日本の未来は、残念ながらそう明るくなさそうです。ただ、未来を知り、何をするべきか考えれば、豊かな人生になると成毛眞氏は言います(写真:metamorworks/PIXTA)

あなたは2040年に何歳だろうか? そのころの日本はどうなっているのだろうか?

元日本マイクロソフト社長であり、起業家であり、投資家でもある成毛眞氏は「今あるものを見れば、未来は読める」という。高齢化が進み、経済成長も見込めない日本の未来は、残念ながらそう明るくない。ただ、未来を知り、何をするべきか考えれば、豊かな人生になる。本稿では『2040年の未来予測』より、一部抜粋、編集し紹介する。

新しいテクノロジーに、多くの人は反対する

新しいテクノロジーが登場したとき、多くの人はそれに反対する。

例えば、19世紀末にカメラが、20世紀初頭に映画が、20世紀終わりにテレビゲームが登場した際、当初は受け入れられなかった。「カメラに写ると魂をとられる」などといわれたものだ。しかし現在、この3つがない暮らしなど考えられるだろうか。

あなたにも新しいテクノロジーが現れたときの経験がある。携帯電話だ。

1970年代末に携帯電話が登場してしばらくは、戦場での無線機のような大きさだった。その不格好さに誰もが「いらない」と言った。その後、1999年にNTTドコモの「iモード」が登場しても、電話にそんな機能は必要ないと指摘されたし、iPhoneが登場した際も、おもちゃと揶揄された。

だが今や子どもから大人まで、寝る間を惜しむどころか、歩きながらもスマホをいじることが社会問題になるほど生活に欠かせない存在になっている。そしてiPhoneが登場したのはわずか13年前にすぎない。

新しいテクノロジーに対して、ふつう、人は懐疑的になる。そういうものなのだ。だからこそ、いち早くその可能性に思いをめぐらせられる人にはチャンスがある。

新しいテクノロジーが出てきたときに懐疑的になるのが人間の性だといったが、おそらくこれを読んでいるあなたは今より未来をいいものにしたい人だろう。

そのためには、テクノロジーがどう世界を変えるのかを知っておかなければならない。拙著『2040年の未来予測』では、さまざまな暗い未来も予測しているが、それを照らすのは、テクノロジーの進歩だけだ。

5Gとはそもそも何で未来の何を変えるのか

目下6Gが話題だが、その前に5Gを知っておこう。

運転手のいない自動運転バス、ドローンによる配達、自分が入りたいと思うときに自動で沸かしてくれるお風呂、遠隔手術、前に立つだけで健康診断してくれる鏡……。2040年、これらは実用化されているだろう。こうした世界に向けてわれわれは走り出している。

そしてその基盤となる技術が通信だ。「多くの情報を高速で伝えることで可能になる」技術は通信が土台である。そして、その基本になるのが「5G」だ。

現在大騒ぎされている5Gだが、NTTドコモやソフトバンクがCMで声高に叫んでいるのも聞いたことがあるだろう。

5Gとはそもそも何だろうか。「ファイブジー」と読むのが一般的で、日本では2020年から実用化されている。5Gは国際規格である。

無線の規格は、世界で周波数や通信方式の規格を統一している。これはあたりまえの話で、世界で統一されているからスマートフォンはアップルだろうがサムスン電子だろうが端末を問わないし、国内外どこからでも通信できる。

ではここから、5Gをわかりやすく説明するために、携帯電話を例として、通信の世界がこれまでどのように変わってきたか見てみよう。

通信の規格は、ほぼ10年ごとに次の世代に進む。日本電信電話公社(現NTT)がアナログ方式の1Gを開始したのは1979年だ。あのショルダーフォンの時代だ。自動車電話もそうだ。

それから約14年後の1993年にデジタル方式の2Gが始まる。アラフォー以上の方はPHSの記憶があるかもしれないが、PHSが2Gである。

そして、2001年にNTTドコモが「W - CDMA」と呼ぶ方式で3Gサービスを開始する。ここからは多くの人の記憶にあるかもしれない。携帯電話のメールで写真をやりとりするのが不自由なくなったのもこの頃だ。そして、2010年にLTE(4G)が始まった。

世代が代わると何がすごくなるのかというと、通信速度が速くなることと、情報伝達量が増えることだ。ここまでの30年で最大通信速度は約10万倍である。

そして、4Gから5Gへの大きな特長は、さらに高速になり、大容量化が進んだことにある。5Gは4Gの最大100倍の速さになる。

具体的な変化を挙げると、2時間の映画をダウンロードするときに、4Gだと5分かかっていたのが、5Gだと3秒ほどになるといわれている。かつては映画を自宅で見るためにレンタルショップで借りて見ていたのが、すでにもう家にいながら、3秒で見られるようになったのだ。いかに通信技術の進歩が、われわれの生活を変えたかおわかりいただけるだろう。

こうなると、鮮明な映像をストレスなく配信・視聴できるだけではない。AR(拡張現実)やVR(仮想現実)の利用も進むだろう。ポイントは、通信速度が速くなり、情報伝達量が増えるということだ。これが世界を変える。

とはいえ、現在は基地局が限定されていることもあり、しばらくは4Gでつながり、時に5Gがつながるという状況だ。4Gという大海に5Gという島がいくつか浮いているイメージが正しい。

その5Gがさらに進化するのが6Gだ。これまでの歴史を振り返ると、2030年頃に実用化される。

それでは、6Gのすごさは?

6Gは、通信速度が5Gの10〜100倍の速さになるといわれている。すでに2時間の映画のダウンロードが3秒だったのが、瞬きの間、1秒もかからない速さになるわけだ。

スマホなどモバイル機器の利用時に「ちょっと待つ時間」は、われわれを知らないうちにいらつかせている。意図したホームページがなかなか開かなかったり、通信が途切れたりで、心が穏やかでなくなった覚えはあるだろう。数秒短くなるだけでストレスは大幅に減るはずだ。でも、6Gのよさは、もちろんそれだけではない。

5Gでは、室内にある物体の正確な位置把握は簡単ではない。しかし、6Gになると、屋内で何がどこに置かれているかは、数センチ単位の精度で把握が可能になるといわれている。なぜなら、6G時代は屋内外のあらゆる機器がインターネットにつながるからだ。1平方キロメートルあたりの同時接続機器数が、1000万台と5Gの10倍となるとの試算もある。1000万台の機器ひとつひとつがセンサーになることで、多くの情報が集まり、ネットワークによる検知も可能になる。これにより、さまざまなサービスの可能性が広がる。

ネットワークは地上だけでなく、衛星、航空機などでも使える。また、消費電力が減り、省エネにもなるともいわれている。デジタル機器の1回の充電での利用時間が、今の10倍になるのも夢ではない。

高速通信の6Gの登場とともに、ディスプレーやセンサーなどの映像機器も発達すれば、ライフスタイルそのものが変わる。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などは誰もが使うツールになり、家にいながら服を試着したり、モデルルームに行くというサービスが登場するだろう。

5Gと同じく6Gの通信環境も急に整うわけではないが、2030年頃から登場するはずなので、2040年にはあたりまえになっている可能性が高い。

6Gの概要がわかったかと思う。次は、どのようなサービスが可能になるか詳しく見ていこう。

「低遅延」により実現すること

5G、6Gのすごさは高速化だけではない。「低遅延」が実現するともいわれている。聞き慣れない言葉だが、これが最もカギとなる。「低遅延」で実現可能な技術を見ていこう。

「低遅延」とは、読んで字のごとく、「遅延」が低くなること。つまり、通信の「遅さ」が「少なくなる」接続や、通信時のデータのやりとりが途切れなくなるのだ。

5G、6Gになると、通信が途切れる可能性は100万分の1以下になるため、安定した通信が絶対の条件になる産業で利用することができる。

つい20年前までは、インターネットにつながっていないのがあたりまえの状態であった、20年後の2040年はインターネットにつながっていることが自然の状態になる。


それはパソコンやスマートフォンだけではない。身の回りのものがすべて、コンピューター並みの処理能力を持つようになる。コンピューターのチップ(半導体)が、それまでコンピューターとみなされなかったモノの中にまで入り込むのだ。

あらゆるモノにチップを埋め込むという発想は「IoT」と呼ばれるが、20年後には、身の回りのいたるところに何兆個という小さなチップが埋め込まれているはずだ。コンピューターは電気や水道のようなインフラになり、もはやコンピューターという呼称はほぼ消えているかもしれない。あたりまえになるからだ。

ちょっとドアノブを触っただけで、あなたの個人情報から体温まですべてわかる世界――もしかしたら、20年後はそういう世界なのかもしれないのだ。