ここ最近、自炊をする人の割合が急激に増えている。

背景にはもちろん、コロナ禍による外出自粛や飲食店の営業自粛、時短営業などの影響がある。今なら春から一人暮らしを始め、節約のために自炊に取り組み始めた人も多いだろう。いずれにしても、急に料理をすることになって、あたふたしている人は少なくない。

バズレシピの生みの親、料理研究家のリュウジさん(撮影/難波雄史)


そこで今回は、3月に『バズレシピ 真夜中の背徳めし』(扶桑社)を上梓した人気料理研究家・リュウジさんに、初心者でも簡単に、継続して料理を作るためのコツや心構え、おすすめレシピなどを聞いた。

○バズレシピのこだわりは“再現性”

――まずは、リュウジさんが料理を始めたキッカケなどを教えていただけますか?

もともと15歳くらいから趣味でよく自炊していたのですが、21歳のときに友達から「一緒にレストランやらないか? 」と誘われたんです。それまでパスタみたいな簡単なものしか作ってこなかったのですが、「それなら何でも作れるようにならないといけないな」と思い、本格的に勉強を始めました。結局、その友達とは一緒にできなかったんですけどね。

――では、料理は我流なんですか?

我流ですね。料理人としてお店で働いたのは3カ月間だけです。イタリアンのお店だったのですが、我流で勉強していたので、初日からピザ場を任されました。そもそも料理を学びたかったのではなく、レストランを経営するために食材の管理や処理の方法、仕込みの流れなどのノウハウを学ぶのが目的でした。

――いきなりピザ場とは、すごいですね。リュウジさんと言えば「バズレシピ」が人気ですが、SNSやYouTubeに公開するためのレシピを考える際、どんなことを心掛けていますか?

「再現性」ですね。どんなに素晴らしいレシピを公開しても、レシピを見て作るのは僕じゃないわけですから、“僕以外が作っても美味しくなるレシピ”でなければ何の価値もないんです。いろんな料理家がレシピ本を出していますが、再現性に乏しいことが多いと感じています。

撮影/難波雄史


――なるほど、再現性ですか。

僕は、もともと「料理を好きな人」をターゲットにしていません。世の中を見れば、自分で料理をする人はだいたい3割くらいで、残りの7割は自炊しないわけですよ。普通のレシピ本は3割の料理好きに向けたものですが、僕は7割のほうを見ています。だから、コンビニで買える食材や、火や包丁を使わない調理法など、手軽で再現性の高い料理を考案して、「料理ってこれくらいのものでもいいんだよ」「だから作ってみてくださいね」と伝えているんです。

○料理初心者が料理を楽しむためのコツとは?

――では、料理の初心者が自炊を続けるためのコツなどはありますか?

僕が提唱しているのは、作った料理の写真を自分のSNSにアップすることです。自分で食べるためだけに料理を作っていると、どうしてもモチベーションは下がってきます。であれば、「いいね」をもらうために作ればいい。SNSを意識することで、「ちゃんと盛り付けよう」「もっとレパートリーを増やそう」と考え、モチベーションも上がるはずです。自炊している人とSNS上で繋がれるというメリットもありますしね。

――たしかに、自然と努力したくなりそうですね。

あと、料理って一度嫌いになったら最後です。二度と作りたくなくなっちゃう。料理を嫌いにならないよう、「無理しないこと」も大切です。作りたくないときは惣菜に頼りましょう。罪悪感を持つ必要なんてまったくありません。

撮影/難波雄史


――料理が苦手でも美味しいご飯を作るコツはありますか?

やはり料理家のレシピを見るのが一番の近道です。「レシピ本に頼らないで作ったほうがいい」という風潮もありますが、レシピを見ないで作った料理とレシピを見て作った料理、味が一緒ならどっちでもよくないですか? 料理家が長い時間をかけて、試行錯誤しながら考えたレシピ通りに作れば、100%美味しい料理ができるし、レシピ本も1,000円程度で買えるんですから、こんなにいいシステムはないですよ(笑)

――『背徳めし』には、冒頭のオススメ調味料に「焼肉のタレ」や「麺つゆ」が挙げられていて新鮮でした。

レシピに調味料が5つ以上書いてあると、普通は作る気にならないんですよ。計量も面倒くさいでしょうし。でも、麺つゆには醤油、酒、みりん、砂糖、出汁と、最初から5種類の調味料が入っています。焼肉のタレにはニンニクや味噌も入っていますよね。いろんな調味料が調合されているので、料理の時間が一気に短縮できるんです。

○リュウジさんイチオシ! 簡単&美味しいコスパめし

――料理初心者や料理が苦手な人にオススメの食材や調理方法はありますか?

今回の『背徳めし』で言えば、「ウスター鶏チャーシュー」はオススメですね。下処理もいりませんし、つけ汁に漬けておけば保存も効きます。大体1食で150gくらいの肉を食べれば満足できると思うので、300g程度の鶏肉を一回で料理して、1日目に半分、翌日にもう半分という食べ方もいいと思います。

ウスター鶏チャーシュー(『バズレシピ 真夜中の背徳めし』より)


――鶏肉はやはりオススメの食材ですか?

鶏肉は安くて美味しいからオススメですね。スーパーでも100gで100円くらいですし、業務用スーパーなら2kgで700円くらいの鶏肉も売っています。コスパがすごくいいので、そういう食材を工夫して使うといいと思います。

――この本の中で、「悪魔のシャウエッセン炊き込みごはん」が個人的に衝撃的でした。簡単でお金もかからないのに満足度が高そうですよね。

悪魔のシャウエッセン炊き込みごはん(『バズレシピ 真夜中の背徳めし』より)


シャウエッセンの燻製の香りが米に移って、めちゃめちゃ美味いんですよ! しかも、炊飯ジャーで小一時間炊き込むと、皮はフニャフニャになると思うでしょう? でも、パリパリのままなんです。

料理には娯楽が必要です。ぜひ、こういう「スゲェの食ってるな! 」「こんな雑に作ってるのに美味い! 」という解放感を味わってほしいですね。ちなみに、この「悪魔のシャウエッセン炊き込みごはん」は、この本のために開発したレシピです。

――ほかに『背徳めし』のレシピの中で自信作はありますか?

「旨塩ジューシーチキン」も自信作ですね。最初はレンジで唐揚げを作ろうとしたのですが、なかなかできなかったんです。唐揚げにはできなかったけど、その状態でも本当に美味しかったので、「じゃあ、名前に“唐揚げ”って付けなければいいんじゃない? 」という話になって、完成としました。

旨塩ジューシーチキン(『バズレシピ 真夜中の背徳めし』より)


柔らかくて、すごくジューシーなんですよ。洗い物もほとんど出ません。あとは「ぺぺたまごはん」ですね。

――「ぺぺたまごはん」も簡単で美味しそうですね。

これは虎の子のレシピです。まったく世に出してこなかったレシピなので、この本が初出になります。めちゃめちゃ自信あるので、「もう世に出しちゃっていいのかな〜」と渋りました(笑) 普通、卵かけご飯って生卵を使いますよね? でも、「ぺぺたまごはん」は卵が半熟でカルボナーラみたいな食感になるので、それがとにかく美味しいんですよ。僕も大好きです。

ぺぺたまごはん(『バズレシピ 真夜中の背徳めし』より)


――これまで多くのバズレシピを世に発信されてきましたが、リュウジさんの中でこれまでで一番の“バズレシピ”だと思うレシピはを教えてください。

やはり、「じゃがアリゴ」です。あんなに多くの人が試したレシピはほかにないんじゃないですか。子どもまでやっているわけですからね。我ながら傑作です!

恐ろしく簡単に今流行りのフランスの伸びるチーズマッシュポテト「アリゴ」をじゃがりこで錬成することに成功しました「じゃがアリゴ」じゃがりこ一個に塩とさけるチーズ一本裂いて入れ熱湯150cc入れ蓋し数分待ち混ぜるだけじゃがりことさけるチーズが旨いから当然旨い、約束された勝利、お勧め pic.twitter.com/WtLdmBAUfN- リュウジ@料理のおにいさんバズレシピ (@ore825) January 28, 2019

――最後に、日々の献立を考えるのが面倒だという人も多いと思いますが、何かアドバイスをいただけますか?

1食ごとにバランスをとろうとするのではなく、1日でバランスを計算するといいのではないでしょうか。「昼は肉が多かったから、夜は野菜をたくさん食べよう」といったように。1食で完璧なバランスをとる必要なんてないので、1日1食は自分の好きなものを食べて、そこで足りなかった栄養をほかのタイミングで補う。そうやって帳尻を合わせれば大丈夫です!

――料理は頑張りすぎない、ということが大切なのですね。ありがとうございました。

○『バズレシピ 真夜中の背徳めし』(リュウジ 著/扶桑社/1,100円)

テレビ朝日の情報バラエティ番組『お願い!ランキング』の人気コーナー「リュウジのバズ飯教室」で紹介されたレシピと未公開レシピを合わせて100レシピ掲載。まるでハンバーガーを食べているような味わいの「ベーコンエッグWチャーハン」やお菓子で作れるおしゃれ料理「じゃがレット」など真夜中でも、見ると思わず食べたくなるレシピが多数掲載されている。

○取材協力:リュウジ

料理研究家。テレビ・漫画のレシピ監修や企業とのタイアップによるレシピ開発、自治体での講演などを多数手掛ける。著書は累計部数85万部以上にのぼり、2020年には著書『ひと口で人間をダメにするウマさ! リュウジ式悪魔のレシピ』(ライツ社)で料理レシピ本大賞を受賞。「食べたいものを今日作る! 」をコンセプトに、TwitterやYouTubeで日々レシピを発信している。(写真撮影/難波雄史)