自粛生活で体はどんどんなまっていくけど、運動はちょっと苦手。コロナ禍での運動不足により健康不安を抱えた人も多いと言います。ここまで長引くと「そろそろ運動を!」と一念発起する人もいるのでは? たくさんの著書がある人気フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんに、運動に慣れていない人への取り組み方や注意点を伺いました。


そろそろ運動しなくちゃ…と思ったら、何から始めますか?(※写真はイメージです。以下同)

運動不足だからそろそろやろう…。挫折しないために知っておきたいこと



手っ取り早く始められるのが、ウォーキングやランニングといった外でおこなう運動です。ただ、最初こそ気合いが入るものの、「疲れて継続ができない」「無理をしたら膝が痛くなってしまった」なんて声も聞きます。初心者が始めやすく、続けやすい運動のコツを教えてもらいました。

●ウォーキングやランニング、効率を高めるには?



――さあ、これから運動習慣を身につけよう! そんな気合いを胸に運動をスタートさせても、思うように体が動かなかったり、どのくらいがんばれば効果が出るのか迷ったりしながら取り組む方もいるようです。今まで運動する習慣のなかった人が、ウォーキングやランニングなどを始める際、効果を高めるためにできることを教えてください。

中野さん:運動をより効果的におこなうためのポイントは3つあります。1つは、ちょっと息が弾むくらいの負荷で運動をすることです。ウォーキングなら、会話をするのが苦しい程度のペースで歩きましょう。

2つめは、ウォーキングやランニングのコースに、歩道橋や地下道といったアップダウンを加え、足に負荷をかけることです。階段の上り
は、日常動作のなかでも筋肉量が増える動きです。ウォーキングの場合、平坦な場所では筋肉量を増やすには負荷がやや足りませんので、アップダウンをつけたコース設定をしてみてください。

3つめは、息が弾む程度を心がけながら、キビキビとしたスピード感で歩くことです。できる人は、歩くのと走るのを交互におこなうインターバルウォーキングもおすすめです。歩くのと走るのを交互におこなう運動は、ランニングと消費カロリーがあまり変わりません。運動を始めたばかりの方にとって、ずっと走るのはつらいと思うので、適度なところで歩きを取り入れたメリハリのある運動をおこなってみてはいかがでしょう。

――運動時には、プロテインなどサプリメントを摂った方が体づくりにプラスであるといった知識も広く知られています。運動時の栄養バランスについて、注意点はありますか?

中野さん:まず、水分補給は必ずしっかりとおこなってください。サプリメントは、通常、バランスのよい食事を摂っていれば、あえて取り入れる必要はありません。ただ、筋肉は運動をしたあとにタンパク質がたりないと効率よくつくられませんので、これからお伝えする目安を加味して、たりないと思ったらプロテインやアミノ酸パウダーを取り入れてみると有効です。

タンパク質は体重1kgに対して1g程度、60kgなら毎日60g程度が目安量です。含有量の目安ですが、和定食でタンパク質は1食約20g、牛乳コップ1杯や卵1個で約6gと言われています。普段の食生活でタンパク質がどの程度摂れているかを振り返り、補助の役割でプロテインを摂っていくのはよいでしょう。ただし、プロテインさえ摂っていれば筋肉ができるといった、過剰な期待は禁物です。

●走って膝が痛くなってしまったら?




――運動を始めると、足腰を痛めてしまう方も年齢が上がるにつれて増えるように思います。初心者が運動を始める際の注意点についても、教えてください。

中野さん:ウォーキングやランニングに関していえば、特別なフォームはありません。膝が痛くなるといった悩みを感じている方は、膝に対して今の運動強度が高すぎる可能性があります。その場合、運動時間を短くするなどして体を慣らしていったほうがいいでしょう。ただし、極端なX脚やO脚の方は足が痛くなりやすい特徴がありますので、その場合は医療機関を受診してください。

――最近ではYouTubeを観ながら自宅でエクササイズを始める方もいますよね。こういった運動の注意点はありますか?

中野さん:YouTube動画での運動は気軽にできてとてもよいと思うのですが、その反面、発信する方が運動指導の専門家ではない場合、マネして同じ動きをするのはおすすめできません。
よくあるのが、モデルさんやタレントさん、ダンサーなどが伝えるワークアウトです。体の構造や可動を踏まえると、角度がずれていたり同じ動きを繰り返しすぎていたりする場合もあり、万人に提供するプログラムとしてはとても危険に感じるものもあります。

――動画での運動は危険もあるということでしょうか。

中野さん:そうですね。40代以降は若いときより体も壊れやすくなっていますので、自己流は体を痛める原因になります。以前クライアントさんで、腰振りダンスでやせた主婦の方のレッスンを受け、股関節を痛めたり靭帯を切ったりした方がいらっしゃいました。これは運動の専門家から見れば壊して当然な動作の繰り返しをしていました。関節には動かし続けると弱い方向があり、過剰に繰り返すと関節がダメージを受け、壊れる原因になるからです。

YouTubeではいろいろなワークアウトが発信されていますが、情報の信憑性は問われていない状況です。股関節や靭帯を切った、ヘルニアを併発させたなどの声はよく聞きますので、素人の発信するワークアウトで運動するのは、気をつけていただきたいところです。

●下半身をとにかく強化。腹筋は後回しでOK



――最後に、今回は自宅や自分でできる運動を中心にお話をうかがいました。読者のなかには、運動を習慣化させるためにジムの活用を考える方もいると思います。その場合、トレーニングはどういった点に気をつけたらよいか、教えてください。

中野さん:トレーニングは下半身を中心におこなってください。体を鍛える際、大筋群を動かしてあげることが、効率的な体づくりのポイントです。人には下半身(お尻を含む下肢)、胸、背中の順番で大きな筋肉がついています。このなかに、筋トレの代表的なイメージにもなっている腹筋は入っていません。筋肉量を増やしたりおなかの脂肪を落としたりしたくて運動するのであれば腹筋運動を優先するのではなく、下半身のトレーニングを中心におこなっていくのがよいでしょう。

またランニングをしている方は、走ることで下半身の運動になっていますので、筋トレをする際は胸や背中をおこなえば大丈夫です。このように自分の体をどうしたいか、どんな運動を組み合わせるかでトレーニングも異なっていきます。まずは運動をイベントにするのではなく、習慣化することを目指してください。筋肉は年齢が上がっても、時間こそかかりますが必ずつくものです。

私の103歳の祖母も、98歳で筋トレを始めて今もスクワットなどをこなしています。非常事態だからと体の変化から目を背けるのではなく、いつまでも健康な体と心を保つために、今できることから始めていただければと思います。

<取材・文/おおしまりえ>

●教えてくれた人
【中野ジェームズ修一さん】



フィジカルを強化することで競技力向上や怪我予防、ロコモ・生活習慣病対策などを実現する「フィジカルトレーナー」の第一人者。2014年からは、青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くから「モチベーション」の大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとしても活躍を続けている。著書多数、近著に『フィジカル×メンタル 最新研究が実証した疲れない体大全
』(SBクリエイティブ刊)、『60歳からは脚を鍛えなさい 一生続けられる運動のコツ
』(PHP研究所刊)がある