2021年2月17日、静岡県静岡市駿河区にある久能山(くのうざん)東照宮の公式アカウントから、次のような写真付きのツイートが投稿され、話題となっている。

このツイートは、ツイッター上の「#実際に言われたクレーム晒す」というハッシュタグに応じるカタチでツイートされたもののようだ。

こんな気持ちの良い写真を見せられると、思わず行ってみたくなる。

階段から見下ろす真っ青な海が、なんとも爽快だ。しかし、「階段が大変。何とかして」というご意見をよく聞くそうだ。「久能山東照宮の表参道は麓から本殿前まで1159段あり、1957年に日本平ロープウェイが開通するまでは唯一の参拝路でした」というコメントが添えられている。

「当宮の職員は今でもこの階段で通勤しています」

と付け加えられた、「国宝 久能山東照宮」公式アカウント(@kunozan_toshogu)によるこのツイートには、5700件を超える「いいね」が付けられ、じわじわと拡散し続けている(2月28日夕現在)。

いったいどんな階段なのだろうか? Jタウンネット記者は久能山東照宮に電話で詳しい話を聞いてみた。

家康公の愛刀「ソハヤノツルキ」とは?


「国宝 久能山東照宮」公式(@kunozan_toshogu)のツイートより

Jタウンネットの取材に電話で答えてくれたのは、久能山東照宮の職員だ。毎日、階段を登って通勤している一人というわけだ。

「階段は、1159段ありますから、昔から『いちいちごくろーさん』と呼ばれていました。
私たち職員は10分くらいで登ってしまいますが、一般の参拝客は20分ほどかかると思います。人によっては、30分くらい覚悟した方が良い場合もあるかもしれません」

別ルートとして日本平ロープウェイがあるが、そちらは所要時間約5分だという。

しかしコロナ禍の昨今、密になるのを避けて、あえて階段を選ぶ参拝客も増えているような気がする、と担当者は話す。


「国宝 久能山東照宮」公式(@kunozan_toshogu)のツイートより

確かに天気さえ良ければ、歩くのに適した靴を履いて、20分ほど階段を登るのは、かえって健康に良いかもしれない。

ましてや眼下に広がるのは、青い駿河湾に、打ち寄せる白波だ。清水港、三保の松原、また富士山を仰ぐ、壮大な風景は、歩く疲れを忘れさせてくれるに違いない。

ツイッターにはこんな声が寄せられている。

「昨年登らさせていただきました。 確かに大変でしたが、あの風景を眺めながらの登山!は感動ものです」
「ご褒美の景色は最高に綺麗でした」
「私も石段派。伊豆半島、お日様煌めく駿河湾の波頭、鳥の囀り、樹々を渡る風。好きなペースで、五感愉しませつつ登る悦び。大好きです」


「国宝 久能山東照宮」公式(@kunozan_toshogu)のツイートより

ところで、「東照宮」とは徳川家康をまつる神社のことだ。

栃木にある日光東照宮はあまりにも有名だが、久能山東照宮って、いつごろからあるのですか?

Jタウンネット記者の初歩的な質問に、担当者は苦笑しながら答えた。

「当宮は、もちろん徳川家康公をご祭神としておりますが、徳川家康公が亡くなられたのは1616年、遺骸は久能山に埋葬され、翌17年、久能山東照宮が創建されました。
当時最高の建築技術・芸術が結集された、権現造、総漆塗、極彩色の御社殿は江戸初期の代表的建造物として国宝に指定されています」

徳川家康は、自分の死後について「遺体は駿河国の久能山に葬り、江戸の増上寺で葬儀を行い、三河国の大樹寺に位牌を納め、一周忌が過ぎて後、下野の日光山に小堂を建てて勧請せよ、関八州の鎮守になろう」(「本光国師日記」より)という遺言を残していたそうだ。

つまり日光東照宮よりも前に、久能山東照宮は建てられた、というわけだ。


「国宝 久能山東照宮」公式(@kunozan_toshogu)のツイートより

逆に、担当者から、「ソハヤノツルキってご存じですか?」と、質問が飛んできた。恥ずかしながら無知蒙昧な記者は、「何ですか?それ」と聞くしかなかった。

「家康公の愛刀として有名な日本刀で、当宮が所蔵しております。
平安時代後期から鎌倉時代に作られたとされる名刀で、正式名称『革柄蠟色鞘刀無銘(伝三池光世作) 』として、国の重要文化財に指定されています。
昨今の刀剣ブームのおかげで大変な人気でして、公開期間は限られているのですが、熱心なファンが大勢来られるのです」

この刀は、筑後国(現在の福岡県北部)の刀工「三池典太光世」の作とされる太刀で、征夷大将軍・坂上田村麻呂が佩用した「楚葉矢(そはや)の剣」を写したものとされていて、「ソハヤノツルキ ウツスナリ」の切付銘がある。

人気オンラインゲーム「刀剣乱舞」の中では、不思議な霊力を持つキャラクター(刀剣男士)として登場するようだ。


4月6日まで開催中「徳川慶喜展」展示、徳川慶喜公所用「卯花威(うのはなおどし)胴丸」 「国宝 久能山東照宮」公式(@kunozan_toshogu)のツイートより

NHK大河ドラマ「青天を衝け」に登場する徳川慶喜公のお宝も所蔵されているのですか? と聞くと、担当者は待ってましたとばかり、こう話した。

「今まさに、『徳川慶喜展』を開催中です。15代将軍慶喜公ゆかりの資料を、紱川記念財団所蔵品を織り交ぜながら年代別に展示しています。草磲剛さんが演じる慶喜公もお召しになっていた陣笠は、同じ形の資料がご覧いただけます」
「大政奉還の後、長くお住いになった地である静岡の人々から『けいきさん』『けいき様』と親しまれた、慶喜公のお人柄や意外な一面、魅力に触れることができる機会かと思います。期間は、4月6日までです」

大河ドラマといえば、前回の「麒麟が来る」最終回が不思議な終わり方でしたね、という余談になった。

「光秀=天海説ですか?当宮も天海僧正が造ったと言われていますが......」と担当者。「エッ、本当ですか?久能山東照宮も天海ですか!それでは、そちらにも桔梗紋とか、麒麟の意匠とか......、あったりしませんか?」

意気込む記者に、即座に「いえ、ございません」という返事が返ってきた。残念!

天海僧正が造営した伝えられる久能山東照宮、家康公の愛刀「ソハヤノツルキ」、最後の将軍・慶喜の甲冑や陣笠、そして駿河湾の絶景......。

ここには、1159段の階段を、「いちいちごくろーさん...」と、登ってみるだけの価値は十分ありそうだ。