グラビアアイドルにして元女子プロレスラー・ゆずポンこと、愛川ゆず季が今、改めて振り返るグラレスラーの生き様とは
グラレスラー、"ゆずポン"こと、愛川ゆず季がリングに帰ってきた。去る3月3日、日本武道館にて『レックPresents スターダム10周年記念 ひな祭り ALLSTAR DREAM CINDERELLA』が開催され、愛川ゆず季が一夜限りながら約8年ぶりの復帰を果たした。
愛川はグラビアアイドルやタレントとして活躍。2010年にプロレスデビューし、スターダムには旗揚げから所属。グラレスラーとして、シングルやタッグでチャンピオンに輝くなど濃密な2年半のレスラー生活を終え、2013年に引退した。
当日の試合は女子プロレスラー24名によるオールスターランブル(一定間隔で選手が登場する形式のバトルロイヤル)。長与千種や井上京子らレジェンド選手たちも入り乱れる大混戦の中、愛川は『爆乳戦隊パイレンジャー』の主題歌をバックに颯爽と登場。ゆずポンキックを繰り出すなどで最後まで残るものの、現在スターダムで活躍中のウナギ・サヤカ相手に惜敗。勝利を飾ることはできなかった。
『週刊プレイボーイ』は試合前より彼女に密着。その上で試合への思いをはじめ、現役時代の日々、現在の生活などを語ってもらった。
【密着フォト】武道館の試合写真、練習風景、息子との日常風景など
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――素晴らしいゆずポンキックを決めるなど、引退後8年経ったとは思えない戦いぶりでした。手応えはいかがでしたか。
愛川 無我夢中でしたけど、魂のこもった戦いができたと思います。もちろん最後、勝てなかったのが本当に悔しいですけど(笑)。
――登場シーンの『パイレンジャー』の曲が流れてきた時は思わず熱くなりましたよ。
愛川 最高でしたね(笑)。聞いてくださった方が少しでも当時を思い出していただけたらうれしいですね。
愛川のテーマソングである「爆乳戦隊パイレンジャー」をバックに堂々と登場。場内は華やかなムードに包まれた
レジェンド、長与千種にゆずポンキックを炸裂させる。「まさか同じリングに上がれるとは思ってなかったのでドキドキしましたが思い切っていきました!」
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――そもそも今回、復帰を決めた理由は?
愛川 スターダム10周年と小川さん(ロッシー小川/スターダム・エグゼクティブプロデューサー)を喜ばせたくて。数年前から「10周年大会に出て欲しい」と言われていたんです。当然やりますよね。
――復帰発表後から「81日後に戦う主婦」というタイトルで連日、練習風景をSNSでアップしていました。
愛川 当時と違うのは、結婚して母になったこと。いまの自分をリアルに見せたいなと思ったんです。朝、息子を預け、走った後にジムや練習場へ行き、また息子を迎えに行く。それを毎日やって。
あとやっぱり私は、過去に女子プロレス大賞を2度いただきましたから。ファンの方も当時の私が見られると思って期待されてる。その道のりも見てほしいなって思ったんです。8年のブランクがあったので最初は体が動かず大変でしたけど、次第に感覚を取り戻せました。
――改めて聞きますが、もともとグラビアアイドルの愛川さんがプロレスラーになったのは、自分の意思ではなかったとか。
愛川 私、ありがたいことにデビュー数ヶ月で雑誌の表紙になったり写真集を出したり、グラビアアイドルの夢が叶って。次のステップへ迷走していた頃、事務所のマネージャーさんから提案されました。
その頃、同じ事務所にいた女子プロレスラー風香さん(注:愛らしいルックスでアイドルレスラーとして活躍。スターダムGMも務めた)が引退したんです。なので空いたアイドルレスラーの座を狙えると。私はグラビアアイドルにしては体が大きかったので向いてると思われたんでしょうね。
――それをすんなり受け入れたのはなぜ?
愛川 なんとなく断わりづらかったというのもありますが、根拠のない自信もあって。グラビアのファンの方が応援してくれたら心強いですし、もしかしたらこの世界なら自分はトップに立てるんじゃないかと思ったんです。
それから風香さんと半年かけて練習し、小川さんを紹介してもらい、デビューが決まりました。その間、お金がなくなって、バイトしたり本当に大変だったこともありましたね。
――デビュー戦(2010年10月31日)はトップ選手の高橋奈苗(現・奈七永)さん。健闘するも、敗北でした。
愛川 悔しかったです。でもその時「自分の居場所はここだ」と思いました。プロレスには昔からやってきたバレエやテコンドー、グラビア、すべての要素が詰まってる。自分の武器というか、よさを全部発揮できると思って。あとプロレスは自分の思うがままにやっていい。その自由さにもハマりました。
――それ以降、グラビアアイドルとレスラーを両立させ、グラレスラーとしてチャンピオンにも輝くなど活躍。でもプロレスって相当ハードじゃないですか。怪我も多いだろうし。
愛川 アザは当たり前。両足骨折をして腰を痛め、歯も欠けました。さすがにグラビアのお仕事の時はどうしようか悩みましたよ。
――それでも続けたのはなぜ?
愛川 やっぱり悔しさですよね。
――悔しさ?
愛川 そう。デビュー前から「グラビアアイドルがやれるのか」みたいな声が聞こえてくるんです。それはチャンピオンになっても収まらない。プロレス界の内外で大勢のアンチがいました。それを黙らせたかった。グラビアアイドルだからこそ、普通の女子プロレスラー以上に、体を張って見せないといけないって一心だったんです。
大会前は連日、ジムに通い練習に励む。ミット打ちなど現役時代そのままの激しさで自らを追い込んだ
――試合前はどんな感じだったんですか?
愛川 かなりナーバスでしたよ。数日前から誰とも喋らなくなるし、ケータイもほとんど見ない。毎試合、精神的に追い込まれていましたし、みんなの前からいなくなりたいとか思ったりしていました。悔しさで自分を奮い立たせてるけど、現実の自分は強いわけじゃない。毎日がイヤでたまらなかったです。
――プロレスを楽しいと思ったことは?
愛川 正直、ないです。あ、一度だけ。DDTさんの大会にゲストで出た時だけかな。
ーーグラレスラーであることが自分を奮い立たせる一方、苦しめてもいたんですね。
愛川 女子プロレスという仕事を周りが理解してもらえないことにも苦しんでましたね。例えば、深夜のラジオをやって、そのまま試合っていうスケジュールが組まれてしまったことがあって。もちろんお仕事いただけるのはありがたいですけど、そんなちゃんと寝ないでリングに上がるなんて怖いじゃないですか。一歩間違えたら大事故になる世界ですから。それもすごく悔しかったです。
――複数のベルトを獲り、女子プロレス大賞を2度獲得した華々しいキャリアの陰で、ご自身を支えていたのは悔しさへの反骨心だったと。もうプロレスをやめようと思ったことは?
愛川 一度だけあります。ダンプ松本さんとの試合です(2011年8月21日)。
――ダンプさんが竹刀やチェーンの凶器を使うなど反則を連発。愛川さんは見せ場を作れないまま、最後はダンプさんがリングアウト。なんとか勝利を収めましたが、不完全な決着となりました。
愛川 知名度のある方とやりたいと言って、カード組んでもらったんですがあまりにスタイルが違いすぎて。こんなのは私が好きなプロレスじゃない。これがプロレスならもうやりたくないって。普段の鬱憤(うっぷん)もあって実家に帰りました。しばらくして普通に戻ってきたけど(笑)。
――2012年末に女子プロレスの引退を表明。翌年4月29日に2年半のプロレス生活に終止符を打ちました。
愛川 引退を決めたのは、2度目の女子プロレス大賞を獲った頃です。心身ともに限界だったんです。また当時もう30歳前でしたし、ビジュアルを売りにしていたので、続けてもいい形ではやっていけないかなとも思ったんです。
白川未奈、ウナギ・サヤカ、愛川ゆず季(左から)。オールスターランブルでは新旧グラレスラー3選手が残り、最後の最後まで盛り上げた
――今回8年ぶりに復活して、いまのスターダムをどう思います?
愛川 うらやましいですね。武道館でやれるんですから。通常の大会でも入場時に花火が上がるなど演出も華やか。私もそういう中でやってみたかったです。いろんなところでスターダムでやりたいと思う選手もいるみたいだし、憧れの場になったんだなと感じます。
――今、愛川さんが改めて思う、プロレスの魅力は?
愛川 負けにも意味があることですね。もちろんやる以上は勝ちにこだわりたいけど、勝つ人だけが注目されるわけじゃない。負けて注目されることはあるし、負けてそこからの成長過程を見せることもできる。私はグラビアアイドルとしていつも怒られてばかりで、ダメだとか崖っぷちだとか散々言われ続けてきました。
でも、そのグラビアがあったからプロレスで自分を生かせることができた。似た境遇の人たちにも「負けを恐れなくていい、頑張れば評価してもらえる世界もあるんだ」って言いたくてやってた部分はあります。
――これはファンの方全員が思うはずですが、今後、女子プロレスラーとして復帰は......?
愛川 それはないです、絶対に。主婦としての生活だって本当に大変だし(笑)。今回はとにかく楽しみたいと思って出場させてもらいました。終わった時「プロレス最高!」と思いたかったんですよね。
練習後、子供を迎えに行った後は、一瞬で母の顔に
「子育ては想像以上に大変でしたね」と笑顔で語る
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すべての取材を終え、ジムでトレーニングする姿、公園で最愛の息子と戯れる姿、決死の形相で戦う姿、戦いを終えてほっとした表情を浮かべた姿......さまざまな愛川ゆず季をとらえた大量の写真をチェックしながら、大事なことをひとつ聞き忘れたことに気づき、メールで質問した。「いまプロレスを好きですか?」。するとこんな言葉が返ってきた。
「大好きだと思いました。私のよさを120%生かしてくれるのは、やっぱりプロレスだったんだなと思いました。当時、初めてプロレスに出会った時のワクワクした気持ちは月日が経っても色褪せず、リングに立つと一瞬にして蘇りました。プロレス、最高でした!」
■愛川ゆず季(あいかわ・ゆずき)
1983年5月16日生まれ。愛媛県出身 2003年グラビアデビューし、雑誌、TVのバラエティなどで活躍。2010年、「ゆずポン祭り」でプロレスデビュー。2011年、12年、2年連続で女子プロレス大賞を受賞。2013年プロレス引退。
取材・文/大野智己 撮影/熊谷 貫(試合)、五十嵐和博