「熊本地震」関連倒産 発生推移

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発生から5年、いまなお続く倒産

 2016年4月14日に熊本県と大分県を襲った「熊本地震」から今年で5年となる。政府は被災者や被災地域に助成が特に必要であるとして、激甚災害に指定し復旧に努めた。当時、熊本県益城町では震度7が観測されるなどその被害は大きく、熊本県のシンボルである熊本城では石垣の崩落や外壁の破損などが発生した。熊本県南阿蘇村立野と河陽字黒川間の黒川をまたいで架橋された「阿蘇大橋」も同地震で崩落するなど、交通インフラやライフラインにも甚大な影響を及ぼした。

 一方、阿蘇大橋に替わる「新阿蘇大橋(全長525メートル)」が3月7日に開通したほか、熊本城では天守閣の復旧が完了し、4月26日から天守閣内部が一般公開される予定で、復旧に向けた明るいニュースも多く聞かれる。

 こうしたなか、2016年4月から2021年3月までに発生した「熊本地震関連倒産」は62件、負債総額は276億3100万円となった。態様別では破産が58件で最も多く、特別清算と民事再生法は各2件発生した。初めての同関連倒産は、2016年6月に民事再生法の適用を申請した(株)ヤマイ(熊本市北区、不動産賃貸、負債約71億円)。

 年別でみると、2017年3月までの震災発生後1年間で12件、2年目は13件、3年目は12件、4年目は14件、5年目は11件と、年間12件前後で推移している。1年間の件数ではピークとなる4年目(2019年4月〜2020年3月)の倒産理由としては、熊本地震により本店や在庫が被害を受けたことにともなう借入金の増加で資金繰りがひっ迫、事業継続を断念するといった直接的な被害を受けた企業が多かった。その他、被災後の観光客が大幅に減少し売り上げが落ち込むといった間接的な被害を受けた企業が散見されたほか、2018年6月28日から西日本を中心に被害をもたらした「平成30年7月豪雨(通称:西日本豪雨)」の影響も相まって資金需要が高まったことで借入金が増加。支えきれず倒産したといった事例も見受けられた。

都道府県別では熊本が最多

 都道府県別にみると、62件中、九州での発生は59件だった。最も件数が多かったのは熊本県で48件。同県と同様に被害が大きく、別府市や由布市では震度6弱が観測された大分県が4件で続いた。九州以外では、山口県、愛知県、群馬県で各1件発生した。

一般消費者向け事業が半数以上 店舗の被災や、観光客減にともなう売り上げ減少も

 業種別にみると、小売業の22件が最も多く、サービス業の13件、卸売業の10件が続いた。小売業の内訳では、飲食店が8件で最多。一般消費者向けに事業を行う小売業やサービス業の倒産が計35件発生し、半数以上を占めている。両業種の倒産要因としては、店舗が被災したことで休業や閉店を余儀なくされ、事業継続が困難となった企業が最も多く、震災後、観光客の減少にともない売り上げが減少したといった企業も散見された。

長引く地震の影響 「記憶の風化」防ぐため、自然災害への備え必要

 2016年4月に発生した熊本地震から5年が経過し、新阿蘇大橋の開通や熊本城天守閣の復旧完了など明るいニュースが聞かれるものの、「熊本地震関連倒産」の件数は毎年10件以上発生しており、その被害の大きさや長引いている現状が見て取れた。近時は「熊本地震の影響で観光客が遠のき、その後、熊本地震に関わる「ふっこう割」の活用やインターネットサイトでの集客強化などで利用客の確保に取り組んでいた。しかし、新型コロナウイルスの影響で利用客が更に減少していた」(大分県、ホテル運営)といった事例も出ている。今後、熊本地震の影響が拭えないまま新型コロナウイルスが追い打ちとなり事業継続を断念するケースが発生する可能性がある。

 自然災害が多い九州では、地震や豪雨などが倒産の要因となり得ることは考慮しておかなければならない。その対策として事業継続計画(BCP)を策定しておくことが重要だ。しかし、帝国データバンク福岡支店が発表した「事業継続計画(BCP)に対する九州企業の意識調査(2020年)」では、「策定している」割合が11.6%と全国平均(16.6%)より低く、全国10ブロックのなかで最も低い結果となっている。熊本地震の記憶が風化していくのを防ぐためにも、同地震から得られた教訓を活かしたBCPの策定や自然災害への備えを官民一体となって講じていく必要があろう。