代えるべきか、待つべきか。

 J1の横浜FCが、監督交代に踏み切った。

 J1復帰1年目の昨シーズンは、下平隆宏監督のもとで15位の成績を残した。9勝6分19敗での勝点33は、シーズンによっては残留が微妙な数字である。ただ、昨シーズンはコロナ禍でJ2降格がなかったこともあり、下平監督のもとで今シーズンを迎えることになったのだろう。

 オフには積極的な補強を進めた。GK六反勇治、MF高橋秀人、FW伊藤翔、渡邉千真、小川慶次朗、ジャーメイン良、クレーベといった計算の立つ選手を集めた。J2の水戸で最終ライン両サイドを担っていた前嶋洋太、J3の秋田のJ2昇格に貢献したCB韓浩康らも獲得している。とくに前線は多彩な組み合わせが可能となった。DF小林友希、MF佐藤謙介、FW斉藤光毅らがチームを離れたものの、戦力アップを実現したと言っていい。

 ところが、開幕から8試合を終えて1分7敗と勝星がなかった。フロントは下平監督とともに戦い続けるのではなく、ユースを指揮していた早川知伸監督の内部昇格という決断を下した。

 横浜FCの監督交代は、コロナ禍のレギュレーションとセットで語られることが多い。20チームで争われている今シーズンは、下位4チームが降格するというものだ。

 16位までが残留できると考えれば、例年どおりである。しかし、現場の皮膚感覚はそうもいかない。2チームだけでなく4チームが降格するという現実は、中位から下位でしのぎを削るチームには重い。シーズン序盤にして、失った勝点が恨めしい。

 早期の監督交代として思い出されるのは、18年の浦和レッズだ。開幕から5試合を2分3敗で終えると、堀孝史監督との契約を解除した。大槻毅育成ダイレクターを監督代行に据え、オズワルド・オリヴェイラへつないだ。

 19年のヴィッセル神戸も、7試合終了時点でファン・マヌエル・リージョとの契約を解除している。こちらは本人の意向によるもので、実質的な解任ではなかったが。
今回の横浜FCのケースは、近年のJ1リーグではこの2チームに次いで早いものとなる。J2降格に対する危機感を強く抱いているからこそ、早めに手当てをしたと考えられる。

 横浜FCと同じように、開幕から白星を得ていないチームがもうひとつある。ベガルタ仙台だ。

 手倉森誠監督が13年以来の復帰を果たした今シーズンは、17位に低迷した昨シーズンからの巻き返しが期待されていた。しかし、オフの移籍市場で主力を失い、代わりとなる補強もままならなかった。

 手倉森監督の帰還は大きな話題を集めたが、戦力はJ1でも下位と言わざるを得ない。サンフレッチェ広島との開幕節で攻守に存在感を見せつけた関口訓充が、2節の川崎フロンターレ戦のケガで戦線離脱するアクシデントにも見舞われた。

 果たして、川崎F戦で1対5の大敗を喫すると、サガン鳥栖、湘南ベルマーレ、FC東京、神戸、徳島ヴォルティスに敗れた。未消化となっている5節のガンバ大阪戦を除いて、1分6敗と出口の見えないトンネルに迷い込んでしまった。

 手倉森監督を招へいするにあたって、仙台のフロントは4つの条件をあげていた。「J1での指導経験がある、仙台というクラブ・チームに対して思い入れがある、経営状況に一定の理解を示してくれる、世間の納得感がある」というものだ。これらの条件をひとつでも多く満たす監督を選ぶとし、佐々木知廣代表取締役社長は手倉森監督について、「すべてに該当する」とした。

 J1での指導経験がある監督は数多い。しかし、仙台という地域へのロイヤリティーと、クラブの経営状況を理解する人材は、少数にとどまる。そのうえで世間の納得感を得られる人材となると、手倉森監督を上回る選択肢はいない。サポーターも巻き込んで戦っていける唯一無二の指揮官として迎えただけに、早期の監督交代には踏み切らないのだろう。戦力を客観的に診断したうえで、苦戦は想定済みだった、とも理解できる。

 4月11日の横浜F・マリノス戦は、0対0のドローに持ち込んだ。前田大然や仲川輝人のスピードに手を焼きながらも、指揮官をして「コレクティブな守備で対抗してみせた」という一戦だった。クリーンシートは今シーズン初めてで、ひとまず連敗を止めることができた。

 一方、横浜FCは10日のサガン鳥栖戦に0対3で敗れた。早川新監督になっても、負の連鎖をすぐに断ち切るのは難しい。

 どちらのチームの選択が正しいのか。どちらも正しいのか。それとも、どちらも見誤っているのか。答えはシーズン終了まで待たなければならないが、大切なのは監督を代える、あるいは代えないという判断を下したあとで、思考停止に陥らないことだ。現場の声を聞いて、継続的なサポートを続けていかなければならない。