小にはあらがえなかった。
ソニーと明暗を分けたのは......
オンキョーの2021年3月期連結決算は88億円の売上高に対して58億円の最終赤字に落ち込み、2年連続の債務超過に。東京証券取引所の規定により、ジャスダック上場のオンキヨーホームエンターテイメントは7月末ごろに上場廃止となる。祖業の売却を「止血策」にして、これで得た資金でテレビ向けや自動車向けのスピーカーを他社ブランドで製造・供給する事業に注力するとみられる。
同じAV機器メーカーでは、北米向け液晶テレビを主力とする船井電機が、出版事業を手掛ける秀和システムホールディングスの傘下に入ることが決まった。株式公開買い付け(TOB)が成立したためで、船井電機の創業者の長男で、筆頭株主の船井哲雄氏が秀和システム側に持ちかけたと報じられている。
液晶テレビは販売価格が下落傾向だが、外部から仕入れる液晶パネルの価格は上昇しており、経営状態が悪化。上場を廃止して新たな経営体制で立て直しを図ろうとしている。
ウォークマンを世に送り出したソニーグループは、音楽や映像、ゲームを事業に取り込み、もはや「メーカー」という枠組みでは語れなくなっている。ソニーの好業績と対照的に、かつて一世を風靡したAVメーカーの凋落は、機器を製造するだけでは生き残れなくなった厳しい実態を示していると言えよう。(ジャーナリスト 済田経夫)