「クルマ持ち逃げ」被害多発! GT-Rを勝手に600万円で売却   個人間貸出からネット掲示板に盗難出品の実態とは

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個人間カーシェアで貸したクルマが知らない間に売却されていた?

 個人間カーシェアリングサービスを介した「乗り逃げしたクルマを勝手に売却する」事件が2021年に入ってから未遂を含めて急増しています。
 
 今までにない斬新で巧妙な手口とは、どのようなものなのでしょうか。

愛車の日産「GT-R」が勝手に600万円で売却された被害者のA氏(撮影:加藤博人)

 個人間カーシェアリングサービス最大手のAnyca(エニカ)で「クルマ持ち逃げ事件」が起こりました。

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 筆者(加藤久美子)の取材に協力いただいたのは都内に住むA氏とB氏の2人です。A氏は日産「GT-R」、B氏はメルセデス・ベンツ「Gクラス」をエニカで貸し出した際に事件に巻き込まれたといいます。

 Aさん、Bさん2人の事件に共通する手口は「エニカでクルマを受け取る前にすでに買い手が決まっていた」ということです。

 クルマを受け取る前に、エニカに登録されたクルマの情報(写真や車名など)を元に地域情報サービス「ジモティー」の中古車販売コーナーに出品。

 買い手が決まってからエニカでクルマを予約し、買い手に引き渡す日に合わせてオーナーからクルマを借りるというこれまでにない新しい手口となります。

 では、A氏とB氏はどのような経緯で事件に巻き込まれたのでしょうか。

 ●A氏の場合「GT-R(24時間3万5000円)」

 エニカで予約したドライバーにクルマを貸し出したあと、A氏が知らないところで別の人物に乗り換えられて、関東地方の中古車店(事前に地域掲示板『ジモティー』の中古車販売コーナーにて商談成立)に直行。

 中古車店に向かう間にGT-Rから車検証を探し出してコピーし免許証と委任状を偽造。

 その後、中古車店にクルマを持ち込んで600万円を受け取り、「譲渡証明書と印鑑証明はのちほど届ける」といわれた中古車店は「個人売買ではよくあること」と思って待っていたが連絡なしだったようです。

 そのため、車内にあった書類からA氏の連絡先を知って電話をしたところ、エニカで貸し出し中であることが分かったといいます。

 ●B氏の場合「メルセデス・ベンツGクラス(24時間5万円)」

 エニカ経由でクルマをドライバーに渡した後、そのドライバーは犯人グループのリーダー役から「赤坂にクルマを置いて葛西の会社で研修を受けるよう」指示されます。

 行政書士(偽物)を名乗る別の男がクルマを受け取って、九州からクルマを買いに来た家族に現金と引き換えに引き渡します。(こちらも事前にジモティーで商談成立)

 しかし、受け渡しをしているところで、家族が怪しさに気づいて通報。偽行政書士は逃走し、横領は未遂に終わったようです。

※ ※ ※

 エニカに限らずドコモのDカーシェア(2021年8月末でサービス終了)などの個人間カーシェアでは、これまで大々的に報道されたケースも含めて、シェア中のクルマを持ち逃げして売却する事件が発生してきました。

 その多くは、「クルマを受け取ったあとにネットオークションなどに出品して売却」という方法で換金をしていました。

 しかし、A氏やB氏などのケースでは「クルマを受け取る前にオーナーが知らないところで勝手に個人売買サイトなどに出品し実際にクルマをシェアする前に商談を成立させている」ところが新しい手口といえます。

 事前にクルマの買い手を決めていることで、クルマ受け取りから現金化までが(免許証偽造などの時間を含めて)2時間から3時間で完了するため、事件が発覚しづらいといえます。

個人間カーシェア利用者50万人が気を付けることは?

 エニカなど個人間カーシェアの利用者は合計で約50万人(オーナー+ドライバーの合計)といわれ、年々増加傾向にあります。

 筆者もエニカのドライバー登録をしていますが、登録の際には24時間以上の時間をかけた厳重な審査があり、レンタカーのように免許証やクレジットカードなどを提示すれば誰もが簡単にクルマを借りられるわけではありません。

 今回、個人間カーシェアでクルマ持ち逃げ(未遂含む)されたオーナー6名や、犯罪に加担してしまった「借り子」「受け子」のドライバーにも取材をすることができました。

 取材に協力いただいたオーナーやドライバーが考える「気を付けるべきこと」とは、どのようなものなのでしょうか。

 ●オーナーが気を付けること

 ・利用登録して日が浅い。レビュー評価は「新規」または「評価5以下」
 ・短期間で1000万円以上の高級車ばかり借りている(事前調査と評価獲得が目的)
 ・問い合わせのDMで走行距離やオプション装備、購入時期などを聞いてくる。(ジモティーなどに出品する際の情報として記載するため)
 ・ドラレコの有無を確認する。(とくに、「車内にドラレコがついているか?」を聞いてきたら危険)
 ・1回目借りたあと10日から2週間で2回目を借りる。(1回目でオークションなどに出すための写真撮影、車検証の情報を取得し免許証などを偽造)
 ・車検証をクルマに「積んでいるか?どこにあるか?」など聞いてくる。
 ・問い合わせしてくるドライバーと実際に予約をしてクルマを借りるドライバーを別に設定している場合も多々ある。
 ・不審な問い合わせのあと数日以内に不審なドライバーからの予約が入ったらかなり怪しい。
 ・エニカで問い合わせをしたあと、「あなたに2倍のシェア料金を支払うからエニカを通さず貸してほしい」と依頼してくる。
 ・利用希望日が直前(1、2日前)である場合が多い。
 ・シェア中に、日程の延長を要望してくる。

メルセデス・ベンツ「Gクラス」で被害にあったB氏が見せてくれた「犯人グループのドラレコ映像」(撮影:加藤博人)

 ●知らずに犯罪に加担している可能性

 ・Twitterなどで募集されている「高額報酬ドライバー」に注意。
 ・報酬は1日3万円から7万円。「カーシェア利用調査を目的としたアルバイトです。こちらが指定したクルマのオーナーからクルマを借りて指定場所に運んでください」などを業務内容として募集。
 ・指示役との連絡はLINEやTwitterのDMではなく、「Telegram(テレグラム)」や「wickr(ウィッカー)」など「犯罪者御用達」ともいわれる秘匿性の高いチャットアプリを使うよう指示される。
 ・オーナーへの問い合わせメールは定型文をアレンジして使うよう指示。
 ・クルマを受け取ってすぐに「車検証の写真を撮って送ってください」といわれたら詐欺に加担している可能性が高い。
 ・クルマを指定の駐車場に駐めて電車で移動するよう指示される。(その後、もうドライバーは用済み。報酬も払われず、指示役との連絡も遮断される。最悪、クルマの代金数百万円を支払う羽目になる)。

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 なお、エニカ事務局は2021年6月5日にアプリを通じて登録オーナーに対して車検証の扱いについて注意喚起をおこないました。

 しかし、犯行グループが免許証偽造などのために抜き取る情報は車検証以外からも入手が可能です。

 オーナーができる自衛策として、車検証(原本でもコピーでも)をはじめ、オーナーの住所や本名、車台番号がわかる書類(車検証、自賠責保険証書、整備記録簿、ETC車載器に関する書類など)は分かりやすい場所に置かないことをお勧めします。